356:ステージ3~タイタン破壊~
<次、右上に鉄骨が突き出しています。
機体を45度傾けて下さい。
その次は左上のクレーンがこちらを掴みかかろうとしているので破壊を……いえ、それは今ナイトフィーニクスが破壊しました。
そのまま機体を水平に保って。>
「いっぺんに言われても解んねぇよ!!」
嵐のような操縦の忙しさとマシンガントークのマキーナに、俺の脳は焼き切れそうだった。
頭からは湯気でも出ているだろう。
ただ、後ろの俺の事を思ってか、ロゥが器用に飛行形態と人型形態を使い分けて攻撃的な意志を持つ障害物を叩き斬ってくれているので、まだ脳内オーバーヒートまではいかずに済んでいた。
<ナイトフィーニクスが斬った残骸が、障害物として飛んできます。>
「おわっと!こうか!」
ガトリングガンでこちらに飛んでくる残骸を粉々にする。
流れ弾がナイトフィーニクスのシールドにかすめているのが見える。
[馬鹿野郎!俺に当たるところだったじゃねぇか!]
「うるせぇ!こっちも必死なんだよ!」
カタパルトへの輸送路をようやく抜けると、巨大な格納庫内に出ることが出来た。
この先の壁をぶち抜くと、タイタンの機関部に出られる。
先程までの嵐が嘘のように、格納庫内は電気が通っておらず薄暗く、そして静かだった。
[うげ、何だこりゃ。
四方全部に、気持ち悪いのが浸食してるな。]
ロゥの呟きを聞き、壁面を調べる。
ロゥの言うとおり、金属の壁や天井、床に至るまで、真っ黒い何かがまだらに覆い、その一つ一つが生きているかのように脈動している。
何となくだが、巨大な生物の胎内にいるような、そんな錯覚を感じていた。
「この、艦内を覆っている何かの間に、シルフもチラホラ見えるな。
……なぁ、こう言うシチュエーションさ、ゾンビ映画とかでよくあるよな。」
何事も無く格納庫の奥まで辿り着き、お互い人型形態に変型する。
ロゥが壁面をスキャンし、どこを斬れば良いかを調べている最中、何となく思ったことを口にしてしまう。
[ばっ……お前、この状況でそれ言うかぁ?
……スキャン終わるまで2分だからな。]
ロゥの言葉がまるでキッカケになったように、周囲の感染したシルフの目が赤く光る。
<総数、凡そ30機。
……勢大、頑張って下さい。>
奴等が動き出す前に、即座に荷電粒子砲を撃ち込む。
2機か、3機のシルフを巻き込むことが出来たが、それでも赤い目は暗闇に無数に光り、そして黒い何かを引き千切りつつゆっくりとこちらに歩め始める。
「ろ、ロゥ、頼む!
早くしてくれ!」
[これでも十分急いでいるよ!
ちょっと相手しててくれ!]
俺は覚悟を決めると、地上を滑るようにホバー移動する。
最初の敵にはガトリングガンを叩き込み、そのまま左斜めに流れながら左腕のバルカンでもう1機沈める。
外周を回るように滑り、各機を視界に入れて複数ロック。
ミサイルの連続発射で、かなりの数を削る。
「来ると思ってたよ!ナックルガード展開!
……しねぇ!?」
爆炎の中から飛び出してきた汚染シルフ。
全部は倒しきれないとは予測していたし、散々射撃戦で優位をとっているのだ。
絶対に近接戦に持ち込んでくると予測していたが、案の定爆炎に紛れて近付いてきやがった。
汚染シルフの踏み込みの速さから見ても、この距離で既に銃は振り回せない。
ALAHMにも当然、人間の手や指に該当するマニピュレータがある。
だが、変形機だからか、AHMよりも結構繊細に出来ているのだ。
その為、マニピュレータを守る部品として手首の部分に“ナックルガード”と呼ばれるリングが着いており、接近戦ではそのリングがせり上がって、手首から先を守る構造になっている。
予め左腕を開けておいたのも、誘い出して接近戦で仕留めるためだ。
だが、これまでの戦闘で歪みが出来ていたのか、それとも試作機にありがちな不具合なのか。
ナックルガードが完全にせり上がらず、握り手の半分くらいで止まってしまう。
「クソがっ!」
ほんの少しだけ迷うが、マニピュレータを守ってコクピットをやられたんじゃ本末転倒だ。
リファルケの左拳で汚染シルフのコクピットを全力で殴り付け、左マニピュレータが鈍い音を立てるのを聞きながら貫き通す。
シルフから抜き取った時にも更に嫌な音が響き、手首から先が無くなってしまっていた。
「クソッ!最悪だ!」
[セーダイ!どっかやられたのか!?]
機体をスキャンするが、リファルケの戦闘能力自体が落ちたわけではないようだ。
荷電粒子砲は左背面から展開される時に左腰でホールドされる。
より直感的だから左マニピュレータでトリガーを引いているが、それ自体はコクピットからでも火器管制は出来る。
左腕に備え付けのバルカン砲も、アームカバーのお陰で問題なく作動する。
左手で物が掴めない意外は、別段問題ない。
「大丈夫だ!左手でナニが掴めないくらいだ!」
[そんだけ下品なジョークが飛ばせるなら、いつも通りって事だな!!
……よし、ぶった斬ったぜ!]
汚染シルフは次々と目を覚ましてくる。
俺はロゥを急かし、こじ開けた壁の隙間に機体をねじ込むと、荷電粒子砲を構える。
「退路は後で考えるぜ!
良いな、ロゥ!」
アイツの答えを待たず、間髪入れずに荷電粒子砲を発射して殺到する汚染シルフを薙ぎ払い、道を塞ぐ。
その後は多少の障害はあったが、何とかこのタイタンの心臓部、反応炉エリアに到達する。
[……コレ、全部ぶっ壊さなきゃいけないのか?]
ロゥがゲンナリしたような声を出す。
この規模の戦艦を動かすのだ。
反応炉は1つの筈が無く、通路の左右にはシリンダーに入ったクリスタル状の石達が、眩い光を輝かせている。
シリンダーの中にあるのは結晶化したエーテルだ。
俺達の機体くらい、おおよそ全長20メートルクラスのエーテルクリスタルが数十基、この船を動かすエネルギーを、今も作っている最中だった。
「当たり前だろ、じゃなきゃ俺達は何しにここに来たんだって話だぜ。」
俺は荷電粒子砲をセットする。
「おいロゥ、今から最大出力で荷電粒子砲を照射する。
連射じゃなくて照射になるから、俺の後ろに回り込んでてくれ。」
[あぁ、アレか、OK。
んじゃ俺は最短の脱出経路を準備しておくわ。]
出力を120%に固定しつつ、トリガーを引く瞬間にふと気になる事を聞いておく。
「オイ、まさか“トンネルステージ”じゃないだろうな?」
[安心しろよ、さっきよりスリリングで楽しいステージ見繕ってやるから。]
俺は天を仰ぐと、怒りと恨みを込めてトリガーを引く。
荷電粒子砲から吐き出される光は、俺の心を現すかのように次々とエーテルクリスタルを薙ぎ払っていった。
「アーメンハレルヤピーナッツバターってか、クソッタレめ!」
[神様は休暇とってラスベガスってな、あのマンガでも言ってるぜ。]
次々と誘爆が起きつつある反応炉から、俺達は急いで飛び立つ。
地獄のトンネルステージを抜けながら。




