358:ステージ3~失敗~
「おおっと!今度はこっちのヤツか!?」
エイの装甲の一部が開閉し、機銃が一斉射する。
何とかそれをかわしながらガトリングガンを撃つが、弾が当たる前に装甲が閉まり反射されてしまう。
魚の鱗のような装甲板、と言えば良いのだろうか。
六角形の装甲板が時々せり上がり、その下にある機銃が顔を覗かせて一斉射すると、装甲板が下がり他の装甲と一体化する。
最初は規則性があり、装甲板があいた瞬間を狙ってやろうとしていたが、それがバレたのかすぐに不規則な動きに変えられてしまった。
「これだと、ラチがあかねぇな。」
<あのオトゥームという機体は、恐らく宇宙空間用と言うよりは、大気圏内での運用を主眼に置いて改良が加えられているようです。
上面装甲は、こと射撃戦に対して強い防御力を持っているようですね。
代わりに下面装甲は、地上からの射撃に耐えられるよう、物理面を強化した物のようです。>
しくじった。
これではまるで逆の運用だ。
タイタンの時には直感を信じて上手く行ったからと、ロゥをたき付けて下に行かせたが、コレならアイツがこっちに来ていれば、あの高速振動剣で装甲を容易く切り裂けたって事か。
似たような状況で、“さっき上手く行ったから”と安易に選んだ結果がこれか。
<ともあれ、選んだ選択肢を正しいモノに変えるしか無い、という、いつも勢大が言っている通りの状況でしょう。
先程からの射撃で、ランダムとは言えある程度のパターンは推測できました。
尾翼に辿り着く前に、戦闘能力は削いでいた方が良いと思われます。>
言い終わると、マキーナは俺の右目に同調を始める。
頼れる相棒だと思った瞬間、視界の中で照準が踊る。
それと同時に、恐ろしいほどの激痛が俺の頭に走る。
「アガガガッ!?
な、何してるんだマキーナ!?」
<照準を肩代わりします。
勢大には火器の管制をお願いします。>
言葉にするなら、人間には出来ない速度で俺の目を動かされている、だ。
この感覚を表現するならば、それは“眼球を掴まれて頭を振り回されている”レベルの激痛を、つねに感じ続けるのとイコールだろう。
そんな視界に映るのは、連続した映像では無くフレームの足りない画像を連続で映し出すような、コマ送りの映像だ。
しかも気を抜けば失神しかねない痛みが、俺の頭を走り続けている。
とてもじゃないが集中など出来ないなか、それでも無理やりタイミングに合わせて装甲の隙間を狙う。
「ぬぐぐぐ!
マキーナ!後どれくらいで尾翼だ!?」
頬を生暖かい液体が伝う。
涙か血か、もはやそれを確認することすら出来ない。
開いた装甲板から覗く機銃を幾つも破壊してはいるが、結局それとて装甲板が閉じられてしまえば内部へ追加攻撃が出来ない。
<後5秒。>
マキーナのご神託を聞きながら、永遠にも思える地獄の5秒を耐える。
エイの後ろ半分位は殆どの機銃を破壊できたと思うが、激痛で結果は確認できていない。
[セーダイ!無事だったか!!]
「応とも、こっちは……ロゥ、お前の方こそ大丈夫なのか!?」
美しい黒だったナイトフィーニクスの面影が解らなくなるくらい、アチコチが被弾し傷付いていた。
一番大きな損傷は、左腕が肩部を除いて丸々無くなっていることか。
[まぁな、左腕の盾で拡散弾防ごうとしたら持ってかれちまってよ。
あとは飛行形態に変型できなくなったみたいだが、まだまだやれるぜ。]
「……すまねぇ、俺のミスだ。」
[へっ、喰らったのは俺の操縦が未熟だからだ。
テメェの未熟を、誰かのせいにする気はねぇぜ。
……って、おおっと!]
