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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の羽
371/835

370:ステージ4~墜ちる星~

クラーク機に後ろを取られたまま、俺は飛び続ける。

途中のアテネの残骸を利用して撒こうにも、あちらの方が技量が上らしい。

俺が使おうとした残骸を先に破壊されるなど、ジワジワと命中精度が上がってくる。


[ハハハ、どうしたセーダイ、そろそろリファルケのシールドも限界だぞ?

だが安心しろ、一撃では殺さない。

お前の尻がどんな味がするのか、確かめてからで無くてはな!]


格好良い感じで言っているが、その内容は身震いするほど気持ち悪い。

絶対に負けられない戦いが、ここにある!


<どうするつもりですか?

このままでは後30秒ほどで撃墜されます。>


俺は周辺の地図を視野に収めながら、マルチロックレーザーを起動する。

対象は前方に浮いている残骸だ。

狙い通りに放たれた光は、それぞれ残骸に着弾すると爆発する。


[ハハッ!爆炎の中に突っ込んで目眩ましか!

いい手だが少し遅……ムッ!?]


「ロォォォゥ!!」


俺は雄叫びのような叫びを上げながら、ロゥのナイトフィーニクスに突撃する。


自分の想像する理想と、相手の想像する理想は違う。

言わなければ、それは人には伝わらない。

それでも、今この瞬間はロゥの機転に賭けるしかない。


[アララ、テストパイロット隊とは言え、練度が低ければ相手の位置も把握できずに自滅しちゃうのね。]


ハワード少尉とロゥが鍔迫り合いをしている中に、俺が突っ込んでいく、そう見えたのか、ハワード少尉もリン曹長も飛行形態に変型して飛び去る。


俺の方を見たナイトフィーニクスは、何かを確信し、突撃する俺の軌道から動かない。


[……今だな。]


酷く落ち着いたロゥの声が一瞬聞こえ、俺の機体がぶつかる直前、ナイトフィーニクスが飛行形態に変型して俺をやり過ごす。


やはり、ロゥは想像以上の腕前だ。

通り過ぎる瞬間、僅かに金属音が響いた。

つまり、俺の機体を掠める(・・・・・・・・)ギリギリを見極めて(・・・・・・・・・)避けた(・・・)、のだ。


[……東川一刀流、“朧月おぼろつき”。]


通り抜けた瞬間、ナイトフィーニクスが再度人型に変型し、後を追って接近していたクラーク機に向けて太刀を抜く。

クラーク機に向けて振るわれた刀もその腕部も、まるで霞がかったようにふつりとかき消える。


[グァハハハ!

残念!空振りだったようだなぁ!]


通り抜けたクラークのスクライカーから、俺の機体に向けてレーザーロックを飛ばしてくる。


[いいや、もう斬った(・・・・・)。]


[何をバカなこ、ここここぉとぉを!?]


ロゥが確信を持った言葉を吐いた次の瞬間、クラーク機がズルリと2つに割れ、まるで思い出したように断面から爆発していった。


[クラァークッ!!]


「オラ、感傷に浸る暇はねぇぜ!」


通り抜けた俺は、動きを止めたハワード機にガトリングガンを叩き込む。


[チィッ!舐めるなよヒヨッコ!!]


流石にトライスターと呼ばれるエースなだけはある。

瞬時に人型から飛行形態に可変すると、軌道を変えてガトリングガンの弾を避ける。

だが、それなりには当たった。

シールドのエネルギーが回復しきる前に押し切らせて貰う。


[ハワードはやらせない!]


[おおっとぉ!お前さんの相手は俺だ!]


ようやく2対2に持ち込ませて貰ったんだ。

タイマン張らせて貰うにゃ丁度良い、が。


ロゥの軌道を見ていると、言葉は無くとも何となくやりたいことが解る。

更には、ロゥから数字の羅列が送られてくる。

そこまでされたら俺でも気付く。


その時に向けて、ジワリ、ジワリとハワード少尉を追い詰めていく。


[しつっこいんだよ!この!]


