370:ステージ4~墜ちる星~
クラーク機に後ろを取られたまま、俺は飛び続ける。
途中のアテネの残骸を利用して撒こうにも、あちらの方が技量が上らしい。
俺が使おうとした残骸を先に破壊されるなど、ジワジワと命中精度が上がってくる。
[ハハハ、どうしたセーダイ、そろそろリファルケのシールドも限界だぞ?
だが安心しろ、一撃では殺さない。
お前の尻がどんな味がするのか、確かめてからで無くてはな!]
格好良い感じで言っているが、その内容は身震いするほど気持ち悪い。
絶対に負けられない戦いが、ここにある!
<どうするつもりですか?
このままでは後30秒ほどで撃墜されます。>
俺は周辺の地図を視野に収めながら、マルチロックレーザーを起動する。
対象は前方に浮いている残骸だ。
狙い通りに放たれた光は、それぞれ残骸に着弾すると爆発する。
[ハハッ!爆炎の中に突っ込んで目眩ましか!
いい手だが少し遅……ムッ!?]
「ロォォォゥ!!」
俺は雄叫びのような叫びを上げながら、ロゥのナイトフィーニクスに突撃する。
自分の想像する理想と、相手の想像する理想は違う。
言わなければ、それは人には伝わらない。
それでも、今この瞬間はロゥの機転に賭けるしかない。
[アララ、テストパイロット隊とは言え、練度が低ければ相手の位置も把握できずに自滅しちゃうのね。]
ハワード少尉とロゥが鍔迫り合いをしている中に、俺が突っ込んでいく、そう見えたのか、ハワード少尉もリン曹長も飛行形態に変型して飛び去る。
俺の方を見たナイトフィーニクスは、何かを確信し、突撃する俺の軌道から動かない。
[……今だな。]
酷く落ち着いたロゥの声が一瞬聞こえ、俺の機体がぶつかる直前、ナイトフィーニクスが飛行形態に変型して俺をやり過ごす。
やはり、ロゥは想像以上の腕前だ。
通り過ぎる瞬間、僅かに金属音が響いた。
つまり、俺の機体を掠めるギリギリを見極めて、避けた、のだ。
[……東川一刀流、“朧月”。]
通り抜けた瞬間、ナイトフィーニクスが再度人型に変型し、後を追って接近していたクラーク機に向けて太刀を抜く。
クラーク機に向けて振るわれた刀もその腕部も、まるで霞がかったようにふつりとかき消える。
[グァハハハ!
残念!空振りだったようだなぁ!]
通り抜けたクラークのスクライカーから、俺の機体に向けてレーザーロックを飛ばしてくる。
[いいや、もう斬った。]
[何をバカなこ、ここここぉとぉを!?]
ロゥが確信を持った言葉を吐いた次の瞬間、クラーク機がズルリと2つに割れ、まるで思い出したように断面から爆発していった。
[クラァークッ!!]
「オラ、感傷に浸る暇はねぇぜ!」
通り抜けた俺は、動きを止めたハワード機にガトリングガンを叩き込む。
[チィッ!舐めるなよヒヨッコ!!]
流石にトライスターと呼ばれるエースなだけはある。
瞬時に人型から飛行形態に可変すると、軌道を変えてガトリングガンの弾を避ける。
だが、それなりには当たった。
シールドのエネルギーが回復しきる前に押し切らせて貰う。
[ハワードはやらせない!]
[おおっとぉ!お前さんの相手は俺だ!]
ようやく2対2に持ち込ませて貰ったんだ。
タイマン張らせて貰うにゃ丁度良い、が。
ロゥの軌道を見ていると、言葉は無くとも何となくやりたいことが解る。
更には、ロゥから数字の羅列が送られてくる。
そこまでされたら俺でも気付く。
その時に向けて、ジワリ、ジワリとハワード少尉を追い詰めていく。
[しつっこいんだよ!この!]
ハワード少尉が反転しながら人型に変型する。
待ちに待った瞬間が来た。
俺はハワード少尉のスクライカーを大きく避けるように反転し、一気に加速する。
「行くぞ!ロゥ!」
ハワード少尉から距離を開け、人型に変型すると、エーテルキャノンを何も無い空間に照射する。
[でぇぇぇい!!]
[ハッ!焦ったわね!そんな見え見えの斬撃、簡単に躱して……えっ!?]
リン曹長のスクライカーが躱した先には、俺の機体から放射されたエーテルキャノンの光。
相手の移動進路を予測し、攻撃を置く。
それ自体は珍しいことじゃない。
だが上下に前後左右と、どう言う軌道も取れて目印も何も無い宇宙空間において、ロゥはそれをやってのけた。
先程送られてきた数字の羅列。
それは向かって欲しい座標軸と、撃ってほしい方向を示すモノだったのだ。
正直、内心で“やはりな”と思う。
これはロゥがあの神を自称する少年から受け取った不正能力なのだろう。
[リン!リィィィン!!]
ハワード少尉が叫びながら、右半身を失い漂うことしか出来なくなったリン曹長のスクライカーに飛んでいく。
リン曹長機に近付くと人型に変型し、そして抱きしめるように抱える。
「……恨んでくれて結構。ゆっくり休んでくれ。」
エーテルキャノンのトリガーを引く。
狙いは当然、抱きしめ合う恋人達だ。
エーテルキャノンの光が貫き、2機はその慣性に押し流されるようにゆっくりと遠ざかる。
[ねぇ、ハワード、あの丘よ。]
[あぁ、リン、美しいねぇ。]
ZX-1の重力に捕まったのか、火を噴きながら2機は絡まるように惑星に落ちていく。
[ハワード、一緒に帰ろ?]
[勿論さ。
僕等の故郷に帰ろう。
帰ったら、一緒に……。]
惑星に落ちる流れ星は、一際明るく輝くと燃え尽き、僅かな燐光を残して消えていった。
[セーダイ、援護射撃だ。
やっと来やがったぜ。]
最初、その光景を見続けていた俺には何の事だか解らなかった。
周囲をモニターして、ようやく状況が飲み込めた。
オベロンとテイタニアの足を止めての殴り合いに、ようやくバッカニアが追い付いてくれたのだ。
追い付いたバッカニアは、テイタニアの背面から次々と砲撃を放つ。
テイタニアも移動要塞レベルの大きさをしているとは言え、正面から同じクラスのオベロンと殴り合っているのだ。
その殆どのリソースは正面に回されていたらしく、バッカニアの砲撃でも、撃つ度にテイタニアから爆発と火の手が上がる。
「凄ぇな、まるで怪獣大決戦だぜ。」
[いや流石に古いだろ。]
このクラスの戦いだと、流石に俺もロゥも見ているくらいしか出来ない。
テイタニアもギリギリだったのだろう。
バッカニアに対して満足に反撃も出来ぬまま撃たれ続け、遂には蓄積ダメージの影響か、正面のシールドも消える。
防御の無くなったテイタニアは、最早オベロンの敵では無い。
オベロンの主砲、メガ・エーテルカノンの連射を延々と食らい続け、遂には轟沈していった。
[お、バッカニアへの帰投命令が出てるぜ。
取りあえず戻るか。]
「……そうだな。
感傷に浸るのはまだ早い……。」
ロゥに返事をしながら、違和感に気付く。
何故、バッカニアは無事なんだ?
トライスターが発症、と言うのだろうか?あの黒い何かに浸食されたのに、バッカニアには影響が出ていないのか。
少なくとも、通信士からはおかしな感じは見受けられない。
この空間で、何が起こっているんだ?
俺は疑問を抱えながらも、バッカニアへと向かうしかなかった。




