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異世界殺し  作者: Tetsuさん
記録の彼方の光
483/832

482:バランスが狂い出す世界

俺達が(リュミエール)の庭から戻ってきてから、もう3ヶ月以上は経っていた。


本来ならサッサと、絶望の匣(レーギャルン)という神器を回収するための行動を取りたかったのだが、パッピルの存在と、そしてジャックの余計な行動が俺達の予定を制限させていた。


誰もが行き飽きたほど通った初級迷宮(ダンジョン)で隠し部屋を見つけただけでなく、そこから別の世界へと飛んだのだ。

それは世紀の大発見であり、俺達は一躍(ノワール)の庭で有名になった。

俺達の報告に疑ってかかる者達もいたが、そういう奴等もパッピルの存在を見れば黙るしか無かった。


しかも最悪な事に、ジャックが事態を更に悪化させていた。

冒険の成果という触れ込みで、ダニエル家の新事業として戦闘用魔導人形(ゴーレム)を製造し、王家や他の貴族達に販売を始めたのだ。


どうも怪しい行動をしていると思った。

アイツ、戻ろうとしている時も戻ってきた時も妙にソワソワしていたが、製造方法を盗んでそれを隠していやがったわけだ。


ダニエル家が作る魔導人形(ゴーレム)は、(リュミエール)の庭に行った俺達から見れば月とスッポンくらいの技術力に差がある。

ただそれでも、“普通の人間では勝てない魔獣”がまるで相手にならないくらいには戦闘能力がある。


これだけでも、この世界では恐ろしい程の技術進化だ。

魔導人形(ゴーレム)は着々とその数を増やし、どの貴族も下手をすれば王国軍に匹敵するくらいの戦力を保持している。


その現状をチラとパッピルに聞いてみたが、パッピル自身は“現状でコチラの世界から取り入れる事モ、特に警戒スル事もありマセン”という、何とも釣れない返事だった。


(……ただ、やはり警戒はしてるワケか。)


俺達が迂闊に旅に出られないのも、この辺が影響している。

パッピルの存在が危うすぎて、連れ歩くことも置いて行く事も出来ずにいた。

パッピルは向こうの最高技術の塊だ。

それを解析すれば、ダニエル家が牛耳る魔導人形(ゴーレム)産業を奪い取ることが出来るだろう。


また、見た目も良いため、富豪の貴族が大枚をはたいて買い上げようとし、野心溢れる貧乏貴族は非合法の刺客を常に差し向けてくる。

最初はミナンとカルーアちゃんと俺の3人で守ろうとしていたが、本当に日常的に襲われ続け、2人は早々にギブアップしていた。


結果、そういう事に慣れていた俺がパッピルを預かっている。

パッピルは放っておくと町中でも害なす魔の杖(レーヴァテイン)を平気で抜き放ち、周囲の被害などお構いなしに防衛行動を取る。

仕方がないため、それらの刺客は全て俺が対処していた。


クソ、まさか少し前に“無機物守るために命投げ出してどうする”と思っていた事を、俺自身がやらざるを得ない状況になるとは思っていなかった。


早く全ての元凶である絶望の匣(レーギャルン)を回収して、(リュミエール)の庭に移動したいところだ。


「どうオッサンー?元気してるー?」


夕餉の準備をしようかという時に襲ってきた刺客を叩きのめし、扉から外に捨てていると、ミナンがカルーアちゃんを連れて現れる。


「どうもこうもない、今日は3組目のお客様を、こうして叩き出しているところだよ。」


“ありゃりゃ、相変わらずだね”と何でも無いような風に、倒れている刺客達には目もくれずに部屋の中に入る。


勝手にテーブルにつくと、持ってきた何かを広げ始める。


「今日は私とミナンちゃんでご飯を作ってきました。

お口に合うと良いのですが。」


「おぉ、これからなにか適当に作ろうと思っていたから助かるよ。

……まぁ、カルーアちゃん1人で作って、ミナンは邪魔してただけだろうけどな。」


“ちょっとぉ!”と頬を膨らませるミナンを放置し、俺とパッピルは食事の準備を始める。


「見てよこれ!今回のニンジンは芸術作だと思うんだよね!」


持ってきてくれたのは、どうやらシチューの様だ。

ほぼ原型、いや、くの字に曲がっていて、確かにどうやってカットしたのか全くわからない、ある意味芸術的な切り方だ。


<この切り方ハ、マスターでも出来ない切り方デス。

この世界で初メテ、警戒すべき対象となリマス。>


まさかのパッピルさん警戒対象とは。

流石はミナンだ、俺達に出来ないことをやってのける。


……まぁ別に痺れも憧れもせんが。


「……何か、絶対馬鹿にしてるよね、アンタ等?」


また黒い雲がミナンの頭の上に出始めたので、慌てて話題をそらす。


「そ、そう言えば、最近はどうなんだ?

少しは偉い奴等も落ち着いてくれたのか?」


まぁ、落ち着きだしているなら刺客も減るはずだが。

最近は特に増えているのが気になっていた。


「……まぁ、いいけど。

それよりもアレよ、何か、最近きな臭くなってきてるわよ?

何か王家と貴族でバチバチしてるみたい。」


事の発端はやはり魔導人形(ゴーレム)だ。


増えすぎた兵器を手にした貴族達が考える事。

それは壁より向こうの新たな土地を開拓する事ではなく、今ある権益を拡充したいという、あまりにも矮小な考えに至っていた。


これまでは、人々は魔獣の脅威に怯えていた。

そのため、人々はかつてこの世界を切り開いた勇者の末裔、王家を中心に一丸となって結束し、外敵からお互いを守り合ってきたのだ。


だが、そのバランスは危険すぎる兵器、魔導人形(ゴーレム)によって覆ってしまった。


種の存続という脅威が薄れた貴族達は、もはや王家に従う必要性を感じていなかったのだ。


必然、王家を軽んじる行動が増え始め、隣接する貴族領同士では摩擦と衝突が起き始める。

それが領民にも伝播する。

やれ、どこそこの貴族の私兵が小競り合いを行っただの、やれ、どこそこの貴族領に隣接していた村が交易を断られただの。


ミナンが拾い集めた噂話を繋ぎ合わせただけでも、この世界は導火線に火がついた状態、いつ爆弾が破裂するかを待つだけに聞こえていた。


<この世界の人間モ、やはり愚かデスネ。

このままではいずれ自滅するのが解っていルノニ、互いに争い合わねば生きてはいケナイ。

ヤハリ、人間という個体は絶対的な力を持つ誰かが管理すルベキ、なのでショウネ。>


パッピルの結論に、俺は何とも言えずにいた。

幸福以外の全てを奪われた(リュミエール)の庭と、戦わなければ生きる事すら難しい(ノワール)の庭。


どちらが人々にとって良いのか、俺には答えが出せない。


「……そうよね、弱い奴は管理しないとよね。

だって弱いんだもの。

アタシが管理してあげなきゃいけないのに、何で逃げたのかしら。」


遠くを見つめたまま、ミナンがそう呟くのが聞こえた気がした。

気のせいかとも思い、“え?”と聞き返したが、ミナンは不意に何かを思い出したように“な、何でも無い!”と言葉を濁した。


カルーアちゃんを見るが、彼女は聞こえていなかったのか、俺が見た事自体を不思議そうな表情をしている。


(気のせい、か……?)


聞き間違いかなにかだったかも知れない、そう思い直して、俺はお茶を淹れる。

皆のカップに注ぎ終わったその時、慌ただしく扉が開く音がし、俺達はそちらに目を向けた。

月末は色々ワタワタしていて、投稿が遅れがちになります……。


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