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異世界殺し  作者: Tetsuさん
薔薇の光
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46:魔道学院入学前夜

「いいか、ヤバいと思ったらまず人の多いところに逃げろ。」


構えたままのリリィが“え?”と怪訝な顔をするのがわかる。

まぁそれはそうだろう。

今まで散々武術を習っていたのに、戦いの場において最初に何をするべきか、の問いに対する答えがそれでは、拍子抜けというものだろう。


「俺の学んだ、そしてリリィに教えた武術は基本的に護身術でね、自分の身を守るために使うモノだ。

そして、護身を究極的に突き詰めるなら、戦わずに避けることだ。」


まだ納得がいっていないのか、“はぁ”と生返事が返ってくる。


「戦わずに避けるのが最優先、それが出来なければその場から人の多いところに逃げ出す。

逃げられなければ大声で助けを呼ぶ。

助けが来るまでの間に自衛する手段として、俺が教えたワザがある。」


俺の言いたいことが、何となくわかってきたようだ。


「相手は男?女?とりあえず男と仮定しよう。

こちらの射程圏内に、相手が顔を入れる瞬間を意識しろ。その瞬間に目打ちを打て。

目打ちが入れば、よっぽど訓練を受けてなければ人はのけ反り両手で目を覆う。」


リリィが手を開きストレートを放つ。


「威力はいらない。

最速最短で、指先についた水滴を払うように、手を振るえ。

相手の目を潰しちゃ後々大変だからな。

かすらせるように素早くだ。」


何度か突きをふるい、理解したようだ。


「次に空いた胴体に一撃入れて昏倒させたいが、この世界は鎧を着けていることも多い。

なら次は股間、シンプルに金的だ。

蹴り上げるとスカートアーマーが足に刺さる可能性がある。

だから鞭のように足首から先をしならせ、爪先から甲にかけてを、相手の大事な所に当てる。」


リリィが構えから、前に出した右足を持ち上げ素早く蹴り上げる。


「これも威力はいらない。

鞭のようにしなやかに素早くだ。」


何度かの蹴りの後、イメージは出来たようだ。


「今まで教えた技術は全て護身術の延長線上だ。

護身の技術は“後先ごせん必勝”だからな。

相手の攻撃時が一番隙だらけだから、それを狙う事を意識しろ。」


午前の訓練が終わり、汗を流した後に昼食をとっている際、リリィが何かを悩んでいた。

どうしたのか聞いてみたところ、最後の言葉が理解できなかったらしい。


「後出しで相手に勝つ、というのはわかったんですが、先程の目打ちやら何やらは先に打つ技だなと思ってまして……。」


あまり答えを出しすぎるのも良くは無いが、時間が無いため一応のヒントを伝えておく。


「いや、あれも後出しだぞ。」


リリィは“でも……”とまだ悩んでいるようだった。


「素人の考える“後出し”は“ぶん殴られるまで待つ”だろ。

だが俺達の“後出し”には“間合い”も含まれてるんだよ。

こちらの射程圏内に入った時点で、ソイツは攻撃行動をおこしてるんだよ。」


俺にはほぼ答えのようなモノだが、リリィにはまだ引っかかるモノがあるようだ。

“まぁ、ここから先は実際体験しないとわからんかもなぁ”と思いながら食事を続けた。

食事をしている内に悩むのを止めたらしく、リリィはまた違う話題をふってきた。


「そう言えば先生が執事として一緒に学院に来ていただけるとのことですが、何とお呼びすれば良いでしょうか。」


この優秀な弟子からの一撃で、俺は思考停止してしまった。

そうだ、ある程度は呼び合うこともあるだろう。

悩んだ末に“そのままセーダイと呼べ”と言っていた。

今更セバスだの何だのと考える方が面倒だ。


「では、私のことは“リリィお嬢様”と呼んでいただけますよね。」


ぐぐっ……。

そうだよな、そうなるよな……。

“まぁ、その時はな”といい、そそくさとその場を離れた。

さぁ、子供達の勉強の時間だ。


リリィは少し怒っているようだった。

いやはや、年頃の娘さんは難しい。



いよいよ来月には入学、と言う時期に、入学者名簿が届いた。

羊皮紙ではなく紙で届いたそれを見たときに、“金持ってるんだなぁ”と言う第一印象だったのだが、名簿を見ている内に何かモヤッとした、記憶の片隅に引っかかるモノがあり、もう一度見直す。


第二王子の名前が“ジョン・S・ダウィフェッド”。

経済宰相の息子が“アーサー・P・テンプルトン”

魔道宰相の息子が“ハミルトン・M・マーディアス”

近衛騎士団長の息子もいて、“アルフレッド・B・バラガ”


ん?んん?

このメンツの名前、どっかで見たことあるような……。


アッと思い出した。


「これ、“俺達恋の特攻野郎”とかいう乙女ゲーじゃねぇか……?」


元の世界で確か超絶クソゲーとして、その年のクソゲー大賞かなんかに出ていた気がする。

そっち系ゲームはやらないが、超絶クソゲーと言うことで有志のサイトとかを見ていたので覚えていた。


そこまで来て色々思い出した。


確かサラ・ロズノワルって主人公を妨害する悪役令嬢で、最後はどう足掻いても死ぬというキャラじゃなかったか?

サイトにもこのキャラの紹介文が“どう足掻いても絶望”とか書いてあった気がする。

そして確か主人公の名前は、デフォルトネームだとリリィ・フルデペシェ。

ゲームではあまり語られない、何かの辛い過去を乗り越えて明るく振る舞う姿が男性キャラの心を引く、王道の主人公だった気がする。


え?嘘?俺やってきたの全部裏目?

おかげさまで無事過去を乗り越えて、明るい良い娘に育ちましたよ?


やべぇ、完全に舞台整ってたわ。

慌てて記憶の中にあるゲーム内容を思い出す。


第二王子のあだ名、“冷血軍神ハンニバル

経済宰相息子のあだ名、“女の敵(フェイスマン)

魔道宰相息子のあだ名、“ただの盛り上げ役(モンキー)

近衛騎士団長息子のあだ名、“熱血暴力馬鹿コング


サラ・ロズノワル、リリィが王子とくっつくとそれまでの悪事を告発され幽閉、毒殺。

リリィが経済宰相息子とくっつくとそれまでの悪事告発+何故か横領が見つかり領地没収、一族公開処刑。

リリィが魔道宰相息子とくっつくとそれまでの悪事告発+帝国に魔道技術の横流しがバレて領地没収、一族公開処刑。

リリィが近衛騎士団長息子とくっつくと、それまでの悪事告発+騎士団長息子の正義感爆発で断罪執行されてその場でバッサリ。

ちなみに主人公が誰ともくっつかずに終わると、バナナの皮で足を滑らせて頭を打ってお亡くなりになる。


おい制作陣、最後に手を抜くなや。


このように登場人物があまり女性受けしてなかったり、悪役令嬢が面白キャラになっていたりしてる挙げ句、リリース当初から進行不能バグが多発。

しかも上限無しの課金ガチャでイベントスチルを入手させる方式で、コンプリート報酬で特別スチルが手に入るなど、真っ黒な運営を続けていたために見事クソゲー大賞に輝いた作品だ。


ダメだ、こんなどうしようもないことしか覚えていない。

鼻歌を歌いながら入学への準備をしているリリィの後ろで、俺は蒼白になりながら名簿を握りしめていた。

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