俺達の会話に割り込むように、尾翼部分、長く伸びたエイの尻尾が、俺達を叩き落とそうと振り下ろされるのを、何とか2人とも躱す。
[俺の機体はもう変型できないから、アイツの加速にはついて行けない。
すまねぇセーダイ、お前一人で行けるか?]
オトゥームはドンドンと離れ、そして雲海の中に沈んでいく。
俺はナイトフィーニクスの周りを旋回しながら、必死に考える。
あの尻尾も、反射装甲で出来ている。
なら、俺の機体では無駄に時間がかかる。
俺達が追いつけないと解れば、奴は迷わず下の定着エリアを狙うだろう。
なら、ナイトフィーニクスの高速振動剣を借りて俺がアイツを攻撃するか?
<不可能です。
あの高速振動剣はナイトフィーニクスの専用武装であり、リファルケの出力ではあの威力には到達しません。>
だろうな。
でなければこの機体にもソレが装備されているはずだ。
恐らくはこちらの荷電粒子砲、あちらの高速振動剣と、互いの隙を埋める専用武装なのだろう。
「……そうだ。
おいロゥ、足裏のリベットピックは生きてるか?」
[あぁ?そりゃ空飛んでたんだから、足裏には被弾はねぇよ?]
“何言ってるんだ?”とでも言いたげな雰囲気のロゥだったが、いちいち説明している時間は無い。
俺はロゥに向けて進路を取ると、少しだけ減速する。
「ロゥ、あのエイの化けモン倒すにはお前の剣が必要だ。
だから、乗れ!」
[……?
あ、そうか、解った!]
ロゥは高速振動剣を背中に収納すると、空いた右腕で俺のリファルケをすれ違いざまに掴む。
激しい衝撃とナイトフィーニクスの重量で進路がブレるが、掴んだのを確認すると一気に加速して強引に軌道を立て直す。
[ちょっ!?バカッ!?
もう少し優しく乗せてくれよ!]
「お姫様をエスコートするときゃ、そうしてやるよ。」
加速し続け、何とか雲海に沈みきる前のオトゥームを捕まえる。
こちらに再度意識を向けさせるべく、ガトリングガンにミサイル、ついでにツインキャノンも撒き散らす。
全て反射装甲で跳ね返されるが、こちらの存在を認識したようだ。
雲海に沈みかけた胴体が急上昇し、背面をこちらに向けるように反り返りながら、俺達の頭上を飛び越える。
さながら海面から飛び跳ねる鯨のように、ある種荘厳さすら感じさせる。
[コイツはまた、優雅なショーじゃねぇか。]
ロゥが口笛と共に感想を漏らす。
俺と似たようなことを感じていたようだ。
「あぁ、そうだな。
……次の時にはナイアちゃんも連れてくるか。」
[馬鹿言え、泣き出しちまうよ。]
お互い小さく笑うと、ナイトフィーニクスがリファルケの上に立つ。
雲海に潜ろうとするオトゥームに追い付く。
その尻尾は、またもや俺達を叩き落とそうと振り下ろされる。
[よし、それじゃいいな?
リベットピック打ち込むぞ?]
「あいよ、任せたぜ相棒。」
ロゥのナイトフィーニクスが足場を踏みしめるようにガシガシと俺のリファルケを踏みしめ、足裏から短いピックを突き刺して固定し、機体を安定させる。
ナイトフィーニクスは残った右腕で高速振動剣を抜き放ち、肩に担ぐように振り上げて構えると、体を捻らせる。
[おう、任された。]
俺達の機体サイズ位はありそうな太さの、大質量で振り下ろされるオトゥームの尻尾。
俺の機体の上という不慣れな足場。
神経は伝達されているとは言え生身では無く、ALAHMという機械の体。
更には全身傷だらけで、左腕すら無い。
……それでも。
「御見事。」
空から、音が消える。
東川一刀流の極意。
“音すら断ち斬る必殺の一撃”
ロゥのナイトフィーニクスが放つ一撃は、オトゥームの尾を真っ二つに斬り取っていた。




