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異世界殺し  作者: Tetsuさん
昇る光
426/832

425:命という部品

「で、なんでオッサンがここにいるワケ?

別に、ダン閣下の特使殿に見張られなくても、アタシ達はちゃんと戦いますけど?」


誰よりも巨大な背面装備をつけながら、それを軽々と振り回す小柄な少女。

ゴールドの冷たい視線が俺に刺さる。


『まぁ、俺にも事情があってな。

戦闘が始まっても、俺から何か指揮命令をするつもりはない。

そちらの作戦行動通りに進めてくれ。』


「それがウザいんだって言ってるんじゃん……。」


ゴールドの愚痴は聞こえないフリをする。

俺達は現在、サマー沖と呼ばれている海上を航行している。

だが、この後にフェリペ沖海戦、いや、恐らくはラーテ沖海戦にまで発展するこの作戦行動に、俺も特使の立場、戦況監督という名目で参加していた。

多分ゴールドからすれば”自分達を監視するために大本営から付けられた首輪”というような認識なのかもしれない。

事実、そういう側面もあるだろう。

俺の首輪を介せば、ダンだけでなくムッターマも覗き見ることは可能と、既に証明されている。

それでも、アンバーとの約束がある。


アンバーは俺に、”彼女達を救ってほしい”と頼んだのだ。

幸いにもあの時、首輪の盗聴機能は動いてはいなかったようだ。

起動すればすぐにマキーナからの警告が発せられるようになっていたが、その警告が無かったのが証拠だ。

とはいえ、首輪の機能的に24時間前までは記録されているらしく、やろうと思えば気になった時間をピックアップし、その音声を聞くことが出来るらしい。

そんなリスクがあることも承知で、アンバーは俺に頼んだのだ。

例え現場の人間に反対されようと、邪険にされようと、ここを離れる気はなかった。


ただ、どうやって救うか、という解決策は正直思い付いていない。

想像だが、ムッターマはここで海魔族の部隊が壊滅することを望んでいるだろう。

元いた世界の歴史と照らし合わせてみても、ここでそうなる確率は高い。

歴史の修正力を考えると、戦わない、という選択肢はない。

戦った上で敗北しながら女騎士達の生命は救う、という、かなりハードモードのステージだ。


(……俺に出来るのか?いや、出来る出来ないとかじゃねぇな。

やるしかない、んだ。)


『……ん?

な、なぁゴールド、あの、黒い一団は何なんだ?』


移動陣形に置いて俺の位置はゴールドの真隣だったので、おおよそ中央辺りだった。


前と後ろに伸びる艦隊の、もう少し後ろ。

全身黒づくめで、黒い箱?のようなモノを小脇に抱えた、綱で連結されて女騎士に曳航されている男性の集団がいた。

これまで、海を移動できるほどの魔力コントロールは魔族でも女性にしか出来なかった筈だ。

だからこその海魔族であり、だからこその女騎士達の筈だ。

それとも、遂に男性でも海上移動を行う手段が見つかったのだろうか?


「……ダン閣下の犬の癖に、アレ(・・)を知らないんだ?

噂にも聞いたことないの?

命を触媒にした、一度使えばもう戻れない、禁断の秘術を施された使い捨ての従士達よ。」


聞いて、ゾッとする。

使い魔に使われる式札、と呼ばれる金属で出来た札がある。

その式札、サファイア達が使っていた金属片は、魔力を充填して空へ飛ばし、充填した魔力から機銃弾や爆弾を精製するのだが、これはかなり魔力を使う。

本来男性であれば、使い魔を使役しようとした瞬間に失神するレベルだろう。


後ろで女騎士に曳航されている彼等は、平たく言えば“死ぬまで魔力を放出し、1人1つの使い魔となって敵艦に攻撃を行う”という、人間そのものを使い魔へと変える、魔族の中でも“やってはならない”とタブー視されている秘術を施された奴等、ということだ。


あの魔族男性達は、つまりは出撃した瞬間から死ぬ事が決定しているのだ。


『なん……何で……。』


何でそこまで出来てしまうんだ、と、言いかけて言葉を失う。


作戦立案時、アンバーはしきりにムッターマとダンに対して、“航空兵力による支援のない艦隊”等、簡単に沈められると上申していたらしい。

それに対するムッターマの答えがこれなのだ。


失った空母級の騎士の代用品。

戦争の狂気。

なりふり構わぬ勝利への対価。


あれ等がここにいるということは、つまりこれをアンバーも認めたという事だ。


『……誰も彼もが、狂ってやがる。』


遂に、元いた世界の真っ黒な歴史のように、魔族の連中は“命を部品”にしやがった。


後の世で、あの男性達は英雄として、ともすれば美談として語られていく事だろう。

だが今この瞬間、彼等の表情を見る俺には、彼等が生きながらにして死んでいる亡霊にしか見えない。


彼等の表情は、俺からすれば狂気そのものだ。

誰一人として(・・・・・・)希望を(・・・)失っていない(・・・・・・)

この行いが、魔族の未来のためになると信じて疑っていない。

いや、疑問を挟む余地がないのだ。

意識的にせよ無意識にせよ、そうとでも思わなければやれない事なのだろう。


「敵艦隊、感知しました!」


先頭を行く女騎士から、敵艦隊発見の報が入る。

その瞬間、後ろの男性達が慌ただしく動き出す。


「各員、訓練通りだ!

我々はこの瞬間のためにここにいるのだ!

目的を果たせ!

いざ諸君、父祖の地で会おう!」


「「「「ダン閣下、万歳!!

魔族、万歳!!」」」」


全員が黒い箱を頭から被り、そして次々と倒れる。

倒れた彼等の胸から、使い魔達が次々と飛び立つ。


『……何がバンザイだ。

何が父祖の地だよ。

……生きてこそ、明日があるんだろうが。』


こちらと同時のタイミングで、敵の空母からも使い魔が飛び立っていたのだろう。

あの時と同じ様な、空を埋め尽くす敵使い魔の大部隊だ。


「それでも、アタシ達はアイツ等の命を、無駄にするわけには行かないわ!」


ゴールドが、全武装を前面に展開する。

静寂だった空が、両陣営の使い魔達が鳴らす駆動音で荒れる。

その荒れた空を、ゴールドの艦砲射撃という轟音が切り裂いていく。

俺は小銃を構え、迫りくる敵使い魔を次々と撃ち落としていく。


『多勢に無勢、なんてレベルじゃねぇな。

……どこに撃っても敵に当たりやがる。』


「口よりも手を動かす!

アンタ名狙撃手なんだろ!?

期待してるよ!」


敵使い魔の空爆を流れるようにかわしながら、ゴールドが俺を気遣う。

口は悪いが、誰よりも面倒見がいいのだろう。

その巨大な装備から、敵の狙いの中心に位置しているのは明白だ。

踊るように水上を駆け、敵に砲撃を行いながら、更には俺を気遣いもしている。

あそこまで強力で、優秀な彼女だ。

何としてでも、死なせる訳には行かないだろう。

すいません、本日仕事終わりにほぼほぼ寝てしまっていたので、3時アップとなりました。

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