440:オンリ・ハジメの華麗なる冒険譚③(2/2)
(あぁ……もっと……。)
(フフ、先生は欲しがりさんですね……。)
(いや!言わないで……。)
長ぇよ!!
あれから2時間以上は余裕で経ってるよ!
ついでに言うならエロい音声聞かされ続けて、俺の息子も立ってるよ!
もうね、直立不動よ。
いや、そんな事はどうでも良いんだ。
しかしこんな長いと思わなかった。
酒もツマミも無くなったし、もうそろそろ突入するかと悩みだした時、一際大きな女の絶頂の声が聞こえた。
(うわー、女の人、大声出しちゃう系かー。)
まぁ、ようやくフィニッシュまで逝ったんなら、そろそろ突入するか。
(……何か、音がしない?)
飲み終えた酒の空き缶やらツマミが入っていた袋をひとまとめにしていると、ちょっと片付けの音が聞こえてしまったのか中で疑問の声がする。
良いタイミングだと思い、扉を開ける。
「あ、こんばんは、良い夜ですね。」
中に入ると“キャッ”という悲鳴とともに、裸の女が男の影に隠れるのが見える。
旧校舎の校長室。
床一面に絨毯が敷かれ、重厚感のあるデスクが窓際に鎮座しており、意外にもこの部屋だけは外と違いしっかりと手入れがされている。
周囲に散乱する大人のオモチャと、下半身丸出しの男子学生の姿が目に入る。
その股間には凶悪に怒張したそれが、粘性の高い液体を纏いながら天を向いている。
そしてその後ろに隠れるのはボンテージ姿の……、あれは学園一の美人と噂の女教師だ。
……確かあの女教師、結婚してなかったか?
「何の用ですか用務員さん。
ここは立入禁止ですよ?
アナタは何も見ていない、良いですね?」
男子学生がそう言うと同時に、手に持ったスマホの画面をこちらに向ける。
その画面から赤い光が俺に向けて放たれ、通り過ぎる。
「ククク、しかし予期せぬ闖入者というのも面白い。
そうだ先生、この男を奉仕してください。」
「そ、そんな!?私は、アナタの事しか……!?」
転生者の男はスマホを、今度は女教師に向けて見せる。
その瞬間、また赤い光が女教師を通り抜ける。
「ククク、私を愛しているなら、出来ますよね?」
「……ハイ、勿論です。」
女教師がこちらに近付こうとする時、またも男子学生は命令を出し、犬のように這いつくばらせて俺に向かわせる。
「あー、いや、俺はお前と穴兄弟になるつもりはないんだわ。」
優しく女教師を退かすと、睡眠魔法で意識を飛ばす。
「なっ!?俺の催眠アプリが効かないだと!?」
あー、道具に頼っちゃう系かぁー。
じゃあ、コイツ自身には大した能力なさそうだなぁ。
「お前、転生者だろう?
別にお前をどうこうしようと思っちゃいねぇよ。
ただ、お前の能力に興味があるんだ。
ちょっとそれコピーさせてくれよ。」
「はぁ?お前何なんだよ、俺様に言うことを聞かせられると思ってんのかよ?」
「まぁ、そう思ってるな、“鑑定”。」
転生者は性懲りもなくまたスマホの画面をこちらに向け、赤い光を放つが別に俺にはどうということはない。
そんな光を無視して、俺は転生者の男子学生を鑑定する。
“認識改変”
この能力は通信機器を通して発現する。
通信機器内のアプリケーションという形で発現し、そのアプリケーションを見た者の認識を書き換えることができる。
なるほどねぇ、と、俺は一人納得する。
最近気づいたのだが、“神の不正能力”はお互いがぶつかり合うと“より上位の能力を持っている方が勝つ”或いは“不正能力同士で効力が対消滅する”事が起きる。
最強の矛と最強の盾をぶつけ合ったらどうなるか、というような話と一緒なのだろう。
そういう意味では、俺は少し前の世界でこれの上位互換とも言える能力を取得していた。
しかもそっちはこんな道具にも頼らないし、何なら改変するのは認識だけではない。
「なんだ、ハズレ能力か。
……やれやれ、邪魔したな。
この女教師は寝てるだけだから、後は好きにしたらいい。
……まぁ、NTRはあんまり褒められた趣味じゃねぇと思うけどな。」
「は、ハズレ能力だと!?
