415:机上演習
「それではこれより、ミッドブルックス島攻略に向けての机上演習を行う!
審判はダン閣下、人間族側はアンバー将軍とセーダイ特使に担当いただく。
海魔族側の運用は僭越ながら私、ムッターマが行わせていただく!」
円卓の上にはミッドブルックス島を中心とした地図が置かれており、その上には魔法で作られたミニチュアの両軍戦力が置かれている。
ミニチュアは精巧にできており、先程試しに幾つかの装備を動かしたところ、しっかりと使い魔が飛び立って展開したり、砲撃もちゃんと動いて弾が出る。
地図もただの紙質というわけではなく、魔法を反映して海面が揺らぐように搖いており、汐の流れまで再現している。
しかも、それでありながら薄っすらと六角形のマス目が時々光って浮かび上がるなど、かなり芸が細かい。
全体的な操作と流れに関しては、音声での認識でミニチュアはマス目を移動し、相手にあたえるダメージはランダム性を重視してか、手元でサイコロを振ってダメージを決める。
……何これすっごい欲しい!
元の世界でよく遊んだ、コンピューターゲームのシミュレーション系、いやいや、むしろこれはテーブルトークロールプレイングゲームをデジタルで再現している感じだ。
テックをバトらせるTRPGとか、学生時代に超やりこんだもんなぁ。
あれのエアロなテックとか、また翻訳版出ねぇかなぁ……。
そんな事を考えながらも、精巧に動く盤上のミニチュア達に心惹かれて見入っていると、アンバーが俺の肩を叩きながら優しく声をかけてくる。
「セーダイ、そんなに見入ってて、緊張しているのか?
大丈夫だ、我々は負ける側の運用だ。
……気楽にやろう。」
「おっ、あっ、そ、そうだな。
肩の力は抜かないとな、ははは……。」
<……私の言葉が伝わるなら、勢大のろくでも無い思考をバラせるんですがね。>
マキーナはん、それシー!シー!やで!
内心をバラされなくて良かった、と胸をなで下ろしつつ、改めて盤面を見ていると、ムッターマから今回の双方の作戦骨子を伝えられる。
魔族軍は基本はリリーオ・カラニ島の時のように、電撃戦による強襲を意識しているようだ。
まずはサファイアなどの使い魔空母部隊を展開し、こちらの海上・沿岸戦力に打撃を与える。
その後、増援となるはずのこちらの戦艦に対して、後方に控えているゴールド率いる海魔族第一艦隊をぶつけつつ、上陸部隊でミッドブルックスに上陸して制圧する、というのが作戦の基本骨子のようだ。
対するこちら側は、急襲してきた海魔族空母部隊に対して、後手に回りながらも対応し、時間が経てばリリーオ・カラニ島周辺に存在する、人間族海上艦隊が救援に駆けつけて撃退する、というのが基本骨子となる。
お互いの作戦を知ってしまっている手前、今打ち出した基本骨子に沿った戦い方をしつつ、海上での戦闘がどのようになるかをシミュレーションするのだ。
「……なぁアンバー、俺はあんまりその、軍事面とやらに詳しくは無いんだが、この“沿岸施設並びに敵艦隊の殲滅”ってのは、同時に実行出来るモンなのか?」
「……いや、普通はどちらか片方だけで手一杯だ。
そして、敵に洋上戦力があるならば、まずは全力でそちらを叩く方が優先だろう。」
アンバーは、ミッドブルックス島周辺に配備されている人間族の戦力を指差す。
「前回のリリーオ・カラニ島攻略で、我々は人間族艦隊に大打撃を与えたと思っていた。
だが、実際には復元可能なほどのダメージしか与えられず、既に再建が成されていたり、抗戦活動に利用されていると先程のムッターマ将軍の発言で解ったからな。
ならここの戦力ももう少し増強されていてもおかしくはないし、今度こそ相手の心を折るために、敵艦隊とそのドッグを徹底的に叩くべきだ。
……少なくとも、私ならそうする。」
二兎追う者は一兎も得ず、ということわざがある。
ムッターマのやろうとしている事は、俺達には作戦目標が定まっていない、チグハグなモノを感じずにはいられなかった。
「それでは、先手は私めから。
現状の空母部隊を前へ3マス進軍。」
状況は現地時間で午前3時。
なるほど、まずはレーダーや監視では届かないギリギリまで距離を詰める、と。
「こちらは監視体制のままです。
セーダイ、判定を。」
“起こりうる偶然”というものがある。
たまたま何かの光を発してしまい、相手にバレる。
或いは偶然夜目が聞くやつ、感の鋭いやつが警戒していたために、気付かれるはずのない状況だったのに気付かれる。
そういう偶然性を、思考から外してはいけない。
ましてやこういう大作戦のときは、不運に見舞われたとしても勝てるようにしておかなければならない。
俺はサイコロを見えるように振り、転がす。
見えない様に転がし結果だけを見せるのは、不正を疑われる。
TRPGをやる時は必須のマナーだ。
「……なんと、決定的成功だ。」
3つのサイコロが、全て6の目を上にして止まる。
確率をシビアにするため、わざと煩雑にするためサイコロを3つにしている。
ちょっとだけ、“あぁ、俺がマスターやると何故か出目が良すぎて、良く他のプレイヤーから怒られたんだよなぁ”と、元の世界を懐かしむ。
「……では、こちらはそちらの艦隊をキャッチしました。
これより、非常事態体制に移行します。」
「ムグッ!
……ま、まぁ仕方ないですね、では私達は戦闘機動を取ります。
最大戦速で6マス前進、次のターンから順次爆撃用使い魔を出撃させます。」
ムッターマは一瞬言葉に詰まるが、すぐに平静を取り戻し作戦を開始する。
アンバーも、ちょっとだけ俺の出目の良さに困った表情を見せたが、すぐに何でもない表情を装うと防御と迎撃の準備を始める。
「こちらは迎撃機の発進と、沿岸部の部隊を迎撃のため3マス移動、そしてリリーオ・カラニ島への救援要請をしてターンエンドです。」
この救援要請がなされると、15ターン後に増援が到着する。
こうなると、魔族側がやや厳しくなる。
「まて、よく考えてみても、15ターンで到着するのは早すぎる。
恐らく人間族の油断と準備の遅さを加味すると、25ターン程が順当ではないかと思うが、如何に?」
まさかのダンからの物言い。
それに抗弁する者など、誰もいる訳がない。
「ハッ、ではその様に。
増援は25ターン程後とする!」
ムッターマが宣言し、俺達の手元にある15という数字が25に書き換えられる。
「アンバー、これって……。」
「言うな。」
10ターンも追加されているなら、恐らくそれは増援が来ないのと一緒のレベルなのだろう。
俺は思わず、天を仰いだ。




