368:ステージ4~弩級艦テイタニア攻略~
[残敵掃討はバッカニアの部隊に任せて、俺たちは先に行こうぜ。]
ロゥの言葉で、崩壊しつつあるアテネに釘付けだった目を離す。
「……そうだな。
まだ戦闘中だったな。」
飛行形態に可変し、先を急ぐ。
ナイトフィーニクスの斜め後ろを飛びながら、バックモニターでアテネの残骸を凝視する。
もしかしたら救難信号や救助を求める光が無いかと、“何が最善だったか”を悩みながら探す。
[……考えたって、仕方ねぇよ。
俺達は神様じゃねぇんだ。
今出来ることで最善と思えることを、選ぶことしか出来ねぇよ。
後はそれが、“俺にとって最善だった”って、自信を持つしかねぇよ。]
ぶっきらぼうに呟かれたその言葉が、ロゥなりの優しさだと理解出来る。
考えを読まれたようでちょっと癪だが、確かに奴の言うとおりだ。
考えたところで答えは出ない。
俺達は、出来ることをやるしかない。
「……まぁな。
ちなみに、お前はもしも神様とやらになれたら、何がしたい?」
[あ?んなもん、即放棄するに決まってんだろ。
俺は俺の人生で手一杯だ。
神様とやらになって、他人の人生も見なくちゃいけないとか、御免被るってヤツだな。
……転生した身ではあるがよ、俺は転生前も今も、自分の生き方に悔いはねぇよ。]
その言葉に、小さく笑う。
コイツと知り合えて本当に良かった。
「そういやお前、向こうで何があって、ここに転生したんだよ。」
[あ?そりゃお前……笑うなよ。]
ロゥ、いや東川洋一は、輸入貿易を取り扱う会社に勤める会社員だった。
明日が40歳になるという誕生日の前日、取引先からの帰り道。
夕暮れの、寂れた商店街を通り過ぎていた時に、それは起こる。
自分の前を歩く少女が転ぶ。
助け起こしてやろうかというその時に、急加速しながら突っ込んでくるファミリーセダンの高級車。
運転席に座る驚いた老人の顔が、今でも目に焼き付いているそうだ。
[……女の子を歩道に放り投げたところまでは記憶にあるんだけどよ。
そうしたらあの真っ白い地面の上にいたって感じだな。
女の子が怪我してなきゃ良いなと思うし、爺さんにも悪い事しちまったと思ってるよ。]
「……お前、引かれといてそのセリフが言えるってのは、凄ぇな。」
自分が引かれた事を恨むどころか、引いた相手の事を心配しているとは、どこまでコイツはお人好しなのか。
[とは言ってもな。
俺に恋人や親兄弟でもいれば話は違ったんだろうが、あいにく既に天涯孤独って奴でね。
あ、そうだ、会社じゃ俺が唯一フランス語を話せてたから、残された会社の奴等は少し大変かもな。]
ニシシ、と笑うロゥだが、奴の語るその人生は重い。
これぐらいの歳になると、親も良い年齢になってくる。
俺の親父や、ロゥの両親のように死んじまうのも出てくるだろう。
ヤツの方はそれで親族との縁も切れ、本当に1人だったようだ。
そうしてあの白い大地に立っていて、神を名乗る少年と出会い、“君の助けが必要な世界がある”と言われ、助けになるならと転生を受け入れたらしい。
どこまでもお人好しなロゥだが、こう言う奴もきっと世の中には必要なのだろう。
“最後に女の子を助けられて良かった”と語るロゥの声が、俺には羨ましく聞こえてならなかった。
こんないい歳になってもまだまっすぐなコイツが羨ましいのか、自分には出来ない考え方を出来る事が羨ましいのか、それはよく解らないが。
[おぉ、凄ぇ光でやりあってるな。]
モニター正面に映る、チカチカ光る小さな点。
それを拡大すると、中々に壮絶な光景が映る。
タイタン級、俺達が内部に余裕で入れた、言わば“移動要塞”のような巨大な戦艦である、オベロンとテイタニアが対峙し、互いに主砲から何からを撃ち合う、真っ向勝負の砲撃戦を繰り返している。
お互い戦艦用エーテルシールドを装備しているだけに、有効打を出せずにいるからより一層そう見えるのか、その戦いは完全に、“お互い足を止めてのノーガード殴り合い”そのものだ。
ただ、先程までこの殴り合いにアテネも参加していたからか、若干オベロン側の方が撃ち負けている。
テイタニア側にそこまでの大きな被害は見えないが、オベロン側は戦艦の一部が崩落しており、その辺りでオベロン所属のシルフが汚染シルフと交戦している。
「どっちから先にやるか!」
[テイタニアから先だろうな。
オベロンはもう少し持つだろ。]
戦況を見るに、そちらの方がまだ良いか。
オベロンの中にある惑星破砕砲がどうなっているのかが気になるが、それに囚われてばかりだと勝てる戦いも勝てなさそうだ。
「だな!