舐めるなよ?俺はこの能力で、世界中の女を虜にしてやるんだ!
次から次へと女を変え、無責任中出しでハーレム王に俺はなる、凄い男なんだからな!!」
うわあっさ。
浅すぎて、子供用プールかと思うくらいの器だ。
「……まぁ、俺もこうなる前は“彼女いない歴=年齢”だったから解るけどよ、そういうの長く続かないと思うぞ?
相手の女の子だって、結局能力で言う事聞かせているんだから、最後に欲しくなる“心”は絶対に手に入らんしな。」
「ククク、それはお前みたいな、中途半端な感情しか持たない出来損ないのクズニートだからだ!
俺は違う!
女など所詮道具!俺を楽しませる、生きた穴だってことだよ!」
ハイ地雷踏みましたー!
コイツ、アタイの触れちゃいけないセンシティブな部分踏みにじりましたー!
ってかコイツ何なん?
女の子を生きた穴呼ばわり?
頭の中まで精液詰まってるん?
俺は怒りで沸騰しそうになる頭で、一番効果的なオシオキを考える。
すぐにそれに思い当たった。
「……なるほどねぇ。
このまま色んな事に目をつぶって、とっととこの世界からオサラバしようかと思ったけど気が変わったわ。
……お前に、その能力、いやアプリか?
まぁなんでもいいが、上位の力って奴を見せてやるよ。」
「ヒッ!
な、何する気だよ!
結局暴力で解決しようってのか!?」
俺は両目に力を込めると、光を放つ。
「もっとちゃんと考えて、神様に願っておくべきだったな。
“現実改変”。」
強い光が放たれ、辺りを光の奔流で満たす。
ホワイトアウトから戻ってくると、それは全て終わっていた。
「ククク、何かと思えば強い光で目眩まし……ん?声が高い?」
「声だけじゃねぇよ?
ちゃんと胸や股間も見てみな?
増えてるモノと減ってるモノが解ると思うぜ?」
転生者は慌てて確認する。
その胸にはたわわに実った脂肪が2つ、そして股間には先程まであった天をつかんばかりにそそり立っていた剣の姿がない。
“なっ、なっ!?”と転生者の男子学生、いや、“元”男子学生が混乱していると、廊下をギシギシと歩いてくる、複数人の足音がする。
「背景情報はこうだ、この学園では性犯罪抑止のために、政府の命令で秘密裏にテストを実施する事になった。
なんとそこには、男子学生並びにそこの職員の性衝動を受け止める専属の職員が派遣された。
それがオマエ、っていうのはどうだ?」
先程まで男子学生がヒイヒイ言わせていた女教師は、筋肉質の角刈り男性教師に変わっている。
俺の言葉が信じられないという表情で見ていたが、その沈黙を破るように扉が開く。
「おぉ、もう始めてましたか乱酢先生って、やり過ぎて寝ちまったか。」
「ハハハ、歳ですなぁ。」
「さて、じゃあ我々もやりましょうか。」
複数人の男性教師が談笑しながら服を脱ぐ。
「い、嫌だ、……怖い!」
逃げようとする転生者を男性教師が取り押さえる。
俺はその光景を横目に見ながら、扉から外に向かう。
「そうだよ、男はただでさえ力が強いんだ。
そんなのに押さえつけられたら、普通の女の子は恐怖を感じるんだよ。
良かったな、お前が言う“性の道具”の立場を実感出来るぞ。
貴重な体験だ、しっかり味わってくれ。」
何かを喚く転生者を無視し、俺は外に出る。
別にコイツの異世界だ。
俺と性癖が合わなくても、まぁ許容してやろうと思ったが。
……いや、あぁ言う風に“他人の気持ち”を考えない奴には、結局同じ事をしていたかもなぁ。
嘘くさい夜空を見上げながら、俺はメダルを握りしめる。
やれやれ、次はもうちょっと良い世界だといいなぁ。