ハワード少尉が反転しながら人型に変型する。


待ちに待った瞬間が来た。


俺はハワード少尉のスクライカーを大きく避けるように反転し、一気に加速する。


「行くぞ!ロゥ!」


ハワード少尉から距離を開け、人型に変型すると、エーテルキャノンを何も無い空間に照射する。


[でぇぇぇい!!]


[ハッ!焦ったわね!そんな見え見えの斬撃、簡単に躱して……えっ!?]


リン曹長のスクライカーが躱した先には、俺の機体から放射されたエーテルキャノンの光。


相手の移動進路を予測し、攻撃を置く。

それ自体は珍しいことじゃない。

だが上下に前後左右と、どう言う軌道も取れて目印も何も無い宇宙空間において、ロゥはそれをやってのけた。


先程送られてきた数字の羅列。

それは向かって欲しい座標軸と、撃ってほしい方向を示すモノだったのだ。


正直、内心で“やはりな”と思う。

これはロゥがあの神を自称する少年から受け取った不正能力(チート)なのだろう。


[リン!リィィィン!!]


ハワード少尉が叫びながら、右半身を失い漂うことしか出来なくなったリン曹長のスクライカーに飛んでいく。

リン曹長機に近付くと人型に変型し、そして抱きしめるように抱える。


「……恨んでくれて結構。ゆっくり休んでくれ。」


エーテルキャノンのトリガーを引く。

狙いは当然、抱きしめ合う恋人達だ。


エーテルキャノンの光が貫き、2機はその慣性に押し流されるようにゆっくりと遠ざかる。


[ねぇ、ハワード、あの丘よ。]


[あぁ、リン、美しいねぇ。]


ZX-1の重力に捕まったのか、火を噴きながら2機は絡まるように惑星に落ちていく。


[ハワード、一緒に帰ろ?]


[勿論さ。

僕等の故郷に帰ろう。

帰ったら、一緒に……。]



惑星に落ちる流れ星は、一際明るく輝くと燃え尽き、僅かな燐光を残して消えていった。



[セーダイ、援護射撃だ。

やっと来やがったぜ。]


最初、その光景を見続けていた俺には何の事だか解らなかった。


周囲をモニターして、ようやく状況が飲み込めた。


オベロンとテイタニアの足を止めての殴り合いに、ようやくバッカニアが追い付いてくれたのだ。


追い付いたバッカニアは、テイタニアの背面から次々と砲撃を放つ。

テイタニアも移動要塞レベルの大きさをしているとは言え、正面から同じクラスのオベロンと殴り合っているのだ。

その殆どのリソースは正面に回されていたらしく、バッカニアの砲撃でも、撃つ度にテイタニアから爆発と火の手が上がる。


「凄ぇな、まるで怪獣大決戦だぜ。」


[いや流石に古いだろ。]


このクラスの戦いだと、流石に俺もロゥも見ているくらいしか出来ない。

テイタニアもギリギリだったのだろう。

バッカニアに対して満足に反撃も出来ぬまま撃たれ続け、遂には蓄積ダメージの影響か、正面のシールドも消える。


防御の無くなったテイタニアは、最早オベロンの敵では無い。

オベロンの主砲、メガ・エーテルカノンの連射を延々と食らい続け、遂には轟沈していった。



[お、バッカニアへの帰投命令が出てるぜ。

取りあえず戻るか。]


「……そうだな。

感傷に浸るのはまだ早い……。」


ロゥに返事をしながら、違和感に気付く。

何故(・・)バッカニアは(・・・・・・)無事(・・)なんだ?


トライスターが発症、と言うのだろうか?あの黒い何かに浸食されたのに、バッカニアには影響が出ていないのか。

少なくとも、通信士からはおかしな感じは見受けられない。


この空間で、何が起こっているんだ?

俺は疑問を抱えながらも、バッカニアへと向かうしかなかった。

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