表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
昇る光
395/832

394:陸上での戦い

「セーダイ、話がある。」


港にて荷下ろしを手伝っていると、アイオライトから声をかけられる。


獣人連合の使い魔は、結局のところ一瞬で蹴散らされていた。

こちらの損害はゼロ式使い魔1機、それも整備不良もあったのか帰投後に損傷が発覚したくらいで、相手の使い魔は文字通り全滅だった。


その後は特にこれといった障害もなく無事に港に到着し、荷が圧縮から開放される前に急いで積み上げていたのだ。

どうも運搬用の圧縮魔法も、魔力を供給し続けないと制限時間で解凍されてしまうらしい。

だから運搬専用の、“輸送船”という魔装と運用者が必要なのだ。

そんな彼女等も、流石にキツイのか港につくと魔力補充で休憩している。

その為、手の空いている俺も荷下ろしを手伝っていたというわけだ。


「あぁ、何か指示でもあるのか?」


持っていた荷物を積み上げ、腰を叩きながらアイオライトに答える。

気楽な俺とは違い、アイオライトの表情は硬い。


「ウム、大本営から連絡があった。

お前はこのまま陸魔族に合流し、現地状況の視察だそうだ。

我々はこのまま帰るが、お前はこのまま獣人大陸統括魔族司令部に向かえ。」


「そうか。

……解った、道中ありがとう。

戻ったら、講義の続きを聞かせてくれ。

あ、いや、違ったな。

“セーダイ・タゾノ、命令を拝受いたします”か。」


右拳を握り、胸の中心に掲げる。

どうも魔族は、こういう敬礼方法らしい。


「あぁ、貴殿の武運を祈る。

……気をつけてな、セーダイ。

戻ってきたら状況を聞かせてくれ。」


アイオライトも答礼を返すと、お互い何となく握手を交わす。

細く、小さい手だ。


この女性の手に、どれだけの責任が乗っているのか。

少しだけ悲しくなりながら、その場を後にする。



「失礼します、セーダイ・タゾノ、命令に従いこちらに伺わせていただきました。」


補給部隊の魔族に道を聞きながら、獣人大陸攻略の為に設置されている司令部に赴く。


「……誰だ貴様は?

お前みたいな人間上がりが来るなんざ、俺は聞いてないぞ?」


ずっと問題は発生し続けている。

さっきからこのセリフを聞かされ続けているので、流石にもう聞き飽きた。


司令部入口の検問で一悶着、司令部の受付で一悶着と、ずっとこのセリフを聞かされ続けてきた。

誰も彼もが慌ただしく動き回っており、こういった情報がまるで降りてきていないのがわかる。

何となくではあるが、今回の獣人大陸侵攻は、ここにいる陸魔族達にとってもイレギュラーな事態なのではないかと感じていた。


「……フム、お前が閣下から直々に指令があったタゾノか。

全く、大本営は何を考えているのだ。

こんな人間上がりを送り込むなら、魔石の1つでも送ってくれれば良いものを。」


ようやく、ここの偉い人間と会うことができた。

見た目は俺より年上の、筋肉が軍服を着ているような存在感あふれる壮年の男性。

彼は自分を“獣人大陸統括の魔族司令部大将ストーレ・ルード”と名乗ると、先程のような愚痴が真っ先に飛び出した。


「……まぁ、それに関しては私からは何とも。

正直、私もその方が良いと思ってますよ。」


俺の軽口に、ストーレはギョロリと俺を睨む。


「君は確かアンバー海魔族軍総大将の直轄だったな。

立場としては私より上かもしれないが、そんな事は今関係ない。

いいか、君がどんな役目を持ってここに来たか知らないし、知りたいとも思わない。

だが、ダン閣下か、或いはムッターマ閣下に話す機会があるなら、“これ以上の戦線拡大は自殺行為だ”と、伝えてくれ。

何故閣下達は拡大路線を取るのだ?

このままでは戦争は泥沼化し、魔族も獣人族も悪戯に疲弊するだけだ。

人間族に対抗するには、それこそ獣人族の協力が不可欠だと言うのに!」


ストーレの怒りは深い。

その後も、今回の作戦に対する不満をさんざん聞かされた。

彼自身、自分より上の存在としばらく話していないのだろう。

俺が一兵卒扱いで現場を見てこいと言われたことなど、露も知らないようだった。


ただ、ここでの話から、俺は自分の思い違いに気付かされた。

てっきり今回の獣人族侵攻、陸魔族が独断先行して始めたものだと思っていた。

だが、ストーレの不満を聞く限り、陸魔族でも現場に近い将校はこの作戦を快く思っていないらしい。

俺がここに来るまでには、会議の場では“獣人大陸など短期で攻め落とせる”という、楽観的な見方が大半を占めていた。

それに関しては、アンバーですらもそう思っていた程だ。


だが、実際の現場では、広がり続け、薄くなり続ける補給線との戦いで忙殺されていた。

司令部の地図には書き込める隙間がないほどビッシリと、展開している部隊と進行の矢印、補給タイミングまでもが書き込まれている。

これを見るだけでも、このストーレ将軍が必死にな

このストーレ将軍、脳筋な見た目と違い、かなりの頭脳派のようだ。


「じ、自分は本部から“戦線を把握してこい”と言われておりますが、戻りましたらストーレ閣下のお言葉は伝えさせていただきます。」


俺の言葉に、またもやジロリと睨むが、観念したように立ち上がると、壁にかけられている通信機を取る。


「……私だ。

最近司令部に配属された若いのがいたな。

アイツをここに呼べ。

そうだ、今すぐだ。」


ぶっきらぼうに通信を切ると、ドカリと椅子に座り込む。

ものの数分もしないうちに、司令室のドアが叩かれる。


「き、キルッフ二等兵、到着いたしました!」


入ってきた魔族の男は、坊主に刈り上げられているが頭の中心にはうっすらと髪が残る、ソフトモヒカン風のまだ若い青年だった。

陸魔族軍に支給されている軍服もまだキレイなところを見ると、本当に配属されたばかりなのだろう。



……っていうかお前キルッフじゃねぇか。

なんで魔族になってんだよ。


危うくツッコミかけたが、この世界でのキルッフに会うのはこれが初めてだ。

俺はグッとこらえて表情を消す。


「よく来たキルッフ二等兵。

君に重要な任務を与える。」


ストーレはどうやら、キルッフに全てを丸投げする事に決めたようだ。

現時点の最前線である獣人大陸南方戦線を視察、その後司令部に戻ってくるまでをキルッフに命じていた。


命じられたキルッフは顔面蒼白になっていたが、まぁ、別世界でも浅からぬ因縁ある俺だ。

諦めてもらうとしよう。


しかし、と、ふと考える。

キルッフの役回りは、多くの世界で“主人公(転生者)に絡むモブ”だ。

要は、“転生者と敵対する”立ち位置が多い。

今回はコイツ転生者側なんだなぁ、と、何だか遠い目をしながら、俺はキルッフと共に司令部を後にするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