355:ステージ3~タイタン攻略戦~
「クソッ!いつまでこうすりゃ良いんだ!」
無数の機銃から吐き出される弾幕を掻い潜り、掃射で戦艦の表面を撫でる。
その度に幾つもの機銃が破壊されていくが、何せ本来なら軌道上を周回し続ける、最終防衛線にもなりうる設備を持った戦艦だ。
その規模はバッカニアの比では無く、最早これは機動要塞と言った方がマシかも知れない。
「ロゥ!そっちはどうだ!取り付けたか!?」
[無茶言え!
こっちは格納庫近くなんだぞ!
機銃避けながら汚染シルフの団体さんと交戦中だよ!]
あ、良かった、あっちの方が地獄だわ。
そうか、確かにあっちは格納庫と機体射出口が多めに設置されてたな。
俺の腕じゃ機銃避けながらシルフの相手とか無理だわ。
……いやいや、そんな事思ってる場合じゃ無ぇ。
ロゥの腕は、まぁ確かに多少は俺より上かもしれんが、いつまでもコレじゃお互い共倒れだ。
そう思いながら、チラと他の交戦中の部隊の無線に耳を傾けるが、どこも状況は良くない。
このままでは本当に全滅もあり得る。
[クソッ、面倒くせぇなぁ!
ツッコんで一気にバラせりゃ楽なのによ!]
ロゥの愚痴に、ふと思い付く。
「なぁ、内側からエーテル反応炉をぶち抜いたらさ、この戦艦落ちねぇかな?」
[……お前こんな時に馬鹿言ってん……いや、面白いな、それ。]
ロゥから、何かのデータが送られてくる。
弾幕を避けながらそれを開いてみれば、この要塞の構造図が表示される。
そこに、矢印が表示される。
表示された矢印はこの要塞の正面、主砲の間にあるAHM射出口だ。
「……いや、お前の方がバカだろ。
何サラッととんでもねぇ位置指定してるんだよ。」
[あぁ?俺とお前の位置から考えたら、ここが1番合流しやすくて、エーテル反応炉への道も単純だろうが!
ともかく、正面で合流だ!
遅れるなよ、相棒!]
俺は苦笑しながらも、機体を旋回させる。
螺旋の様に回転しながら弾を避け、機銃を破壊しつつ通り抜ける。
「オーライ、相棒。
まぁ喧嘩売るなら、正面から正々堂々と乗り込みますか。」
[あたぼうよ!まっすぐ行ってぶっ飛ばす!]
威勢の良さにまた少し笑う。
コイツは本当に、面白い。
だからこそ、ますます死なせたくない奴だ。
<正気ですか勢大。
あまり良い策とは思えませんが。
それよりも一旦軍の方を救援し、仲間と共に改めてタイタン攻略に乗りだした方が、勢大の安全が確保されます。>
「この状況で、正気を保っている方がおかしいだろ?
それに、お前の案は却下だ。
お前の案なら俺の安全は確保されるが、要塞からの砲撃で市民が大勢死ぬ。
ここは多少の無理をしてでも、俺とロゥの2人であの要塞を潰すべきだろうよ。」
マキーナは少しの沈黙の後、“それが、貴方の選択であるなら”と言ったきり黙り込む。
“怒らせてしまったかな”と一瞬考えたが、すぐにマキーナから最適な移動経路が表示される。
何だかんだで、マキーナが面倒見の良い存在で助かった。
まぁ、こうして頼り切りというのも、あまり良くないことだろうな、とぼんやり思いつつ回避行動を続ける。
<……依存度合……強化させ……必要あり……。>
「あん?何か言ったかマキーナ?」
マキーナからのノイズが一瞬入ったが、どうやら進路を計算中に音声が出たらしい。
まぁ確かに、何か考え事をしてるとつい一人言とか言うしな。
“段々人間みたいになってきたな”と、ちょっとマキーナを面白く思うが、まずはそれをからかう前にやる事をやってしまおう。
「ロゥ!こっちは後30秒位で正面に出るぞ!」
[もう着いてる!早く来い!]
タイタンの正面に回ると、機銃どころか主砲までもがロゥの機体を狙っている。
[クッソ!避けきれねぇ!]
ロゥのナイトフィーニクスに、主砲の照準がピタリとあう。
それを見た瞬間、俺は射線上に飛び出していた。
<勢大、危険です。>
「やってみなけりゃ解らねぇってなぁ!リフレクター、最大出力だ!」
シールド強度を上げるため、人型形態に変型し両手を突き出す。
主砲から放たれたエネルギーを、リファルケは押されながらも受け止め続ける。
マキーナは危険だと止めるが、一応のカタログスペックでは戦艦の主砲を受け止めることも可能と記載があった。
後は、昔見た記憶、だろうか。
ロズノワル共和国軍最後の部隊。
白猫の群れと自らを名乗るリーダー。
彼の機体が、惑星破砕砲と呼ばれた光学兵器を受け止め、逸らしていた。
その記憶にかけたのだ。
「やっぱり俺って、不可能を可能に……!」
[馬鹿!お前それ続編が無いと死ぬ奴だぞ!]
主砲のエネルギーを全て吸い取り、シールドの外側をエネルギーが荒れ狂う。
「オラ!お返しだ、受け取れ!」
全てを正面に集約し、撃ち返したことで主砲を破壊、システムにも影響が出たのか、タイタンが沈黙する。
「よし、今がチャンスだ、乗り込むぞ!」
[全く……。
お前といると、命が幾つあっても足りねぇよ……。]
ロゥがぼやきながらも先行し、正面のAHM射出口を高速振動剣で叩き斬り、進入路を作る。
[どうする?お前先に行くか?]
「いや、こういう風に隔壁が降りていたら、それだけで入れ替わるのは時間のロスだ。
お前が先行しろ。
俺が後ろから援護する。」
ロゥは不満を言いたげではあったが、現状それ以外にいい手は思い付かなかったようだ。
何かをゴニョゴニョ言っていたが、諦めたように飛行形態に変型すると進入路に飛び込んでくれたので、俺も変型して後を追う。
射出口の中からカタパルトを通るが、当然のことながらカタパルトはAHMが通るための幅しか無い。
まぁ、戦艦から射出する場合、様々なサイズのAHMまたはALAHMを宙に浮かして磁力で加速して打ち出すので、AHM1機分ピッタリというわけではないが。
それでも、狭いことには変わりない。
しかもカタパルトの突き当たりは昇降機で、ナイトフィーニクスが昇降機の板を斬り裂くのが見える。
何か嫌な予感がする。
[おいセーダイ、お前エースが戦闘機でコンバットするあのゲーム、やったことあるか?]
唐突にロゥがそう訪ねてくることが、俺の不安を更に加速させる。
「……いや、やったことは無いな。
動画でなら、何度かプレイ動画を見たことはあるが。」
[そうか。
……あのゲームにな、シリーズ伝統のステージがあるんだ。]
オイまさか、止めろよ?
絶対やるなよ?
[戦闘機でトンネルを抜けるって言う名ステージでな、俺も何度もやりこんだぜ。]
言い終わるが早いか、飛行形態に変型したナイトフィーニクスが昇降機の先に飛び込む。
リファルケに覗き込ませると、本当にここは飛行形態分くらいの隙間しか無い。
<勢大、ここが最短ルートです。
私もサポートします。>
マキーナ先生からも嬉しい御神託だ。
「クソがっ!このルートを選んだ奴はどこのどいつだ!
ぶっ飛ばしてやる!」
<鏡を御用意致しますね。>
俺は覚悟を決めると飛び込んだ。
少し前の自分を呪いながら。




