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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
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485:疑念

「よぉし!また5分だ!

急いで物色して、壁を越えるぞ!」


先程の道具屋と同じ要領で壁に穴を開けて突撃し、武器屋の中を物色する。

俺とパッピル以外の3人は、容量の大小はあれども魔法鞄(マジックバッグ)を持っている。

そちらに自分が使えそうで高価そうな武器を、次々と詰めていっている。

パッピルは害なす魔の杖(レーヴァテイン)があるから武器は漁らず外の警戒しつつ残り時間をカウントしている。


俺も使えそうな武器はないかと探すが、意外にこういう時に一番困るのは俺だ。

どの武器もそこそこに使う。

だから逆に言えば、どの武器でも対して固執がない。

何なら、無手が一番得意まである。

その為の手甲や足甲は既に身につけている。


結果、どれも使えそうでそしてどれも使えず、そのくせ自由に空く両手というモノを重視しがちだからか、あまり“これだ”という武器が見当たらないのだ。


とりあえず手頃な山刀(マチェット)を腰に履き、片手剣を手に取る。


<警告シマス。砲弾に注意。>


その言葉の意味を理解し、皆即座に伏せる。


轟音と共に壁が弾け飛び、高速で飛来する何かが店の奥まで突き抜けていく。


「……ぺっ、ぺっ!口ん中に土が入りやがった!

……って、皆、無事か!?」


体に乗った土壁の残骸を払い除けながら、口の中の土を吐き出しつつ皆の状況を確認する。


「アタシ大丈夫……。」

「わ、私もです。」

「……俺もだが。」

<損傷ありマセン。>


どうやら無事のようだ。

安心するとともに、何が俺達を襲ったのかと壁の穴から外を見る。


何やら複数人の甲冑姿の奴等が、車輪の付いた筒の周りで慌ただしく動いている。


「……移動筒だ。

父上は、本気で俺達の事を……。」


ジャックが言葉を失っている。

移動筒とは、この世界にある小型の大砲だ。

砲身の両側に車輪がついており、馬などに引かせる事を目的としている。

設置型の大砲よりは威力も射程もないが、人間が保持するタイプの大筒よりは高火力の攻撃が出せるため、大型の魔獣を相手取る時には重宝されている武器だ。


「やれやれ、俺たちゃ魔獣扱いかよ。」


軽口を叩いてみるが、非常に状況はよろしくない。

多分俺とパッピルだけなら簡単に逃げ切れるが、残りの3人は逃げ切る前にやられちまう。


<次弾、そろそろ装填が終わリマス。

恐らく弾頭は先程と同じ様デス。>


パッピルが冷静に分析する。

なにか無いかと焦る俺の視界に、1枚の板が映った。


(棺の蓋か?こんな時に縁起でもねぇ。)


それは棺桶の蓋のような黒塗で、飾り気のない長方形の板。

わずかに外側に向かい湾曲しており、ひっくり返すと持ち手がついていた。

俺よりデカい、タワーシールドのようだった。


<次弾、来マス。>


俺はその棺の蓋のような盾を手に持つと、超常の力を使い砲身の向く先を確認。

全力で駆け出し、その射線上で大盾を構える。


「防げたら走れ!」


無理かな、とは心のなかで思っていた。

ただ、この盾を使って弾頭を僅かにでも上に反らし、後は拳でぶち抜けばいいかとイメージはしていた。


<着弾、今デス!>


放たれる砲弾、受け止める棺の盾。


砕け散るかと思われた盾は、その弾頭を受け止め上に弾く。


敵だけではなく、俺自身も何が起きたか解らなかった。


一瞬、空気が止まる。


<セーダイ!>


パッピルの声で我に返り、大盾を持ったまま皆の後に続く。


どうやら、敵側も混乱したらしい。

追い詰め、袋の鼠だと思った新米冒険者の学生達が、人間には受け止めることの出来ない砲弾を受け止め、弾いたのだ。

“自分達は何かとんでもないモノを相手にしているのではないか”

その動揺が、兵士達に二の足を踏ませたのだ。


戦いの場において、一瞬の気の迷いは致命的。


俺達は、何とか無事にその場から逃げ出す事に成功した。



「……ここから先は、俺に任せてくれ。」


人々が安全に住まうことが出来る生存圏と、魔獣の巣食う外とを隔てる巨大な壁。

その出入り口である門の近くに来た時、ジャックが不意にそう告げる。


その表情に決意を見た俺達は、何も言わずジャックに道を譲る。


門に近付いて行くと、そこを守る兵士達にはまだ情報がいっていないのか、欠伸をしながら雑談を交わす姿が見え、何やらのんびりとした空気を感じる。


「ありゃ、これはジャック様でねぇですか。

こんな時間にお友達とお出かけで?」


少し歳のいった、中年の兵士がノンビリと話しかけてくる。


「まぁな、遅くまでご苦労。」


ジャックは堂々と肩で風を切り、いつものように歩いていく。


「この時間は誰も外に出すなって、アタシらも言われてるもんでね。

ジャック様にお友達さん達も、申し訳ねぇですがお家に帰ってお休みくださいよ。」


あまり上手くない敬語で、門番の中年はやんわりと拒絶する。

だが、そこはジャックだ。

堂々と近付くと、見えないように門番に何かを渡した。


「最近は父上の(まつりごと)のせいで、前のように遊び歩くことも出来ん。

かと言ってウサを晴らそうと狩りに行こうにも、白昼堂々と“外”にも出られんからな。

たまにはこうして悪い遊びに付き合う仲間を連れて“外”で遊び歩くのも、悪くないとは思わんか?」


「へへへ、偉い人も大変ですな。

ま、あたしゃついうたた寝してましたんでね、何にも見ちゃいませんよ?」


門番は素早く受け取った何かを懐にしまうと、“ふぁ〜、眠くなっちまったなぁ”と言いながら詰め所に入っていく。

ジャックの目配せを合図に、俺達はそそくさと門の外に出る。


「……お前、いつもやってたな?」


俺がじろりと睨むが、ジャックは何処吹く風という表情だ。


「俺自身、何でこんな事をしていたのか思い出せん。

だがきっと、こういう事をして悪さをしている自分を楽しんでいたのだろうな、と思う。

まるで俺がやった事では無いようだが、そうなのだと思う。

不思議なものだ。」


恥ずかしそうに語るジャックとは対象的に、俺は自分の顔が険しくなって行くのを感じていた。


“忘却”


ジャックの身にも、やはり起きていた。

俺は過去のいくつかを失い、カルーアちゃんは信仰心の一部を失った。

そしてジャックはやはり“過去の悪童としての心”を少し失っている。


ではミナンは?


「……何よ?」


ミナンを凝視していたら、その視線に気付いたのか俺を不思議な顔で見る。

何でも無いと答えたが、険しい顔をしていたことから不審に思われたかも知れない。


“何故彼女は忘れるのではなく、思い出しているのか?”


ミナンに何かを吸い取られている?

そんな現象は感じていない。

ではミナンも俺達と同じ様に忘却しているのか?


忘却した結果、思い出す。


そんな事が起こり得るのか?


目的地となる迷宮(ダンジョン)を目指しながらも、俺の心はこの夜と同じように見通せない闇が広がっていた。

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