369:ステージ4~VSエース~
[トライスターが……何で……?]
ロゥが同じタイミングで、俺と同じ疑問を口にする。
黒妖犬に潜伏していたのかも、と思ったが、あの機体はワープの中継地点にある補給基地で死蔵していた機体だ。
アレに潜伏しているようなレベルなら、補給基地も俺達が到着している頃には既に地獄絵図になっていてもおかしくない筈だ。
ではアーリヤ女史が黒幕?
いや、自信は無いが、さっきの通信での彼女の声は、何かを隠している人間の感じではない様に思う。
[……あぁ、テストパイロット隊か。
……悪いが、俺達を……撃墜してくれないか?]
[ハワード少尉!無事なんですか!?]
3機の猟犬が、人型に変型して不規則な軌道を描きながら俺達を追い詰める。
ハワード少尉はまるで寝起きのようなボンヤリとした雰囲気ではあったが、機体の動きはそんな事を感じさせないほどの、恐ろしく機敏な動きだ。
[リンが……、救助終わりに……ZX-1を見て、調子が悪いと……。
近寄ったら……、黒い何かが……。]
<警告。ロックオンされました。>
スクライカーから射出されたミサイルを回避し、バルカン砲で叩き落とす。
改めてよく見てみれば、3機の中で02号機、リン曹長の機体から大量の黒い触手が伸びている。
03号機のクラーク機が次いで多く、ハワード少尉の機体は1番触手が少ない。
[緊急停止は!脱出出来ないんですか!?]
「駄目だ……。
停止コードも、緊急脱出も、全部、全部試したが……。
すまない、段々……眠く……。」
「ハワード少尉!寝ちゃダメだ!寝たら終わる!」
ドンドンとハワード少尉の言葉は重く、遅くなっていく。
俺とロゥで話し続けて意識を保たせようとするが、ハワード少尉は既に限界を超えていたようだ。
[……いいか、聞け。
コイツは、俺にお前等を敵と認識……させようとしてる。
母星に近付いたら、それが更に強く……。]
ハワード少尉は最後に、自身のコクピットの画像を俺達に繋ぐ。
コクピットの中は黒い粘液のようなモノで浸食され、ハワード少尉の体にも纏わり付くように覆っていた。
それが猛烈な勢いでハワード少尉の全身を包むと、それきり、ハワード少尉は沈黙する。
[チクショウ、どうしたら良いんだよ!]
ロゥの叫びに呼応したのかは解らないが、トライスターの3機は迷いのない軌道で俺達に向けて加速してくる。
[キャハハハハ!あの丘が待ってるわ、ハワード!]
[あぁ、また一緒にデートしよう、リン。]
楽しげなハワード少尉とリン曹長の声が聞こえる。
……もう、あの3人はソレになってしまったのだろう。
「落ち着け、ロゥ。
何も変わらん。
……アレは、俺達の敵だ。」
マルチロックレーザーを起動し、3機をロックするため、トリガーを引く。
[お前!彼等はトライスターなんだぞ!
俺達の……仲間じゃねぇか!?]
黙ってトリガーを離す。
放たれた誘導式のレーザーに対し、3機とも急加速と急減速を繰り返し、周囲に漂うデブリにレーザーを当てて回避される。
[ウム、誘導武器に頼りすぎるのは良くない。
もっとしっかり狙わなければ、我等の敵では無いぞ?]
クラーク氏が錐もみ旋回から急降下、人型に変型したと思うと即座に飛行形態になって上昇し、飛行形態のままでは絶対に出来ない軌道で俺をめくる。
そのまま通り過ぎた俺の後ろにピタリと食らいつき、レーザーロックしてくる。
「クソッ!ケツに食いつかれた!
ロゥ、何とかならねえか!?」
[馬鹿言え!
こっちはとっくに、ハワード少尉とリン曹長に食いつかれてらぁ!]
<警告。ミサイル多数。>
飛行形態の機体後部に設置されているアンチミサイルフレアを履き出すも、2発のミサイルがそれには引っかからずに俺を追尾する。
「こなくそっ!」
強引に大きめのデブリに突っ込み、人型形態に変型するとデブリにしがみつき、ブースターで強引に旋回すると盾にする。
[フム、見事見事。
そう簡単にセーダイの尻は掘らせてくれないか。
だが、俺ばかりに気を取られるのは良くないな。]
すまないがアブノーマルはお断りだ!
ってかアンタそう言う趣味があったのかよ!
そんな事を言いかけたが、デブリとミサイルの爆発の衝撃で吹き飛ばされた俺を、リン曹長のスクライカーがロックしてくる。
[アラ美味しそう、クラーク、アタシが頂くわよ!]
そういや、美味しいところを持ってく女、だと、ハワード少尉が言っていたな!
少し前の思い出が頭をよぎりながらも、爆風の衝撃に逆らわないまま飛行形態に変型し、急加速する。
先程まで俺がいた位置を、バルカン砲の弾丸とリン曹長のスクライカーが通り抜ける。
[アラ残念。
ガードの固い男ねぇ。
そういうの、モテないわよ?]
「うるせぇ!俺は妻一筋だ!」
リン曹長の煽りを返していると、またもやクラーク機が俺の後ろにつける。
ここまでの多重攻撃では、ましてやバルカン砲を先に撃たれていては反射攻撃も意味が無い。
バルカン砲の1発を反射吸収したところで、2発目で掻き消されて3発目以降の弾が無防備なリファルケに当たるだけだ。
こちらの機体の弱点を良く知っていやがる。
[クソが!斬り合いさせろや!]
ロゥの方からも怒号が聞こえる。
ハワード少尉がヒットアンドアウェイを繰り返し、ロゥのナイトフィーニクスに近付くのを最小限にしている。
時折リン曹長がちょっかいを入れ、そこに気を取られるとハワード少尉が急接近して人型形態になり、近接攻撃を叩き込んでは逃げる、と言うのを繰り返されている。
何だかんだ言っても、ロゥの奴は操縦センスは良い。
ハワード少尉機の近接攻撃を間一髪で防いでいるが、それもいつまで保つか怪しい。
「ロゥ、このままじゃラチがあかねぇ!
お前なんかいい手とか無いのかよ!?」
[馬鹿野郎!んな事俺が聞きてぇよ!
……おぉっと危ねぇ!おいセーダイ!お前なんか良い方法思いつけよ!]
どうやら、お互い同じ様に、詰みかけている状況のようだ。
「まいったな……。」
敵はこの世界のエース、俺にはそこまでの動きは出来ない。
昔、AHMを使っていた世界では、機体に“チェリーブロッソム”というブースト装置があったが、この機体にはアレは存在しない。
それでも、この機体とロゥの機体は、この世界でも最高峰の機体の筈だ。
少なくとも、黒妖犬よりかは上位に位置している。
なら、ロゥに全てを委ねるしか無いか?
「なぁ、ロゥ。
ちょっとお前に任せて良いか?」
[あぁ?何か勝てる策でも思い付いたか?]
そんなモノは無い。
ただ、お前が“転生者”であることに賭けるだけだ。
俺はニヤリと笑うと、飛行形態に変型し加速する。
「しっかり付いてこいよ、尻好き野郎!」




