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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の羽
369/832

368:ステージ4~弩級艦テイタニア攻略~

[残敵掃討はバッカニアの部隊に任せて、俺たちは先に行こうぜ。]


ロゥの言葉で、崩壊しつつあるアテネに釘付けだった目を離す。


「……そうだな。

まだ戦闘中だったな。」


飛行形態に可変し、先を急ぐ。

ナイトフィーニクスの斜め後ろを飛びながら、バックモニターでアテネの残骸を凝視する。

もしかしたら救難信号や救助を求める光が無いかと、“何が最善だったか”を悩みながら探す。


[……考えたって、仕方ねぇよ。

俺達は神様じゃねぇんだ。

今出来ることで最善と思えることを、選ぶことしか出来ねぇよ。

後はそれが、“俺にとって最善だった”って、自信を持つしかねぇよ。]


ぶっきらぼうに呟かれたその言葉が、ロゥなりの優しさだと理解出来る。

考えを読まれたようでちょっと癪だが、確かに奴の言うとおりだ。

考えたところで答えは出ない。

俺達は、出来ることをやるしかない。


「……まぁな。

ちなみに、お前はもしも神様とやらになれたら、何がしたい?」


[あ?んなもん、即放棄するに決まってんだろ。

俺は俺の人生で手一杯だ。

神様とやらになって、他人の人生も見なくちゃいけないとか、御免被るってヤツだな。

……転生した身ではあるがよ、俺は転生前も今も、自分の生き方に悔いはねぇよ。]


その言葉に、小さく笑う。

コイツと知り合えて本当に良かった。


「そういやお前、向こうで何があって、ここに転生したんだよ。」


[あ?そりゃお前……笑うなよ。]


ロゥ、いや東川(ヒガシカワ)洋一(ロウイチ)は、輸入貿易を取り扱う会社に勤める会社員だった。

明日が40歳になるという誕生日の前日、取引先からの帰り道。

夕暮れの、寂れた商店街を通り過ぎていた時に、それは起こる。


自分の前を歩く少女が転ぶ。

助け起こしてやろうかというその時に、急加速しながら突っ込んでくるファミリーセダンの高級車。


運転席に座る驚いた老人の顔が、今でも目に焼き付いているそうだ。


[……女の子を歩道に放り投げたところまでは記憶にあるんだけどよ。

そうしたらあの真っ白い地面の上にいたって感じだな。

女の子が怪我してなきゃ良いなと思うし、爺さんにも悪い事しちまったと思ってるよ。]


「……お前、引かれといてそのセリフが言えるってのは、凄ぇな。」


自分が引かれた事を恨むどころか、引いた相手の事を心配しているとは、どこまでコイツはお人好しなのか。


[とは言ってもな。

俺に恋人や親兄弟でもいれば話は違ったんだろうが、あいにく既に天涯孤独って奴でね。

あ、そうだ、会社じゃ俺が唯一フランス語を話せてたから、残された会社の奴等は少し大変かもな。]


ニシシ、と笑うロゥだが、奴の語るその人生は重い。

これぐらいの歳になると、親も良い年齢になってくる。

俺の親父や、ロゥの両親のように死んじまうのも出てくるだろう。

ヤツの方はそれで親族との縁も切れ、本当に1人だったようだ。

そうしてあの白い大地に立っていて、神を名乗る少年と出会い、“君の助けが必要な世界がある”と言われ、助けになるならと転生を受け入れたらしい。

どこまでもお人好しなロゥだが、こう言う奴もきっと世の中には必要なのだろう。


“最後に女の子を助けられて良かった”と語るロゥの声が、俺には羨ましく聞こえてならなかった。


こんないい歳になってもまだまっすぐなコイツが羨ましいのか、自分には出来ない考え方を出来る事が羨ましいのか、それはよく解らないが。


[おぉ、凄ぇ光でやりあってるな。]


モニター正面に映る、チカチカ光る小さな点。

それを拡大すると、中々に壮絶な光景が映る。


タイタン級、俺達が内部に余裕で入れた、言わば“移動要塞”のような巨大な戦艦である、オベロンとテイタニアが対峙し、互いに主砲から何からを撃ち合う、真っ向勝負の砲撃戦を繰り返している。

