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異世界殺し  作者: Tetsuさん
昇る光
406/832

404:リリーオ・カラニ島奇襲作戦

「ふーん、で、今回の作戦への流れは解りましたけど?

でもアタシが最初に質問した、セーダイ特使が魔法を使える様になった経緯、結局全然解んないんですけど?」


俺の周りを、まるでスケートで滑るようにぐるぐると回りながら、海魔族の少女は俺を逃さない。


作戦決行にあたり、今回は機動力重視の編成、そして何よりリリーオ・カラニ島にある港湾設備を急襲できるよう、地上爆撃が出来る使い魔を主力とする、俺も会ったことのあるクリスタル、オパール、ターコイズの他、オパールと姉妹だというガブロライトやもう2人の海魔族女騎士、サファイアとタンザナイトという、いわゆる大規模な使い魔装備を持つ海魔族の女騎士達で編成されていた。


話を聞いていたところ、今回初めてあった3人も俺のことは前回の遠征の件で話題に上がっていたらしく、顔を見るなり“あぁ、貴方が例の”と言われたのは非常に心外だった。


また、海中に潜り敵海上騎士を襲う忍びとして、紹介はされていないが“海中兵士”という、特殊部隊も同行している。

海中兵士とやらも所属や身分としては海魔族の女騎士らしいのだが、いかんせん通常時は海中に潜っているため、俺も交信の音声くらいしか聞いておらず、どんな娘なのかすら解らなかった。


ただ、攻撃速度を意識しながらも対敵騎士対策も怠っていない、奇襲や急襲をするにはこれ以上無い編成だろう。

絶対に何かしらの戦果を残す、という意志を編成からも感じ取れる程だ。


とはいえ、海魔族の女騎士達には、今回の作戦指揮がムッターマ将軍であることがあまり好意的ではない様で、やや緊張感のない空気がそこにはあった。


そのため、作戦行動中ではあるが、同行者としての俺に“ここに至るまでの経緯”への質問や、何故俺が海魔族の女騎士に匹敵するレベルで魔法に開花、魔力量を保持できているのかを、しつこく聞かれていた。


『いや、どうしても何も、俺にもよく解らないんよ。

アンバーの近くにいたから、自然と魔力に開花したんかね?ハッハッハ。』


我ながら苦しい言い訳ではあるが、アンバーとの打ち合わせの中で、この譲渡に関しては内密にしておくように、と言われている。


詳しい理由は言葉を濁されてしまって聞けずじまいだったが、確かに無闇矢鱈と言いふらしても良い事はないだろうと理解出来る為、こうしてお茶を濁している。


「ふーん、そうッスかー。

でも魔力の匂いとか、これアンバー将軍の……。」


先程から俺の回りを回っているタンザナイトが、少し近づくと鼻を近付けて匂いを嗅いでくる。


あー!お客様!あー!

それスメハラです!あー!お客様!


『ちょちょちょっ!?

オッサンの臭い嗅ぐのは絵面的にノー・グッドですよお嬢さん!?

ホラ、離れて離れて!』


無理矢理距離を取り逃げ回るが、それが返ってタンザナイト嬢の狩猟本能に火をつけてしまったようだ。


“ま〜て〜!”と笑いながら、俺の後をピッタリ追い回してくる。


「タンザナイト、そこまでにしておきなさい。

作戦前ですよ、もう少し淑やかに出来ないのですか。」


サファイアからの通信で、“ちぇ〜”と言いながらもタンザナイトは追尾をやめる。


俺は“助かった”とサファイアにハンドサインを送ると、そのサファイアから個人通信が入る。


「作戦前の戯れが過ぎたために諌めましたが、本質的には私もタンザナイトと同じ気持ちではございます。

何か深い事情があり、セーダイ様にその魔力が宿っているのでしょう。

いつか話せるときに、その理由をお教えくださいませ。」


サファイアの方を見ると、俺を見てニコリと笑う。

その笑顔に、いや、笑っているのだが恐ろしいモノを感じてしまい、“あ、あぁ、いつか必ずな……”と、身の危険を感じて約束してしまう。


「皆様、セーダイ様が“後ほど話す”とお約束くださいました!

さて、そうと決まればこの度の作戦もサッサと終わらせてしまいましょう!」


サファイアの一言で、艦隊のあちこちで“やったぜ!”や“よくやったサファイア!”という声が聞こえる。


クソッ!ここまで巧妙な仕込みだったのか!?

俺は慌ててタンザナイトを見るも、タンザナイトも意外な顔をしている。


「えっ!?どゆことどゆこと?

もしかして、ボクにだけ知らされてなかったの!?」


あぁ、この娘、普段からこういう感じの扱いなんやなぁ。


ちょっと遠い目をしかけてしまったが、もうこうなっては仕方ない。

この問題は後回しだ。

後で有耶無耶にして逃げる事出来るだろう。

それよりも、今回の作戦だ。


今回の作戦の総合指揮艦である、クリスタルにむけて通信を開く。


『クリスタル、今回の作戦、ムッターマからは何と聞いているんだ?』


「ん?あ、あぁ、丁度いい、全員、改めて作戦を伝える。

ムッターマ将軍からは本作戦は魔族でも人間族の喉笛を書き切ることができるぞ、という威を示すためにも、リリーオ・カラニ島にある軍事施設、並びに艦船に対して深刻な一撃を加えよ。」


それを聞いて少し安心する。

元の世界の歴史では、確か“パールハーバーに大した打撃を与えられなかった”とか何とかが原因で、あの超大国の被害は軽微だったし、確かその後に、この奇襲作戦を逆手に取って国民に対して徹底抗戦を呼びかけた筈だ。


歴史の知識は曖昧だが、今回の作戦内容であるなら完膚無きまで叩くのであれば、また少し状況は変わるはずだ。


「また、先を見据え、最終的に魔族領近海にて艦隊決戦を行う時のための布石ともなるため、確実に削り取る事を念頭に置くように、との命令である。

以上だ。」


その命令を聞いた海魔族の女騎士達は、特に違和感なく皆頷き、了承の意を伝えてくる。




このやりとりに何となく、違和感を感じる。


温度感?とでも言えばいいのだろうか、こう、上手く言えないのだが、アンバーのあの時の言い方とこの命令、それにここにいる海魔族の女騎士達の反応が、致命的に何か違うように感じられる。


『……あー、すまない、ちょっと質問なんだが。

その、最終的に魔族領近海にて云々ってのは、つまりどういうことなんだ?』


「あぁ、先のドワーフ族との戦闘でな、我等魔族の必勝法だったのだ。

まぁ端的に言ってしまえば、事前に攻撃を加え、敵艦隊を弱らせたところで誘き出し、十全に補給された我が艦隊で海戦に挑む、という方法でな。

もう30年前だったか?

ともかくこの戦法で、我等はドワーフ族に圧勝していたのだ。」


少しだけ、目の前が暗くなる。

ムッターマは、そんなカビの生えた戦法がまだ通じると、本気で思っているのか?


魔法が使えるようになったとはいえ、俺に使い魔を召喚する技術も無ければ、特使だからと魔導砲の1つも装備させてもらえなかった。

結局、陸魔族に視察に行った時に渡された小銃1丁のみだ。

これで自衛と敵使い魔の撃破、要は護衛を言い渡されている。

この作戦全体における俺の果たせる役割は大きくない。


「よし、見えてきたぞ!

各員、使い魔を展開せよ!」


嫌な予感がする。

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