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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の羽
382/832

381:ファイナルステージ~光の羽~

心を静め、目を開く。

周囲の空間はただ闇が広がり、自身の手すら見えない。


その内、目の前にボンヤリと輪郭が光る球体が現れ、その球体が俺自身を形作る。


-人間にしては珍しい-

-よく耐えている-

-だが、お前の知識を得るために、我は汝となり、汝は我と……プグォッ!-


自身の肉体をイメージし、拳を振るう。

見事、偽物の顔面にぶち当たってくれたようだ。

しかし、足場もないのはいけないな。

踏ん張りが効かん。


イメージした次の瞬間、足元に真っ黒な大地が現れ、空に真っ黒な太陽が現れ、黒く濁った茜色の空間が生まれる。


-なんだ、この心象風景は……-


偽物の俺には理解できないのか、周囲を見渡している。


「ようこそ、俺の心の中へ。」


腰を落とし左前に構えると、俺の偽物は構えることもせずただ棒立ちを続けている。

やれやれ、こんなモノ、俺の偽物ですらない。


-貴様、新たなる神となる我に手を上げっ……!?-


大地を蹴り、踏み込むと左拳で懐に1発、腹部を殴られ、下がった頭に切り返すように右拳で1発。

教本のように綺麗に、仰向けに倒れる。


「あぁ、手を上げるね。

確かに神の力ってヤツには人間は抗えない。

だが、神そのものは、人間には抗えねぇからな。

お前が神様だって言うなら、せっかくの神様をボコボコにできる機会だ、見逃す訳にはいかねぇよ。」


神を神たらしめるのは、いわゆる“信仰”だろう。

それが恐怖であれ、救済であれ。

なら、“俺の心の中にいる神以外を認めない”俺の中にいるコイツは、言ってみれば誰の信仰も得られない、俺と対等の存在だ。


対等ならば(・・・・・)殴れる(・・・)


-クッ、弱らせてからでなければ、無理か-


再度殴りかかろうとしたところで、俺の偽物は霞のようにかき消える。

次の瞬間には、俺の視界も元の風景を映し出す。


元通りリファルケのコクピットで、機体正面には気持ち悪い顔の球体が存在する。


<危険です、“耐精神”実行します。これには数分の……。>


「もういらねぇよ、マキーナ。」


あちらではそれなりに時間が経ったと思っていたが、どうやら一瞬の出来事だったらしい。


理解できていないマキーナを放置して、俺はヤツの顔めがけてありったけの弾を浴びせかける。


-何故だ!?何故我が押されている!?-

-ここは一時撤退して……!?-


女性顔の縫われた目が微かに開くと、拡散された戦艦の主砲クラスのレーザーが、周囲を焼く。

それと共に球体は後ろへと移動を開始するが、それはリファルケの進行方向でもある。


「そいつは大雑把だな。

そんなんじゃ当たらねぇぜ?」


巨大なレーザーの隙間を掻い潜り、ホーミングレーザーを叩き込む。

ただ、巨大レーザーの余波は想像以上らしい。

通り抜けただけで、シールドが削れる。

それでも、(リファルケ)の翼はヤツを逃がさない。


-貴様は!貴様は何なのだぁ!?-


老人の顔から黒い弾丸が次々と飛んでくるが、何とかかわしきり、隙だらけの顔面にガトリングガンの弾を食らわせてやる。


「俺は俺だ。

唯の人間、名前は田園勢大だ。

……あぁ、別に覚えなくて良いぞ?

