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異世界殺し  作者: Tetsuさん
旅の途中①
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39:タイムアタック失敗

視界が効かなくなると、人間は多くの情報が失われる。


ましてや今まさに剣で叩かれ続けていると、尚のこと解らなくなる。

平衡感覚、時間的感覚、その他諸々。

奴は剣で斬りつけるのではなく、剣の腹で叩くことに変えていた。

遊んでいるのだ。


「ハハハ、無様だな。

もっと這いつくばれ。

泣き叫んで赦しを乞え。

そうすれば裸踊りの後、公開去勢位で赦してやるぞ?」


ここまでゲスだと、いっそ清々しい。

従う気は全くないが。

……とはいえ、最早勝負にすらならん。

ちと急ぎ過ぎた。

大概この手の奴は、味方に自身の型落ち的な強い装備を渡していたりする。

それを強奪して、この世界で通用する武器なりを用意するべきだった。

変にタイムアタックを意識しすぎて、焦りすぎたか。


心を静め、その場に正座する。

“正座構え”


満足に足が動かせない今、完全に守勢の構えをとるしか無い。


『バカは無敵って感じだな。』


「何がだ?

今更どうした?

悔しいんでちゅか?」


ああそうだよ。

最後の悔し紛れだ。

コイツのために、余計なことを教えておいてやるか。


『“無明”ってのはな、仏教用語で“智恵の光が照らさぬ状態”って事だ。

智恵の光を見つけられぬ愚者、つまりお前みたいなバカって訳だ。

いやぁ、戦ってて面白かったぜ。

“魔剣バカ”に“バカ断絶”と“バカ結界”、さっき使ったのはなんだ?

バカ剣奥義のバカ千殺・改だっけか。

かっこ悪いから今後その必殺技名、口にしない方が良いぞ。』


「ぐ、ぐ、ぐ……貴様ぁ!!

だが、俺が見た本にもそう言った秘剣はあったぞ!

それら全てを愚弄するのか!」


どうやら予想通り、格好いいと思って付けていたらしい。

意味を知らず、響きが格好いいから付けちゃった系か。

こんなのに殺されるのは悔しいが、俺の旅はここまでらしい。

なら、最期は悪足掻きして傷痕位は残さねぇとなり。


『俺も幾つかそういう物語を知ってるよ。

ただそういう主人公は視力を失ったりして、苦難の末に“奥義開眼”したモノだったりするな。

あぁ、天然理心流の三段突きもそう呼ばれてたな。

只アレはその名の通り“相手に光すら見せぬ”速さで突くから、そう言われているんだろうな。

何にせよ、お前みたいに人から貰ったオモチャで“無明”と喚くと、本来の意味が一際浮き立って見えるな。』


本気で怒ったのだろう。

空気の流れがよりハッキリと解るくらい、真正面から飛び込んできた。


上段振り下ろし。

躱しようが無い。

正座から右足を出し、立て膝構えになりながら、左手の手甲で剣を受け、そして受け流す。

左腕を剣が切り裂き、肩のアーマーを割り砕き、かろうじて鎖骨に刺さって止まる。


同時に左の掌底を打ち込み、その上から重ねるように右の掌底を叩き込む。

諸共のカウンター、今出来る最高の“鎧通し”による一撃。


奴が剣を引き抜き、数歩後ろによろめく。

暗闇が消え、視界が元に戻る。

辺り一面、俺の血で血塗れだ。


引き抜かれた瞬間、噴水のように俺の体から血が吹き出し、更に周囲を汚す。

即座にマキーナが修復モードを起動し、それを止めてくれたが、大分血を流し過ぎた。


激痛と出血で意識が朦朧となったが、まだ倒れるわけにはいかない。


「ククク、今ので精一杯かな?」


『ハハ、……やっぱバカは無敵だな。』


正真正銘、打つ手無しだ。

正座構えに戻すも、最早体が満足に動かない。

振り上げられた剣を見て、妻を想う。


スマン、帰れなかった。



「お邪魔します!

