382:トータルリザルト~ネバー・エンド~
「セーダイ、見たか。
ちゃんとぶった斬ったぞ。」
試作型惑星破砕砲は、狙い違わず惑星ZX-1の中心に、その剣を差しこみ、中心核に反物質爆弾を送り込むことが出来た。
ビーコンもそこにあったのは、セーダイが上手く対象を誘導できた証拠だろう。
地表にマグマが溢れ、次々と黒い物質を飲み込んでいく。
[……やったのかい?]
「アーリヤ!大丈夫なのか?」
先程まで意識を失っていたアーリヤからの声が通信機から聞こえ、少し驚く。
[あぁ、少し前までは相変わらず自分が自分で無いような、フワフワした感覚だったんだが。
先程ロゥ君があの星を破壊した辺りで、随分体調が良くなってね。
……もしかすると、ナイアだけでは取り除けなかった芽のようなモノが植え付けられていたのかも知れないね。]
なるほど、俺がZX-1を破壊したことでアーリヤの呪縛が解けた、みたいなことなんだろう。
俺はもう一度ZX-1に目をやる。
すると、地表はとうにマグマで埋め尽くされており、反物質爆弾が効果を発揮しだしたのか、大地が割れ、惑星の形自体が歪に歪み始めていた。
[このままここに居ても、良いことは全くない。
早く乗り込んでくれ。
近くのワープホールから脱出しよう。]
全くその通りだ。
せっかく最高の友人達がお膳立てしてくれた状況だ。
ここで生き残れなければ、彼等に合わせる顔が無い。
ただ、少しだけ惑星を振り返る。
「ありがとよ、ナイア、……それに相棒。」
視界の端を、光が通り抜けた気がした。
その光はジェミニに吸い込まれたように見えたが、錯覚だったかも知れない。
[なにしてるんだ!早く!]
「おぅ、今行く!」
俺達は、こうして悪夢のような空間から脱出することが出来た。
「んで、取りあえず近くの居住惑星で良いか?」
俺は何気なくアーリヤを見ながら、この後のことを問いかける。
彼女は進行方向では無く、操縦室の入口、つまりは後ろのドアの方をじっと見ていた。
彼女なりに名残惜しいのかとも考えたが、あまりにも反応がないのでもう一度聞くと、本当に聞いてなかったようでビクリと体を震わせる。
「あ、あぁ、この後か。
できれば、このままワープホールを乗り継いで統合政府直轄地、出来れば火星に向かいたいんだ。」
「アーリヤがそこの出身だというのは知ってるけどさ、無理じゃないのか?
確かワープホール乗り継いでも1年近くかかるよな?
それだと水も食料が保たねぇだろ?」
それは心配ないよ、と、アーリヤは何故か疲れたように笑う。
「4人でなら、水と食料は3か月保つか保たないか、と言うところだったが、今は君と僕の2人きりだ。
そんなに贅沢は出来ないけれど、普通に食べていくだけなら十分水も食料も足りる計算だ。」
視線を落とし、“そうか”と言うのが精一杯だった。
アイツなら、こう言うとき何と言うだろう。
アイツとの出会いを思い返していた。
LC-4で出会い、ZX-1までの道のりを、苦楽を共にしてきた、アイツを。
「LC-4……。」
嫌な予感が頭をよぎる。
俺達はZX-1を破壊した。
だが、LC-4からは逃亡してきたじゃないか。
LC-4には、まだあの正体不明の生物で溢れかえっていやがるはずだ。
俺はハッとなって顔を上げる。
アーリヤは、変わらず疲れた顔のままだ。
「気付いたようだね。
僕はアイツらが憎くてたまらない。
ZX-1の崩壊でLC-4の奴等もいなくなってくれるなら良いが、そうで無いかも知れない。
惑星破砕砲は、さっきのZX-1の爆発に巻き込まれて跡形もないだろう。
なら、僕等は是が非でも急ぎアレと同じモノを、いや、もっと高効率なモノを量産しなければならない。
もっと、もっと、あんな化け物が生きる星を、跡形もなく!
もっと……。」
興奮し始めたアーリヤを、俺は抱きしめる。
アーリヤの暖かな体温が伝わる。
アーリヤも俺の体温で落ち着いたのか、背中に手を回す。
「僕は……僕は怖いんだ。
アレが襲ってきたらと考えると。
いても立ってもいられない。
すぐにでも惑星破砕砲を量産しよう。
アレを搭載した艦を沢山作るんだ。
人類が、安全にその居住圏を拡大できるように。」
「あぁ、そうだな。
それまで、俺がお前を守る。
……だから、心配しなくて良いんだ。」
アーリヤは目を閉じて穏やかな顔になると、もう一度ロゥを抱きしめる。
「ありがとう。
凄く嬉しいよ。
……そうだ、僕達も子供を作ろう。
沢山作って、増えなければ……。」
穏やかな表情のまま目を開くアーリヤの、しかしその目はどこまでも冷徹で、そして酷く濁っていた。
「うぉっ!?ぁ痛ててて!!
ま、マキーナ!アンダーウェアモードだ!!」
転送が終わり、いつものスーツ姿で緑豊かな大地に降り立った瞬間、俺の全身を激痛が走る。
直前まで電撃食らっていたからか、着地した瞬間に体中のあちこちから激痛が走り、痺れてその場に倒れる。
倒れながらマキーナを起動し、回復機能を活性化させる。
草原に大の字になりながら、先程までいた異世界に思いをはせる。
「ロゥ達は、無事なんだろうか。」
<転送中に、あの世界における未来の情報を一部回収しました。
表示しますか?>
流石マキーナ先生だ。
<……先生では無いと……、いえ、もう良いです。
ともかく、こちらの結果のようです。>
マキーナが俺の視界に、数枚のニュース記事を表示する。
部分的にノイズで乱れているが、何とか読めなくも無い。
「えぇと、……“奇跡の生還、全滅したバッカニア船団から帰ってきた2人”か……。」
鮮烈な見出しが幾つもある。
これを見る限り、あの2人は無事に人類が住まう圏内まで生きて戻れたと言う事だろう。
「こっちの記事は……、“最も人類の発展に貢献し、最も人類を嫌った科学者”か。」
日付を見れば、2人の生還から数十年後の、アーリヤ女史の訃報を知らせる記事だった。
そちらはノイズが激しすぎて、内部の文章が読むことは出来ない。
先程のタイトルも、辛うじて読み取れた程度だ。
「ロゥがどうなったか、これじゃ解らんな。
しかもこの記事、何か随分不穏だな?」
マキーナに聞いても、マキーナも読み取れないらしい。
<恐らくは、ですが。
これも、“起こりうる未来の可能性”をたまたま掴んだだけのようなものであり、まだ確定した未来にはなってないと推測されます。
ナイアから受け取った情報によれば、異世界は“記録されない未来は、独立した一つの世界であり、揺らぎを持った未来”の様です。>
マキーナ先生の講義は、いつも難しすぎて俺には解らない。
「まぁよく解らんが、要は“未来はロゥの頑張り次第”って事なんだろ?
なら、アイツを信じるしかねぇだろ。」
<……まぁ、その認識でも結構です。
それとナイアから受け取った情報として、断片的ではありますが“神の座標”のデータが……。>
痛みの消えた俺は起き上がり、近くの村までの道らしきものを見つけ、歩き始める。
アイツなら、どうにかするだろうさ。
マキーナからのよく解らない説明を聞き流しながら、俺はまた、旅を始める。