お前、もう死ぬんだからな。」


-我はぁ!!彼奴きゃつが居座るこの世界をォォォ!!-


縫われた女の目が強引に開き、2つの巨大な白い光が、1つに融合される。

女の口の中にある老人の口も開き、黒い光がその中に混じる。


-原子の先まで分解されよ!-

-その後、貴様を余すところなく吸収してくれる!-


白と黒が互い違いになった1つの極大な光が、リファルケに向けて解き放たれる。


「セーダイおじちゃん!避けて!」


<ガイドビーコンへエネルギー転送可能です。>


俺はリファルケを人型に変型させながら、ナイアにニヤリと笑いかける。


「実はな、こういう大技をずっと待っていたんだ。

……マキーナ、シールドリフレクター!!」


リファルケは両腕を突き出し、掌から光の壁を作り出す。


<吸収と余剰エネルギーの拡散、並びにガイドビーコンへ追加エネルギーを転送開始します。>


人型に変型したリファルケから、背面、両腰に接続されたガイドビーコンが6基に分離し、唸りを上げながら飛び立つ。


「ここが踏ん張りどころってなぁ!!」


リファルケの背面から放出される余剰エネルギーは光の粒子を放出し続ける。

背部の翼から吐き出されるそれはまるで、6ついの輝く光の羽として、宇宙からも観測することが出来る程であった。


ガイドビーコンは空を飛びながらアンテナを展開すると、放電しながら全てのアンテナに光を繋ぐ。

球体を囲むように側面に4基、上下に1基ずつ配置すると、光の檻で球体を逃さない。


-どこまで耐えられるか見てやろう!!-

-このまま貴様ごと、焼き切ってくれる!-


溢れるエネルギーは、コクピットの内部まで逆流する。


「オォオォォォ!!」


コクピットに繫がるケーブルから、俺の脳内にまで電流が流れる。

もはや、コクピットそのものが電気の拷問器具と化し、俺も意識を保つために雄叫びを上げる。


「させない!セーダイおじちゃんは私が守る!」


ナイアの体が輝き、コクピットに逆流したエネルギーを防ぐ。


「あぁ……グゥゥ……。」


ダメージを受けすぎていた。

満足に喋れないほど、体内をズタズタにされた感覚がある。

マキーナが急速に回復しているが、指1つ動かせない。


[……ダイ!!セーダイ!!聞こえているか!?

ビーコンを確認した!!

安全装置(セーフティ)が解除されたからな!!

後3分で惑星破砕砲(バルムンク)がそこを消し飛ばす!

もういい!離脱するなら早くしろ!!

聞こえてるのか!?]


あぁ、聞こえているよ。


体は全く動かない。

それでも、無線から頼もしい友人の声が聞こえ、安心した気持ちになる。


そうか、後3分でこのクソッタレな惑星もお終いか。

ざまぁねぇぜ。


ナイアもここで吹き飛んじまうが、今の体はもう保たないらしいからな。

ロゥとアーリヤの子供に転生できるなら、上々だ。


良かった、これでバッドエンドは回避したぞ。

フフッ、俺にしちゃよく頑張った方じゃねぇか。




-それじゃあ、誰が貴方をハッピーエンドにしてくれるの?-




遠くで声が聞こえる。

さぁね、これもハッピーエンドなんじゃねぇかな。



-帰りたくないの?-



帰りたいよ。

帰りたくて仕方が無い。

こんな、“誰かの物語”で死にたくねぇ。

俺は、俺の人生を全うしたい。

それでも、もう疲れたのも、本音かな。



-でも、あと少し、頑張ってみない?-



はは、酷なことを言いやがる。

でも、そうだなぁ。

もう少しだけ、頑張ってみるか。




意識を取り戻すと同時に、激痛で身悶えする。


「がぁぁ!!痛ぇぇ!!

……クソッ!死の苦痛は生の喜びってか!?

ざけんな!死ぬほど痛ぇ!!」


<良かった、帰ってきたね。>


見れば、ナイアはボンヤリと光り、そしてその姿は半透明になっていた。


<一時的に、まきーな?さんに力を貸して貰ったの。

さぁ、セーダイおじちゃん、まきーなさんに指示をして。>


「転送を実行しろ!マキーナ!」


<システム、バージョンアップしました。

即時転送を開始します。>


俺の体が、光に包まれる。

今までと違い、すぐに爪先から光の粒子に変換されていく。


<バイバイ、セーダイおじちゃん。

私の知ってること、少しまきーなさんに渡しておいたね。

ありがと。>


何かを言うよりも早く、俺は転送される。

もう俺に出来ることは無い。

光の粒子に包まれながら出来ることと言えば、彼等の無事を祈ることくらいだ。






勢大がいなくなったコクピットで、透けた体の少女は満足げに微笑む。


-おのれぇぇぇ!-

-あと少し、あと少しでぇぇぇ!-


黒い球体から伸びる触手が、光の檻を引き千切ろうと触手を伸ばす。


だが、パイロットがいないはずのリファルケがより強く輝き、光の檻の拘束を強める。


<そう、アナタもハッピーエンドが好きなのね。>


微笑む少女の声が聞こえた次の瞬間には、大地に光のつるぎが突き立てられたのだった。

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