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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の羽
350/832

349:ステージ2~保護~

「少し落ち着いたかしら?

それじゃあアナタの事、話してもらえる?」


リン曹長がホットコーヒーを震える少女に手渡しながら、彼女のこれまでを訪ねる。

少女は毛布にくるまりながらコーヒーに口をつけたが、すぐに顔を上げる。

それを見たリン曹長は追加の砂糖を渡していた。

既に砂糖とミルクを大量に入れていたが、それでも彼女にはまだ少し苦かったようだ。




あの後、少女を保護したところで、トライスター隊の面々も格納庫に降り立ってきてくれた。


聞けば、地上勢力もあの場だけではなく、同じ様な数の大部隊が別側面からも襲ってきていたらしく、先にそちらを制圧してから戻ってきたらしい。

今回は今までと違い、随分と大攻勢だった。

それにエーテル武器という、新兵器も。

それで勝ち目があると踏んだのか、それとも奴等にも何か予定外のことが起きたのか。


ともあれ、そんな今回の大攻勢も、からくも俺達人類側の勝利で切り抜けられた。


いや、勝利と呼べたかは疑問が残る結果か。


軍のシルフは、降下している分だけとは言え、その数を半数近くまで減らしていた。

敵地上勢力に対してはある程度優位を保てるが、敵の航空勢力は素早く動き回るインセクトビーに、攻撃力・防御力共にシルフ以上のインセクトリーパーだ。

ましてや今回、定着エリア地下からの奇襲も受けている。

これに対して全滅では無く、半数の損害で済んだのはまだ良い方かも知れなかった。


歩兵と戦闘車輌も同じ様に大損害を受けている。

まだ宇宙空間に残っている兵力を降下させない限り、今のままでは先手を打っての攻勢は難しい状況だ。


「なぁ、ナイアちゃんは“未登録市民”ってのは本当か?」


「……どうにも、そうらしい。

ハワード少尉もさっきID確認をしていたそうだが、“ナイア・ドリームランド”という少女は登録されてないそうだ。」


救助した少女、この格納庫でのたった一人の生き残り。

彼女もまた、扱いの難しい存在だった。


自身を“ナイア・ドリームランド”と名乗り、それ以外のことは殆ど記憶がない少女。

彼女曰く、怪物から無我夢中で逃げていたらここを見つけ、オヤジさんに助けて貰ったそうだ。

その後は、俺が推測した通り。


オヤジさんは新型機を射出した後正面扉を塞ぎ籠城戦を行うが、敵のサソリ型(これは後に“インセクト・スコーピオン・タンク”と命名された)のエーテル弾を受けて、正面扉が損壊。


格納庫内部で激しい銃撃戦の後、“ここは安全だ、少し寒いが我慢してくれ。凄腕のパイロットがもうすぐ君を助けに来るから”と言われてあのサーバールームで震えながら待っていた、と、そう言うことらしい。


「未登録市民か……、彼女、大丈夫だよな?

放り出されたりしねぇよな?」


「俺が知るかよロリコン。偉い人に聞いて来いよ。」


“何だとテメェ”と、ロゥが俺の胸倉を掴もうとしたところで、ハワード少尉が間に入る。


「ストップだ。

そんなに血気盛んなら後でトレーニングルームにでも行け。

それよりもロゥ、彼女の生体反応を確認したのはお前か?

セーダイは彼女の生体反応を確認していたか?」


少しだけ考え、あの時のことを思い出す。


「自分は、リファルケに登場時は確認できませんでした。

その後は機体を降りて探索しましたので、探知機能は低下していたと思います。」


「自分のナイトフィーニクスは、そっちのポンコツより高精度なヨツビシの感知センサーを使っています。

最終的に調べた温度感知センサーで、サーバールームから微弱な生体反応を検知しました。」


<ポンコツとは言ってくれますね。

……何か報復措置をとりましょうか?>


はい、マキーナさんは黙っててね。


ハワード少尉とロゥの顔をチラと見た後、ナイアと名乗る少女の横顔を見る。

リン曹長の問答に、怯えながらも一生懸命に答えているその表情からは嘘が読み取れない。

怯えてはいるが、顔立ちは整ってる。

その透き通るような白い肌と、しっかりとした目鼻立ちはまるで精巧な人形のような美しさを感じる程だ。

そして金色の、だが光の加減では銀色にも見える長い髪は、あまりこの移民船団では見かけない不思議な色味だ。

着ているワンピースも随分と古めかしいデザインにも見える。

こんなに美人なら、両親もそれなりに目立つ外見をしていそうなモノだ。

それに、その綺麗な髪を維持するには、密入国の貧民には到底不可能だろう。


「おい、何ジッとナイアちゃん見てるんだよ?

お前の方がロリコンなんじゃねぇか?」


観察を邪魔されて腹が立つが、ここで怒っても奴の思い通りになるだけだ。


俺は少しロゥの顔を見ると、大人の余裕で鼻で笑い、ハワード少尉に向き直る。


「それで少尉、彼女はどういう処遇で?」


「あ、ソレムカつく、はいカチーンきましたー!

マジ俺カチーンきたよぉ!

謝るならマジ今のうちだよぉ?」


うるせぇなコイツ。


「あー、じゃれ合いは後でにしろって言ってんだろ?

……まぁ、恐らくは彼女の両親は“密入国者”だったんだろうと上は判断してる。

だからとっとと保護施設に送り込みたい所ではあるが、状況が状況だ。

サーバールームで余計な物を見てないか、少し俺達ロズノワル軍で預かることになる。

それが終われば、彼女にはロズノワルで過ごすか、一般市民に戻るか選ばせる、ってとこだな。」


「そんなん、勝手すぎますよ!

彼女は記憶も失って、家族も失って!

それなら、俺が面倒見ますよ!」


ハワード少尉の言葉に、“まぁ、妥当な線ですかね”と言いかけた俺を制して、ロゥが吠える。

先程までの冗談交じりの掛け合いとは違い、その目はいつになく真剣だ。

俺とハワード少尉を食い殺さんばかりの勢いで、強く睨み付けている。


「な、なんだよ、お前そんなに彼女のことが気に入ったのか?」


「うるせぇ!クソッ!

俺はお前に、親近感を感じていた!

もしかしたら、友情みたいなモノも感じていたよ!

だが俺とお前は違うんだな!

お前みたいなクソと、親近感を感じていた自分に腹が立つ!」


流石に怒りが湧き、立ち上がって構える。

こんなに駄々を捏ねる奴だとは思わなかった。

結局アレか、コイツも何だかんだ言って、所詮は転生者ということか。

何処かで自分は物語の主人公だと感じていて、ヒロイン候補が出て来たからそれを手に入れようという訳か。


「はぁ、お前等、あのな……。

もう良い、ここで騒ぎを起こすな。

今からトレーニングルームで白黒付けてこい。」


「いや、しかし今は……」


ロゥが怒りながらも、現在の状況を気にした発言をしかける。

だが、ハワード少尉はもう本当に面倒に思ったのか、姿勢を正して正面を見据える。


「両者起立!

ローイチ・ヒガシカワ、セーダイ・タゾノ両名はこれより、トレーニングルームで2時間の模擬戦闘を行え!

これは命令である!

以上、走れ!」


ハワード少尉に怒鳴りつけられ、俺達は直立の姿勢を取ると敬礼し、二人揃って駆け出していた。

何事かとこちらを見る、周囲の視線に耐えながら。

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