なら、テイタニアの背面からエーテルキャノンぶち込む!
援護頼むぞ!」
[任せろよ!]
行動を決めたなら、後はその通り動くだけだ。
飛び交う弾幕をかわし、テイタニアの背面上方に向かう。
近寄ってくる汚染シルフは、斬る瞬間だけ人型に変型するナイトフィーニクスに、次々と両断されていく。
[ハッ!手応えなさ過ぎて眠くなってくらぁ!]
ロゥは絶好調だ。
「おっと、慢心してると足元掬われるぜ?」
格好付けているロゥを狙う汚染シルフを、マルチロックレーザーで叩き落とす。
これがなきゃあ、コイツも格好良いままでいられるのに。
[おっと、悪ぃな。余裕って奴だよ。]
「余裕だして撃墜されそうになってちゃ、笑えねぇぞ。」
近くに寄る汚染シルフの姿が無くなったのを確認し、俺は人型に変型するとエーテルキャノンを接続する。
「よっしゃ、やるぞ。」
[おう、サッサと頼むぜ?]
ロゥのナイトフィーニクスが変型し、周辺の安全確保の為に飛び立つ。
俺は先程と同じように、エーテルキャノンの砲身をテイタニアの艦橋に向ける。
<エネルギー、充填完了。>
マキーナの声と共にトリガーを引き絞る。
砲身から放たれたエーテルの光は、狙い違わずテイタニアの艦橋を貫き、そのままテイタニアの前面装甲に着弾、小さな爆発を起こす。
「多分戦闘モードなら、メインブリッジを破壊してもサブブリッジが機能している筈だ。
そこをぶち抜くのは内部に入るしか無いが……。」
<まずはテイタニアの足を止めることを推奨します。
足を止めれば、あれは唯の巨大な的です。>
マキーナの助言通りだろう。
ちょうど背面上方にいるのだ。
そのままテイタニアのブースターを狙い、動きを止めた方が後々楽になる。
「聞こえるか、ロゥ!
次弾、テイタニアのブースターを狙う!
巻き込まれるなよ!」
[了解!
そんなヘマはしねぇよ!]
エーテルキャノンの銃身を、爆炎を上げる艦橋から下にさげ、ブースターのつけ根に向ける。
流石にこの巨体だ。
先程のアテネの様に、ブースターを破壊しても連鎖反応で爆発四散はしないだろう。
[!?セーダイ、避けろ!]
<警告、レーザー照射。ロックされました。>
ロゥとマキーナの警告を受けて、俺は反射的に飛行形態にするとその場から離れる。
俺を狙ったレーザー光と、誘導ミサイルが先程まで俺がいた位置を通り抜ける。
「ロゥ!テメェちゃんと警戒してたのかよ!」
誘導弾を撃ち落とし、怒りと共にナイトフィーニクスを見る。
これでは警戒させていた意味が無い。
[ち、……ちが……、アレ見ろ!!]
ナイトフィーニクスが指差す先を見て、俺も息をのむ。
戦艦バッカニア所属を示す黒と紫の機体色。
主翼に光る三ツ星の部隊章。
そして機体の隙間から、次の獲物を探すかのように伸びる無数の、黒い触手状の何か。
想像したくない状況が、俺達に近寄りつつあった。




