477:最高級魔導人形
「アタイ等を!舐めるな!」
ミナンが気合とともに双剣を振り、騎士鎧を着込んだ魔導人形は関節からバラバラと崩れていく。
「コンニャロメ!!」
俺も負けじと気合を入れて、大盾を振り回して人形共を吹き飛ばす。
壁に激突する人形達は、ガシャリと激しい音を立てたかと思うと、糸が切れた様に動かなくなる。
実際、倒れている人形に目をやるとパーツが伸び切っており、関節部の球体から千切れた糸が飛び出している。
-おやおや、やっぱり君達は強いじゃないか?
じゃあ、本当はどれくらい強いのか、強さを測ってあげるね。-
“大きなお世話だ”と言おうとしたが、またもや壁のあちこちが開き、次の魔導人形達が出てくる。
今度の人形は、真っ黒な鎧を着込んでおり、両手にそれぞれ片手剣を握っている。
-ハハハ、コイツ等は先程のレベル1、雑魚クラスとは違い、レベル2の十人長クラスだ。
まぁ、さっきより少し強いくらいだから、君達なら大丈夫だよ!-
言い返してやりたいが、それすらも面倒だ。
ミナンとカルーアちゃんを見れば、少しずつ息が上がっており、肩で息をしだしている。
先程までの精神的な徒労感に、今度は肉体的な疲労だ。
どこかで休息を取らせたいが、いかんせん数が多くて面倒だ。
「……あんまり、使いたくないんだよな。」
そうも言ってられないか、そんな事を思いながら、俺は盾を背負うと右拳を構える。
「百歩神拳、っと。」
人知を超えた速さで打ち出される掌底は、空気を切り裂くのではなく、空気そのものを押し出す。
押し出された空気は空間をずらし、百歩先にいる魔導人形の一部を、押し出した空気の分だけずらす。
次々と黒い鎧の人形達は、胸や頭に風穴を空け、ドサリとその場で倒れ込む。
「ミナン、カルーア、ちょっとお前等休みつつジャックの側にいてくれ。
俺が打ち漏らした奴だけ相手してくれるか?」
そう言いながらも、打ち漏らす気はない。
黒い人形達は数分もかからずに皆倒れ伏す。
-お、おぉ、やっぱり君は強いんじゃないか?
それが、君が神から貰った不正能力ってヤツなのかな?
で、でもまだまだこれからだよ、今度はレベル3、百人長レベルだ!
これは敵わないんじゃないかな?-
壁から出てきたのは、先程までの魔導人形よりも一回り以上は大きく、スケルトンなボディをした人形だ。
まるでおっさんなのにボーイと呼ばれている、クリスタルの化け物みたいな見た目だ。
胎内で蠢く金色の臓器の見た目が、ますますソレに酷似してやがる。
ただ、生憎と俺は、“精神力で威力の上がる銃”は持ち合わせちゃいねぇんだ。
-ソイツは凄いぞ、物理的な打撃を無効にし、更には魔法さえも反射する、最近の発明では一番の当たり……。-
「百歩神拳、改、っと。」
掌底ではなく、今度は握り拳で打ち抜く。
握り拳から放たれるそれは、空気を押すのではなく空気の壁を打ち抜く。
空気の壁を超えた事で起きる衝撃波を、正面の敵に打ち出す。
目に見えぬ衝撃がクリスタルっぽいボーイに命中し、内部から破壊する。
体の内側から分から弾け飛ぶように破裂したそいつを見ることもなく、何となく天井を見上げて俺はシカルを挑発する。
「……で?
次のビックリオモチャは何だ?
まだやるのか、これ?」
-……へ、へぇ、結構やるじゃない、キミ。
でも、次のコレはどうかな?
今度はレベル4、千人長クラ……。-
シカルが言い終わる前に、先程の魔導人形、パッピルが扉を開けて入ってくる。
なるほど、次はお前か。
<マスターに警告シマス。
この個体は何かを狙っています。
速やかな排除の可能性アリ。>
-ぱ、パッピル、お前が出なくとも……、そ、そうか、ならここはお前に任せよう。
残念だったね、セーダイ君だったかな?
パッピルはレベル5以上、僕の次に強い、この世界における最高水準の魔導人形だからね。
君が何か狙っていたとしても、それは無駄だよ。
おいパッピル、殺さない程度にな。-
最初は狼狽えた声を出していたシカルだが、段々と上機嫌な声に戻っていく。
どうやら、このお人形さんにはかなりの信頼があるらしい。
「上等だ。
ここに来てまたお人形さん遊びなのはまぁ、仕方ねぇから我慢してやるよ。」
背負っていた大盾を取り出し、静かに床につけると、パッピルを睨んだままその内側に身を隠す。
あの体格だ。
一気に接近戦に持ち込んで、この大盾でシールドバッシュでもカマせば、これまでの人形と同じ様に手足はバラバラになるだろう。
<それでは改めマシテ。
ワタクシはパッピル。
マスターの元、メイド長をしておリマス。>
メイド服の両端を指でつまみ、片足を引くパッピル。
人形にしちゃ見事なカーテシーだ。
<参リマス。>
少しだけ顔をあげると、その輪郭がブレる。
ゾクリとした恐怖を感じ、突撃のために浮かしかけた足を戻すと地面に踏ん張る。
「なっ!?」
一瞬で間合いを詰めてきたパッピルは、フワリと舞うと回し蹴りを大盾に繰り出す。
受けた瞬間、まるで床に叩きつけたビスケットのように、大盾の上半分が砕ける。
パッピルのつま先が、微かに俺の前髪をかすめる。
<良い判断デス。>
ボロボロになった大盾を、パッピルに投げつける。
パッピルは振り上げた右手の手刀を振り下ろすと、大盾だったモノは木っ端微塵に砕け散る。
「シッ!」
鋭く、短く息を吐き、一気に間合いを詰める。
攻撃を放った後の隙、そこを突こうと右の拳の狙いを定める。
打ち落とした大盾に向いていたパッピルの視線が、俺へと上がる。
(ヤバい、もう……!?)
パッピルは、振り下ろしていた右の手刀を更に振り抜くと、空中で前転するように体を回転させる。
(浴びせ蹴……痛ってぇ!!)
踏み込みを中断し、ほぼ無意識で左腕を上げる。
持ち上げた左腕で頭をガードしたはずなのに、次の瞬間には視界がものすごい速さで左に流れる。
左腕に走る激痛と、アチコチにぶつかる体中の痛み、そして回る視界が、攻撃を食らったのだと俺に理解させる。
ドンッ、と背中に壁が当たる感触を感じて、転がるのが止まったと理解する。
「……くぉ、あぁ……。」
痛みでうまく喋れない。
それでも、すぐに立ち上がらないと追撃が来ると思い、上半身を起こす。
頭を上げた俺の視界に見えるのは、涼やかにその場に立つパッピル。
フワリと広がったスカートが、重力に従い元の形にすぼまると、どこから取り出したのか、その手には刀身が赤く燃える片手剣が現れていた。
-ハハハ、害なす魔の杖まで持ち出すとは、本気だねパッピル。
セーダイ君だっけ?
残念、死んだよ、君。
まぁ、転生者はもう一人いるから、そっちで我慢するとしよう。-
外野の声が響くが、こちらはそれどころではない。
よろめきながらも立ち上がり、構えを取る。
粘りつくような汗が、全身から吹き出していた。




