41:新しい世界
「え!?なんだ!?」
前の世界での旅が終わり、新しい世界に転送されて真っ先に見えたのが、コンクリートと思われる壁だった。
足下を見ると石畳。
三方を壁に囲まれた、薄暗い路地裏のような場所だ。
(マズい、いきなりどこかの街にいるのか?
スタート地点はあの森固定とかじゃないのか?
それとも開発が広がってここがその位置なのか、はたまた世界事に出現地点が違うのか?)
焦って周りを見渡すが、単純な袋小路の路地裏だからか、人気は無い。
大通りに繫がっているのか、人々の喧騒は聞こえている。
ただ、周りを囲む建物がビルなどでは無く、レンガと土壁で出来た家だった。
とりあえず人が居ないことが確認できた。
マキーナをアンダーウェアで起動し、視界に映る数字を確認すると、100.00になっていた。
(やっぱり、世界に入る毎にどこかから補充してるみたいだな?)
更に詳しく拡大表示にすると、100.00の下にカッコで
[30.01/100,000,000]
と表示されているのを見つけた。
(1億分の30?これが目標数字なのか?)
そう言えば、転生者は1億ポイント持っていたな、と思い出していた。
確証があるわけでは無いが、あの自称神様が求めるラインが1億ポイントで、世界を破壊してこのポイント分稼げばゲームクリアで元の世界に戻して貰える、ということだろう。
この残余ポイントだけでは気の遠くなる時間がかかると言うことだ。
早く帰りたければ世界を破壊し続ける、もう少し時間がかかってもいいなら世界から無理ない程度にエネルギーを抜き取る。
それも駄目ならコツコツ残余分を貯めてけって事か。
しかも転生者を仕留めるのに100%使い切ったらプラスにもならない。
中々に難しいさじ加減が求められるわけか。
確認すべき事を確認し終えたので、マキーナを解除する。
無駄遣いは出来ないから、極力節約していかないと行けない訳か。
ただ、今は置かれている状況が全くわからない。
スーツ姿に通勤鞄と、もしかしたら目立つことになるが、ジッとしていても始まらない。
意を決し、路地裏からそっと大通りへ顔を出し、周囲をうかがう。
(何か……モダンというか、おしゃんな街並みだな……。)
石畳が続き、コンクリートにガラス張りの一軒家が並ぶ。
道行く人もゆったりしたシャツに長ズボン、スカートなど、それなりの文明の高さが伺える。
元いた世界で言うなら、多分見た感じ18~19世紀位のヨーロッパ風な世界だ。
何となくだが、俺の服装もそこまで目立つモノでは無いと思える。
とりあえず無一文で住むところすら無いこの状態はマズいと思い、手っ取り早く身分と日銭を得るためにも、冒険者ギルド的なモノを探しに歩き出した。
街は大体見て回った。
貴族が住む上民街、一般的な人が住む中民街、貧困層が住むスラム街的な区分けであることも確認できた。
しかし、冒険者ギルドがない。
やはり言葉は通じるので、道行く人や露店で尋ねてみたが、そんなモノは無いと言われてしまった。
つい今しがたに、この町では身分証が無いと仕事に就くことが出来ないので、スラム街に行くかとっととこの街から出て行った方が良いと、割と厳つい露店商にたたき出されてしまったところだ。
まいった。
いや本当にまいった。
行く当てもなく、仕方なしにスラム街に足を向ける。
今夜はこのエリアのどこかで野宿しかないか。
しかし妙だ。
転生者はどうやってこの世界で生きているのだろう。
冒険者ギルドが無い以上、転生者が思い描く、手っ取り早い“お姫様を救う大冒険活劇”的なパターンにならない。
“転生者がどこにいるのか”“転生者が何者なのか”から考えなきゃいけないとは、やっかい極まりない。
そんな事を考えながら歩いていたら、随分とスラム街の奥まで来たらしい。
獣臭や残飯の臭い、糞尿の臭いが入り混じる、随分と危険な領域に来てしまっていたらしい。
路地の影や道端で寝ている人間達から放たれる、殺気に近い無数の視線を感じる。
(コイツらも、小銭位は持っているか)
最悪な考えが頭に浮かぶが、すぐに打ち消す。
獣になるにはまだ早い。
だが、それも“最悪の手段”としては考慮しなければならなそうだ。
適当に、路地の寝やすそうな場所を見つけて鞄を枕に横になる。
多分、そんなにかからずに、望む展開にはなってくれるだろう。
30分位たった頃だろうか。
二人組のいかにもな奴等がこちらに近寄ってくる。
一人は棍棒のような太い木製の棒、一人はナイフを持っている。
「ようおっさん、ここで寝るには場所代が必要だぜ。」
ワザとゆったり上体を起こし、あぐらをかく振りをして足を組み合わせない、半跏趺坐の姿勢をとる。
「そりゃあ気付かなかったな。
教えてくれるベルボーイがいたなら、いくらか持たせてやったんだがね。」
さて、どう出るか、と思ってチンピラの一人を見ると、モヒカン頭のキルッフ君だ。
以前の世界での義理もあるから、コイツは殺すわけにはいかないかなぁ、と、のんびり考える。
一応、確認はしておくか。
「そっちのモヒカン頭は、キルッフって名前じゃないかい?」
モヒカン頭はナイフの刃を指先で撫でながら、そう言われてもニタニタとしている。
「おいおい、俺を誰と間違っているかしらねぇが、そんな名前の奴は知らねぇし、俺におっさんみたいな知り合いはいねぇよ。
いたとしても、もうその辺のドブ川に沈んでらぁ。」
そうか、安心したよ。
半跏趺坐から即座に立て膝立ちになり、その勢いを利用してナイフをかいくぐり股間に突きを入れる。
前屈みになったところに左手で胸倉を掴み、もう一人から振り下ろされる棍棒の盾にする。
振り下ろされた棍棒の鈍い音が聞こえたところで、左手を離し後ろに落ちたナイフを拾う。
後ろ回り受身から立ち上がり、左手のナイフを右手に。
そのまま振りかぶり、喉元へ狙いを定めるが、少しの気の迷いの後、相手の左肩に狙いを合わせて投擲する。
上手いこと鎖骨の下辺りに刺さってくれ、“ギャッ!”という悲鳴を上げてうずくまる。
「おい、諸々置いて帰んな。」
「テ、テメェ!こんな事してタダで済むと思ってやがるのか!
テメェはこれから組織に命を狙われ続けるんだぞ!」
あからさまな雑魚台詞に笑いそうになったが、よく考えれば好都合かも知れない。
少なくとも今の状態よりは情報が入手出来る可能性がある。
鞄の紐を肩にかけ、棍棒を拾うとのびてるモヒカンを蹴り起こす。
「ならさ、君らの言う“組織”とやらを紹介してくれ。
そこに参加したくなってきた。」
チンピラ二人は何やらアイコンタクトをすると、モヒカン頭が“わかった”と言い、肩にナイフが刺さった方は先に走っていく。
「アイツが先に行ってボスに話を付ける。
アンタは俺と一緒についてきな。」
いいだろう。
地獄へご案内と行こうじゃないか。




