357:ステージ3~一難去って……~
[ヒャッホー!どうだ!中々にスリリングだったろう!]
「……お前には2度と先導させねぇ。」
戦艦タイタンから脱出し、無事に外へと出ることが出来た。
途中、何度も冷や汗をかいたが、マキーナの指示で人型に変形してやり過ごすなど、何とか切り抜けることが出来た。
直角に曲がるルートを何度も選ぶとか、コイツ戻ったら絶対1発殴ってやる。
だが、最短で脱出したことが功を奏したのか、タイタンは中心にある反応炉が破壊され、そこから次々と誘爆が始まっている。
至る所から火を噴き、爆発が見える。
少しでも遅れていたら、あの爆発に巻き込まれていただろう。
あの船には何千、いや何万人も乗っていたはずだ。
その中で、もしかしたらまだ汚染されていない人も居たかも知れないと思うと胸に痛みが走るが、もうどうしようも無かった。
タイタンの本格的な爆発が始まり、艦の本体が幾つものブロックに分割されていく。
マキーナの計算通りなら、戦艦の破片は燃え尽きるか定着エリアの遙か先へ落下する。
それにより気候変動があるだろうが、その頃には脱出が終わっている算段だった。
ここの星に住む原生生物にはダメージがあるだろうが、今までの状況から見るとこの星の生物はあまりにも危険だ。
いずれは外宇宙に出て来てしまう事は想像出来る事だし、となると付属であの黒い生物の蔓延を許すことになるだろう。
それならば、申し訳ないがここで絶滅してもらった方が人類には有益だ。
砕け散るタイタンを見ながら、俺は少しだけホッとした気持ちになっていた。
<警告、敵性存在の反応を検知。>
気持ちが落ち着きかけたところで、マキーナからの警告。
俺は即座に顔を上げ、周辺を探る。
「……な、何だ、ありゃあ?」
思わず声が出る。
空を浮く巨大魚。
エイか何かの化け物のように見えるその姿、その規模は、巡洋艦クラスにも引けを取らない大きさだ。
[機動拠点オトゥームか!
何であんなモンがここにあるんだよ!]
「な、何だ?機動拠点?」
ロゥの叫びを聞くに、アレは“オトゥーム”という名称らしい。
俺には、空を優雅に泳ぐ巨大なエイにしか見えないが、相当ヤバいものなのだろうか。
<敵機体、情報を表示します。>
マキーナが映し出す、オトゥームの情報に目をやる。
機動拠点オトゥーム。
宇宙空間や空中戦など、“橋頭堡や防衛拠点を構築できない状況”に対応すべく、軍部が開発していた移動拠点。
有利・不利が出にくい空間戦闘において、戦艦等が到着する前に陣地を形成して前進基地とする、言わば橋頭堡の役割を持った大型の戦闘艇に分類される。
コレ1機でAHM一個中隊12機の格納、整備と補充が出来ると言うことで、当初は期待されていたらしい。
だが、結果的に恐ろしいほどの高コストな機体となり、“なら巡洋艦とかを回せば良くないか?”と言う、始めから気付けよ、と思える欠点から、実際に生産されたか怪しい幻の機体、だったようだ。
「なるほど、浪漫機体だったわけだ。
だが、なら欠陥のひとつもあるんじゃねぇか?」
<あの機体は、当初の設計から随分とカスタム化されているようです。
全身を反射装甲で固めているようです。>
追加で表示されるカスタム後の機体データを見ると、“何故この機体にそこまで金かけたんだ?”と疑いたくなるような情報が表示される。
「あのエイ、全身にリフレクトシールドと同じ効果を持つ装甲つけてやがるのかよ……。
ご丁寧に推進器の周りまで、その装甲で覆ってやがるのか。
しかも武器は正面に拡散式エーテルキャノン……って、正面!?」
慌ててオトゥームを見ると、平べったい全身の下部分、エイで言えば口の部分に当たる装甲板が大きく開き、内部の砲身が微かに見える。
[……何か、あぁ見ると愛嬌があって可愛いな。]
「バカ!それどころじゃねぇ!
回避行動を取れ!」
リファルケのリフレクターはまだ再装填中だ。
俺は慌てて飛行形態になり、正面を回避するために大きく右に旋回する。
ロゥの奴もヤバいと思ったのか、俺の後を旋回しながら着いてくる。
<発射、今。>
瞬間、雷が光ったのかと思うほど強い光が視界を遮り、拡散式エーテルキャノンが発射される。
[うぉお!?危ねぇ!!]
拡散式エーテルキャノンの1発が、ナイトフィーニクスをかすめる。
当然ナイトフィーニクスにだってエーテルシールドは装備されているが、防ぐ暇すら与えない威力で、ナイトフィーニクスの翼をかすめていた。
<勢大、あのオトゥームですが、予算が足りなかったのか後ろのテールキャノンとそのつけ根のあたりは反射装甲が搭載されていないようです。
ただ、旋回能力は高いようで、左右では無く上下から回り込む必要があります。
上からか、下からか、どちらかから回り込み、背面に回るのが有効です。
ただ、上は対空機銃の山が待ち構え、下は先程の拡散弾の余波と、ついでに格納されているであろうシルフとの戦いが予想されます。>
「よし、ロゥ、二手に分かれよう。
オレは危険そうな上に行く。
お前は比較的安全な下から回り込んで、尻尾のあたりで合流だ。」
俺が言うか早いか、ナイトフィーニクスは急速に上昇してオレの上を取る。
[嘘つけ!
こっちのAIではそのルート、“モスト・デンジャラス”って警報なりまくってるぞ!]
チッ、バレてたか。
<今からあちらのAIにハッキングをかけますか?>
ハイそう言うの良いから。
「ロゥ、俺はお前を信頼している。
どっちの方が勝率が上がるか、それを見極めた上でお前に頼んでいるんだ。
お互いの得手不得手を考えると、多分これが現状のベストだ。」
[……ったくよぅ、そう言われたら断れねぇじゃねぇか。]
ナイトフィーニクスが急降下し、巨大エイの下に向けて加速する。
[てめぇ、これで撃墜されたら承知しねぇからな!]
「安心しろよ、俺達なら出来る。」
リファルケのブースターを全開で吹かし、巨大エイの上に飛び出す。
予想以上に激しい弾幕に心が折れそうになるが、ロゥをたき付けた手前、こんな事で尻尾巻いて逃げ出すわけにはいかない。
<勢大、格好をつけたからには、責任を取らないとですね。>
「俺は権利は好きだが、義務や責任は嫌いな方なんだ!」
錐もみのように旋回しながら、ガトリングガンを撒き散らす。
エイの装甲は俺の弾を受け止めるが、反射自体は的外れな方向に飛んでいる。
いや、的外れと言うよりは、装甲板に対して垂直に撃ち返しているようだ。
「とは言え、そんな事が解ったところで、意味はねぇな!」
<今の現象を解析しました。
あの装甲板に対して鋭角に侵入するように、最大出力の荷電粒子砲を撃ち込めば有効打になり得ましたが、空中で最大出力で撃つには左手が必要です。>
良いアイデアと思った瞬間にこれか、と、肩を落とす。
ともあれ、無いものを悔やんでも仕方が無い。
次々と撃たれる機銃からの弾を避け、俺は現状の打開策に頭を悩ませるのだった。




