439:オンリ・ハジメの華麗なる冒険譚③(1/2)
「用務員さん!ゴミは焼却炉に全部捨てたから!
もう燃やしても大丈夫だよ!」
「はーいはい、今行きますよーと。」
俺は振り返り、女生徒達の姿を見る。
俺に見られた女生徒達は、すぐに顔色を変えるとそそくさとその場から立ち去る。
「見た?あの顔……。」
「まじキモくて無理……。」
「黙ってればちょっとイケオジなのに……。」
聞こえとるぞコラ。
大体、パンツ1枚で歩かされてるお前等がおかしいと気付けや。
そりゃ健全な男なら、お前等のその丸出しのおっぱ……に目が行くってもんやろがい。
やぁ皆、元気しているかな?
俺俺、そう俺だよバァちゃん。
悪いんだけど事故って異世界来ちゃったんで、100万くらい振り込んでもらっていい?
……などと俺俺詐欺の常套句みたいな事を言ってられねぇくらいに異常な世界に迷い込んでしまった、そうですアナタのオンリ・ハジメちゃんです。
「……しかし、やっぱ他人の性癖をこうして端から見ると、キモいの一言に尽きるなぁ。」
今回俺は、何とも妙な異世界に迷い込んでいた。
この世界……いや、もはや町と呼んでいいそれは、閉じた閉鎖空間になっていた。
例えば、町の東側に向けてずっと歩き続けると、いつの間にか町の西側に出ている、というような感じだ。
色々と調べてみた結果、今俺がいるこの“聖マリアンヌン女学園”という学校を中心に、巨大な球体のような空間が広がっているだけ、という事が解った。
球体と言っても、それなりには広い。
多分山手線くらいはすっぽりと入るくらいの大きさだ。
知らんけど。
ともかく、その球体の中には山もあれば海もある。
だから恐らくは球体の外にも世界が広がっているのではないかと思うのだが、俺ではそれを把握は出来ない。
こういった限定空間の外に出る方法やスキルを、俺は知らないからだ。
案外何も無い空間だったりしたら、それはそれで面白いかも知れないが。
ただまぁ、ここで住む奴等はそれを不思議と思っていないらしい。
不思議に思っていない事、といえばもう一つ。
それが冒頭でもチラと出てきたが、この“聖マリアンヌン女学園”の制服、パンツ1枚なのだ。
あ、何故だかよくわからんが、オプションでリボンタイはつけて良いらしい。
だから、学園の敷地には緩めのリボンタイをつけたパンツ1枚の女生徒達が、当然の様に闊歩している。
色々経験しているとはいえ肉体的には若い俺だ。
そりゃマジマジと見ていれば鼻の下くらい伸ばす。
たまに下の方も伸びてるけどな!
「いや、でもよぅ……。」
これは考えるまでもなく、転生者の仕業だろう。
頭のてっぺんからつま先まで、性欲に支配されたやりたい盛りの男が転生者なのだろう。
異常なこの学校に、用務員として身分を書き換えて潜入し、噂話や聞き込みから、少し前に唯一の男子学生が編入してきている事も知った。
ちなみにその男子学生は前の学校の制服のままらしい。
いっそお前もパンイチになれよと、何なら丸出しフリーダムで歩けよと。
正直、ガッカリだ。
いや、それよりも許せないことがある。
吐き気を催す邪悪性とか、そんな話じゃない。
もっと根源の、俺の魂の叫びにも似た声が、自然と漏れ出る。
「“恥じらい”が無いでしょッッッ!!」
ベイビーがクライするような勢いで、俺は高速でマッチを擦ると焼却炉に火を点す。
見えないからこそ燃えるって事が、理解できないのかなぁ……。
ブラウスから透ける紐、スカートの中の秘密の花園。
……あ、イカン、言っててドンドンキモくなってきた。
とはいえ、ここの転生者とは旨い酒は飲めそうに無い。
あまりに俺と性癖が不一致過ぎる。
……あ、相手学生か。
それでも、これがその転生者の望んだ楽園と言うなら別に文句はない。
俺とは性癖の不一致なだけだ。
チラと転生者を覗いて、その能力が有益ならコピーさせてもらうだけだし、そうで無いならサッサとこんな世界とはオサラバするだけだ。
学校が終わり、放課後になると一斉に肌色が校門を通り過ぎていく。
俺は目を合わせないように、しかししっかりと横目でそれを見ながら帰路につく学生達を観察する。
「あの用務員、放課後になると校門前の清掃してるわよね……。」
「マジキモい、あぁいう陰キャが犯罪を……。」
「理事長は何考えて……。」
この行動がますますキモがられる原因になるのだが、正直直視したらまっすぐ立っていられない。
ナニは立って……って、もうそれはいいか。
ただ、毎回観察を続けていたのだが、いつも何故か男子学生の姿を確認できないでいるのだ。
(……噂の男子学生ってのは、どうやっていつも帰ってるんだ?)
まだ校舎に残っているのか。
だとしても、何故校舎を探してもヤツの姿が確認できないのか。
(校舎はあらかた調べたはずだし……。
あ、あそこまだ調べてない……か?)
俺の視界には、敷地の外れにある旧校舎が目に映る。
そう言えばと、噂話の中にあった。
何でも、夜な夜な女のすすり泣く声が聞こえるらしく、学園からも“立ち入らないように”と言われていた。
夏休みには心霊スポット代わりに忍び込む生徒が数人いるらしいが、普段は真っ暗で不気味なその出で立ちから、このくらいの時間から立ち寄る生徒はほぼいない。
(すすり泣く女の声……まさかねぇ。)
なんとなく、起こり得そうな事を想像し、ややゲンナリとしながらも旧校舎に侵入する。
現在の校舎と違い、全体的に木造で出来たそれは、玄関から一歩踏み出しただけで“ギィ”と、軋んだ音が響く。
(……このままじゃマズいな。
“身体強化”に“重力操作”っと。)
今まで転生者から強奪……譲り受けた能力を使い、足音を立てないように侵入する。
(……しかし、どうしてこういう木造校舎が取り壊されずに残ってやがるんだ?)
文化的な価値があるならともかく、この手の校舎は普通取り壊してから新校舎を建てるか、或いは新校舎を建ててから取り壊すのが常だと思うんだけどなぁ。
取り壊すにも金かかるだろうけど、残しておいたって維持する費用だってあると思うんだよなぁ。
そんな事をぼんやり考えながら奥へ進むと、女のすすり泣く様な声が聞こえてくる。
(マジか、マジで怪談話に突入か?)
だが、別段近づいてくる様子もなければ、他に怪奇現象が起こる様子もない。
冷静になって聞き続けていれば、それは泣き声は泣き声でも、どちらかと言えば嬌声の方だと理解できる。
(うわー、お楽しみの真っ最中かよ……。)
扉をバタンと開けて“はっはっは、そこまでだ!”をやる事も出来るのだが、正直キモい。
ってかダルい。
俺は仕方無しに、こんな事もあろうかと持ってきていた酒とツマミを取り出し、それが終わるのを待つことにした。