王様はどなたですか!」


玉座の間の扉が勢いよく開かれ、一人の男性が後光と共に立っていた。


振り返りそちらを見ると灰色と銀のストライプのネクタイを首に着け、下はド派手なオレンジ色のブリーフ。

足下は黒い靴下と黒い革靴。

ネクタイとブリーフだけの半裸のおじさんが、いや紳士がそこに立っていた。



それは、変態と言うにはあまりに紳士だった。

ブリーフ越しでも解るそれは大きく、腹の脂肪は分厚く、存在感というか圧が重く、服装は大雑把すぎた。


まさにそれは、変態と言う名の紳士だった。



「なっ!?

何だその格好は!?

いや、貴様仲間がいたのか。

面白い、二人纏めて相手になってやる。」


いやいやいや、仲間じゃねぇッス!

あんな陽気なスキンヘッドの半裸紳士、今どうして俺の仲間と思ったの!?


「お取り込み中お邪魔します!

“なんだその格好は”とのご質問に関しましては、“これは我々種付おじさんの正装です”と、ご回答申し上げます!

本日のご用件として、王様を頂きに参りました!」


そっかぁ、正装かぁ。

じゃあ仕方な……いやいやいや、待て待て待て。

しかも今なんて言った?


……王様を……“頂き”に?


いや種付おじさん?

え?この世界そんな職業あるの?


思わず王様の方を見る。


「ちょっと待て!

この世界にそんなクラスは無いぞ!!

勿論スキルにだってない!!

そんな変態クラスがこの世界にあってたまるか!」


『……俺から言わせれば、お前の方があちらの紳士よりよっぽど変態だがな。』


思わず軽口をたたく。

ムキになった彼が再度剣を振り上げ、そのままの勢いで俺に振り下ろそうと踏み込む。


「なっ……カハッ……。」


剣を振り下ろすよりも速く、紳士が王の真後ろを取り、“ズドン”という音と共に腰をぶつけていた。

どうでも良いが、ちゃんとおじさんはパンツを下ろしている。


「安心したまえ。

僕のマグナムは鋼鉄だろうがオリハルコンだろうが構わずぶち抜く。

それでいながらも、突入時は常にローションでコーティングされている。」


スッゴい聞きたくなかった情報!!

“王様を頂きに”って、もしかしてそう言う事!?


「どうかね?

これが、君がうら若き乙女達に強いてきた行為だ。」


台詞スッゴい格好いいけど絵面スッゴい地獄!!


「……ふざ……けるなよ……。」


渾身の力を振り絞り、振り返りながら斬りつけるが、霞の様に消え、次の瞬間にはまた後ろに回って“ズドン”と打ち付ける。


「ぐぁっ!!」


「そんな動きでおじさんが斬れる訳ないだろう。

そう言えば、君は先程女性を蹴り飛ばしていたな。」


また姿を消すと、次の瞬間には正面に立ち、後ろ回し蹴りを決める。

水平に吹き飛ばされる王を待ち受けるのは、また瞬間移動したおじさん。

待ち受けたおじさんは腹で彼を受け止めつつ、またもや“ズドン”とぶち込んでいる。


「よし!ここからはペースを上げていくぞ!!」


……この辺りで俺はギブアップだった。

バカを上回る理不尽の前では、俺はあまりに無力だ。

これをどうしろというのか。


マキーナの変身をとき、フラつきながらも静かに玉座の間の扉を開け、そしてそっと閉めた。


「おい!お前!悪かった!!

助けてぇぇぇぇぇ!!!」


彼の絶叫が城に響き渡る。

扉の近くに居た虚ろな目をした兵士に声をかけたところ、近くのバルコニーで煙草を吸えそうだった。

そこに移動し、携帯灰皿を用意してから、煙草に火を付けた。


悲鳴はいつしか嬌声に変わっていた。


煙の先の青空を眺め、周囲の景色を眺める。

やぁ、ここから見える景色は綺麗だなぁ……。


俺は、深く考えるのを止めた。

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