345:ステージ2~襲撃と奇襲と~
[どこ撃っても当たるぜ!ハハッ!
……クソがっ!!]
ロゥがぼやきながらウェーブ砲を乱射する。
正式名称はエーテルウェーブカノン。
通常のエーテル弾はエーテルを凝縮し、1つの弾頭を形成するが、この武器はエーテル弾を細かな粒として弾体を形成し、例えるなら散弾銃のように、広範囲に細かな弾頭を射出する。
ただ、散弾銃と違うのはエーテル弾同士が干渉し合い、1つの巨大な波として吐き出される事からエーテルウェーブカノンと命名されている。
また、銃身も先端に行くほど広がり、まるでラッパのような形状をしていることから、整備兵の間では“ラッパ銃”とも呼ばれていた。
「ロゥ、銃身が真っ赤になってるぞ!
冷却システムを起動しろ!」
[お前のだってそうなってる!
ハッ!こりゃ、銃身は別の素材に変えた方が良さそうだな!]
“生きて帰れたらな!”そう叫ぶと、冷却剤を銃身に吹きかける装置を起動する。
接続が悪いのか、武器をモニターしている計器上では全く過熱していないことになっているが、冷却剤を吹きかけた瞬間に計器上の温度が乱高下し始める。
「あー、こりゃ、グリフォンとのコネクト部分に問題が発生してるな。
この感じだと、地上掃射したら冷却やらねぇと、簡単に銃身がおしゃかになるぞ。」
[あ、それか。
それもオヤジさんへの報告情報だな。]
そんな、やや現実逃避とも思える事を俺とロゥで話ながら、地面の集団に向けて交互にウェーブ砲で掃射機動を取る。
何周も掃射していてやっと見えたが、蛙人間の装備が全身プロテクターのような格好になっており、手にはエーテル技術の応用らしきアサルトライフルモドキを
持っている。
俺達が地上に向けてウェーブ砲を撃ちまくる間、地上の蛙人間達も手持ちのライフルを乱射しているが、射程が足らないのかここまでは届かない。
岩蜥蜴も、背中の岩がただ岩状の物体が乗っているだけではなく、機銃の様な物が着いておりそこからマシンガンの様に光の粒が連続で撃ち出されている。
更に今回、サソリの様な生物がチラホラと見える。
サソリの様な生物は、その尻尾から大きな光の弾丸を撃ち出してくる。
先程から撃ち出されている大きな光の弾は、コイツが犯人のようだ。
[トライスターがもう少しで増援と共に来るらしい!
敵性生物の特徴でも送っといてやるか!]
「遅ぇよバカ、こっちでもうやってる!」
俺達が足止めしていたことが幸いし、敵性生物の進軍はかなり足を鈍らせていた。
このまま増援も来れば、先遣隊基地の時のようにはならないはずだ。
だが、言いようのない不安がずっとついて回る。
<勢大、気付いていますか。
この位置に、敵の航空部隊はいません。
それだけでなく、定着エリア、バッカニア周辺含め周囲の空間も調べてみましたが敵航空勢力の影が見えません。>
マキーナが静かに呟く。
俺の違和感の正体に気付かされる。
そうだ、何故航空戦力がない?
今までの奴等の攻撃では、必ずハチとカマキリが航空戦力としていたはずだ。
じゃあ、何故奴等はここに居ない?
[待たせたな!騎兵隊の登場だぜ!]
ハワード少尉率いるトライスター隊だけでなく、バッカニア船団の航空戦力の殆どがこちらに到着していた。
バッカニア船団の航空部隊は、血に飢えた猟犬のように、次々と地上の蛙や岩蜥蜴、黒サソリ達を粉々にしていく。
「マズい!
おいロゥ!すぐに基地に引き返すぞ!」
ウェーブ砲に冷却剤を噴霧するが、限界を超えていたのかエラーメッセージが表示されるのを見て、迷わず切り離す。
軽くなった機体を旋回させると、定着エリアに向けて進路を取る。
[あ、お、おい!
この戦場がまだ終わってないのに、離脱するのかよ!?]
ロゥの言葉に怒鳴り返そうとしたその時、基地からの通信が届く。
-バッカニアエアフォース部隊!引き返してくれ!
地面から奴等が!う、うわぁぁ……-
俺はブースターを最大まで踏み込む。
防ぎきれない重力を体に感じながら、最大速度で定着エリアに向かう。
[オイ!今の通信、お前何か知ってるのか!?]
「知らねぇよ!
ただ、奴等の航空戦力がいないって事は、何かヤベぇ事が起きてるって、そう思うだけだ!」
<定着エリアに敵航空戦力の気配が発生しました。
急速に数を増やしています。>
危惧していたことが現実となる。
“何故”や“どうやって”が頭を巡るが、今それを検討したところで意味はない。
「見え……何だと!?」
定着エリアの上空を、虫が群がるように飛び交っている。
ただ飛び交うだけでなく、青白い光線が次々と軍のシルフを撃墜していっている。
飛んでいるのは例のハチ達。
だが、ハチは全てが黒く、尻の位置、針のある位置に砲身がついている。
胴体を器用に曲げ、砲身を斜め下に向けると地上に向けて砲撃している。
軍のAHMであるシルフも空を飛べはするが、昆虫の動きで空を飛ぶハチ達の機動力には勝てない。
簡単に回り込まれ、四方から撃ち続けられてシールドが剥がされ、そして次々に撃墜されている。
<機動力を落とさないように、すれ違いながら撃墜する様にして下さい。
少しでも減速すれば彼等に掴まります。>
「そりゃそうだろう!減速なんて出来るかよ!」
流石に恐ろしすぎて減速なんて出来ない。
何とか加速したまま、通り過ぎざまにバルカン砲を乱射してハチを撃墜してまわる。
[ぅおい!マジかよ!
何でこんなにハチ達がいるんだよ!?]
ロゥのグリフォンがやっと追い付いてきたらしく、惨状に絶句している。
出撃するときにはいなかった敵性生物が、黒い靄のように定着エリアを飛び交っているのだ。
ロゥでなくても、そうなるだろう。
<勢大、解りました。>
マキーナがモニターの左下に透過映像を表示する。
ボロボロの定着エリアの一部に穴が空き、その中からゾロゾロと蛙人間とハチ達が現れている。
蛙人間はそのまま周辺の建物にアサルトライフルモドキを乱射し、ハチ達は次々と飛び上がっている。
「……なるほど、道理でさっきの部隊には航空戦力はいないはずだ。」
だが、タイミングが良すぎる。
どうして虫やら爬虫類やらが、俺達の暴動を知っている?
偶然にしては出来過ぎている。
[こちら防衛部隊!本部、応答せよ!我、敵中孤立!増援はまだか!?]
何も言わずとも、マキーナが地上本部と救援を送っている部隊の状況を表示する。
地上の軍施設は、その殆どが炎に包まれている。
管制塔だった物は、既に瓦礫の山になっている。
「マキーナ、トライスターの面々がこっちに戻ってくるのはどれくらいだと思う?」
<後30分はかかるものと想定されます。>
少し悩んだ後、救援を求める部隊に進路を取る。
「ボムの準備を。」
<警告。推奨出来ません。>
マキーナの言葉を俺は無視し、セーフティを外す。
進路上のハチを次々と撃墜しつつ、救援を求める部隊に近付く。
「虫と爬虫類共を驚かせるなら、どうせなら派手な花火をあげてやらねぇとな。」