お互い戦艦用エーテルシールドを装備しているだけに、有効打を出せずにいるからより一層そう見えるのか、その戦いは完全に、“お互い足を止めてのノーガード殴り合い”そのものだ。

ただ、先程までこの殴り合いにアテネも参加していたからか、若干オベロン側の方が撃ち負けている。


テイタニア側にそこまでの大きな被害は見えないが、オベロン側は戦艦の一部が崩落しており、その辺りでオベロン所属のシルフが汚染シルフと交戦している。


「どっちから先にやるか!」


[テイタニアから先だろうな。

オベロンはもう少し持つだろ。]


戦況を見るに、そちらの方がまだ良いか。

オベロンの中にある惑星破砕砲(バルムンク)がどうなっているのかが気になるが、それに囚われてばかりだと勝てる戦いも勝てなさそうだ。


「だな!

なら、テイタニアの背面からエーテルキャノンぶち込む!

援護頼むぞ!」


[任せろよ!]


行動を決めたなら、後はその通り動くだけだ。

飛び交う弾幕をかわし、テイタニアの背面上方に向かう。

近寄ってくる汚染シルフは、斬る瞬間だけ人型に変型するナイトフィーニクスに、次々と両断されていく。


[ハッ!手応えなさ過ぎて眠くなってくらぁ!]


ロゥは絶好調だ。


「おっと、慢心してると足元掬われるぜ?」


格好付けているロゥを狙う汚染シルフを、マルチロックレーザーで叩き落とす。

これがなきゃあ、コイツも格好良いままでいられるのに。


[おっと、悪ぃな。余裕って奴だよ。]


「余裕だして撃墜されそうになってちゃ、笑えねぇぞ。」


近くに寄る汚染シルフの姿が無くなったのを確認し、俺は人型に変型するとエーテルキャノンを接続する。


「よっしゃ、やるぞ。」


[おう、サッサと頼むぜ?]


ロゥのナイトフィーニクスが変型し、周辺の安全確保の為に飛び立つ。

俺は先程と同じように、エーテルキャノンの砲身をテイタニアの艦橋に向ける。


<エネルギー、充填完了。>


マキーナの声と共にトリガーを引き絞る。

砲身から放たれたエーテルの光は、狙い違わずテイタニアの艦橋を貫き、そのままテイタニアの前面装甲に着弾、小さな爆発を起こす。


「多分戦闘モードなら、メインブリッジを破壊してもサブブリッジが機能している筈だ。

そこをぶち抜くのは内部に入るしか無いが……。」


<まずはテイタニアの足を止めることを推奨します。

足を止めれば、あれは唯の巨大な的です。>


マキーナの助言通りだろう。

ちょうど背面上方にいるのだ。

そのままテイタニアのブースターを狙い、動きを止めた方が後々楽になる。


「聞こえるか、ロゥ!

次弾、テイタニアのブースターを狙う!

巻き込まれるなよ!」


[了解!

そんなヘマはしねぇよ!]


エーテルキャノンの銃身を、爆炎を上げる艦橋から下にさげ、ブースターのつけ根に向ける。

流石にこの巨体だ。

先程のアテネの様に、ブースターを破壊しても連鎖反応で爆発四散はしないだろう。


[!?セーダイ、避けろ!]


<警告、レーザー照射。ロックされました。>


ロゥとマキーナの警告を受けて、俺は反射的に飛行形態にするとその場から離れる。

俺を狙ったレーザー光と、誘導ミサイルが先程まで俺がいた位置を通り抜ける。


「ロゥ!テメェちゃんと警戒してたのかよ!」


誘導弾を撃ち落とし、怒りと共にナイトフィーニクスを見る。

これでは警戒させていた意味が無い。


[ち、……ちが……、アレ見ろ!!]


ナイトフィーニクスが指差す先を見て、俺も息をのむ。


戦艦バッカニア所属を示す黒と紫の機体色。

主翼に光る三ツ星の部隊章。


そして機体の隙間から、次の獲物を探すかのように伸びる無数の、黒い触手状の何か。


想像したくない状況が、俺達に近寄りつつあった。

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