347:ステージ2~逆転~
<システム、起動します。>
薄暗かったコクピット内に、灯が点る。
ヘルメットのコードを繋ぎ、視覚同調が行われる。
最初に見えたのは、機首にしがみ付いている俺の相棒。
彼と、目が合った気がした。
俺が無事にリファルケを起動できた事を見届け、そして自身の役目を果たせて満足したかのように、すべり落ちていく。
「今までありがとよ、相棒。」
地面に落ちたグリフォンは、まるで最後の抵抗をするように群がる蛙人間達を巻き込み、爆発する。
最後まで、良い機体だった。
「おっと、感傷に浸るのは後だ。」
俺は操縦桿を握りしめると、先を飛ぶナイトフィーニクスと同調を開始する。
「……飛行機動安定ヨシ。
よしロゥ、お前もコイツに乗り移れ。」
[マジかよ!お前バカなんじゃねぇの!?]
ロゥの至極普通の発言に笑いそうになるが、そうも言ってられない。
“黙って乗るか、下に降りて蛙人間に飲まれるのが良いか、諦めてナイトフィーニクスを捨てるか、好きな選択肢を選べ”と言うと、観念したように飛び移ることを選ぶ。
[機動はそのまま安定させておいてくれよ!]
ロゥのグリフォンは飛行形態のまま真上にピッタリ付けると、ほぼ接触するまで近付けるが、へっぴり腰のまま飛び降りるのを躊躇している。
<勢大、インセクトビーの大群が近寄っています。>
「わかった。
……ロゥ!お前の安全は確保してやる。
飛び移るときに落ちて死ぬなよ!」
ロゥの罵声が聞こえた気がするが、それを無視して機体を傾け、ハチの大群に機首を向ける。
<システム、最大稼働>
次の瞬間、ロックオンマーカーが複数発生して、ハチにロックオンがかかる。
「フン、こりゃ良いな。
散り散りに飛び回るコイツらが、いい加減ウザかったところだ。」
トリガーを引くと、ロックオンに応じたミサイルが次々と発射されていく。
羽根の下、左右に三門ずつある発射口から絶えずミサイルが飛び出して、狙い通りにハチ達を次々と爆炎に変えていく。
「おぉ、こっちに居やがったか、糞カマキリ。」
一際大きな飛行物体、インセクト・リッパーが忙しなく頭を動かし、こちらを見定める。
「悪いが、お前を相手にしてる暇はねぇんだ。」
ガトリングガンのトリガーを引くと、無数の光の雨がリッパーを通り過ぎる。
光の雨が通り過ぎた後には、よく解らない残骸がバラバラと地面に降り注いでいく。
グリフォンのバルカン砲ではまともに攻撃が通らなかったが、コイツのガトリングガンなら一瞬でケリがつく。
[ったく、酷ぇ目に……オイ!セーダイ!狙われてるぞ!]
ロゥも無事にナイトフィーニクスに乗り移れたようだが、その安全を確認している隙をハチに狙われてしまう。
しまったと思ったが、マキーナは落ち着いていた。
<勢大、安心して下さい。
“カウンターシステム”起動。>
ハチから放たれたエーテル弾は、リファルケの全体に展開しているエーテルシールドに吸い込まれ、そして波打つように1周した後、全く同じ方向にエーテル弾を吐き出し、後ろに着いてきていたハチを撃ち抜く。
<システムを完全に掌握しました。
勢大、このカウンターシステムは起動中に敵の攻撃を追加で受けると、カウンターが発動せずに霧散してしまうようです。
ご注意下さい。>
霧散程度で済むなら、充分凄ぇ盾じゃねぇか。
「オーライ相棒、だがこの状況、どう覆す?」
マキーナは即座に、リファルケに積載されている1つの武器を指定する。
「荷電粒子砲か……。だがコイツを使うには飛行形態では無理って書いてねぇか?」
<撃つ際には人型に変形する必要があります。
ただ、この武器を最大出力で奴等の出入口に砲撃してやれば、出入口を破壊するだけでなく、周囲の建築物や地面が溶けた金属として流れ込みます。
虫を退治するにはうってつけかと。>
なかなかマキーナも過激なことを考えてくれる。
ともあれ、現状次々とやって来る蛙と虫退治には効果的だろう。
機体を人型に変形させ、荷電粒子砲をスタンバイする。
機体背面のバックパックに左側繫がったそれを起動すると、銃身が左腰のロック機構でガッチリとホールドしてくれる。
すぐ近くにある奴等の穴をみれば、うじゃうじゃと蛙人間と岩蜥蜴、そしてサソリが這い出し、俺に目がけてエーテル弾を放ってくる。
「狙うにゃ少し邪魔だな。」
メインのガトリングガンをサソリ共と岩蜥蜴に、サブの左腕にあるバルカン砲を蛙人間に狙いを付ける。
けたたましいチェーンソーのような轟音と共に吐き出される弾丸が、敵性生物を次々と制圧していく。
20秒も撃ち込めば、最早周囲には死骸しか、いや、下手したら“何かの残骸”しか残らぬ、死臭漂う静かな大地へと早変わりだ。
「まだ出て来やがるか。
……どんだけいるんだコイツら。」
俺は穴に照準を合わせトリガーを引くと、およそ射撃音とは思えない甲高い音が鳴り響き、エーテル粒子で包まれたプラズマが瞬きの間に着弾、穴の周りを鉱物が溶けたスープに変える。
煮えたぎる鉱物のスープは穴の中に流れ込み、穴を塞ぎつつ中から出ようとしてきた生物達を瞬時に溶かしていく。
「酷ぇ死に方だ。
こう言う死に方だけはしたくねぇな。」
自らの行いの結果に少しだけ寒気を覚えるが、ここで心を萎えさせるわけにはいかない。
自らの感情に蓋をして嘯くと、次のターゲットに向かう。
そうして次々に穴を塞いで周り、太陽が傾き、日が沈み出す頃には、夕日で赤いのか、それとも奴等の血で赤いのか解らない、真っ赤な大地がそこにはあった。
[……こっちも終わったが、酷ぇ有り様だな。]
「あぁ、そうだな。
……格納庫、行くか。」
人型に変型していたリファルケの隣に、ナイトフィーニクスが降り立つ。
機体を歩かせているだけだ。
実際に、自分の力で歩いているわけじゃない。
だが、俺達の心は重く、心なしか機体の足取りも重くなりながら、格納庫を目指す。
[オヤジさん!皆!誰かいないのか!!]
ロゥの声が拡声器から広がり、そして虚しく木霊する。
格納庫の正面、俺達がゲートと呼んでいる正面扉が部分的に破壊されている。
正面扉は、通常時には開きカタパルトが展開しているが、収納時や非常時は閉じられており、AHMクラスで無ければこじ開けるのは難しい。
それでも格納庫の扉の下、おおよそあのデカいサソリが入れるくらいのサイズに突き破られている。
ただ、俺達の機体が入るには小さすぎる。
「ロゥ、頼む。」
[……わかった。バックアップ頼む。]
ナイトフィーニクスに搭載されている高速振動剣が光を放つと、格納庫の扉は音も無く断ち切られる。
格納庫は、予想以上に酷い有り様だった。




