344:ステージ2~強襲~
[オイ、起きろよセーダイ!何かやべぇ事態だぞ!]
「んぁ……。」
野郎の声で起こされる休日の朝は最悪だ。
それがまだ午前5時をようやく回ろうという時なら、尚更だろう。
昨日はこの世界の歴史を調べていたせいで、割と寝るのが遅かった。
疲れたし寝るか、と思い深い眠りに入ったところで、ベッドの近くに備え付けられている通信機からロゥの怒鳴り声だ。
怒りすら覚えたが、それよりも切羽詰まった様なその声に、若干の不穏なモノを感じる。
「……何だよ、うるせぇなぁ。
休みの日に野郎に起こされる趣味はねぇぜ?
……何かあったのか?」
[定着エリアの一部で暴動があった。
俺達にも緊急待機命令が出てる。]
定着エリアとは、落下してきたコロニーブロックが集まって都市を作っているエリアの事だ。
聞けば、その定着エリアの一部で市民が暴動というか、騒ぎを起こしているらしい。
それも今までのような単体で暴れ回るのでは無く、集団として行動しているというのだ。
「まぁ、ここ最近の敵性生物との戦闘が、市民にもバレ始めているからな。
不満もあるんだろうさ。」
度重なる敵性生物の攻撃に、最近では流石に情報統制も意味を無くし始めていた。
とは言え、半年以上“軍事演習”または“大規模偵察”で隠し通せてきたのだから、それは素直に統治機構の手腕を褒めるべきか。
それでも、半年を過ぎる頃から市民間にも不信や不満が現れだし、有志の個人ジャーナリストがもたらす真実が徐々に蔓延して、市民の不安に思う感情が膨らんでいっていた。
特に最近では、バッカニア統治機構に対して情報開示を求めるデモ活動も行われ出していた程だ。
「違う、そうじゃないんだ。
……あの時と、同じなんだ。」
その言葉で、一気に目が覚める。
「わかった。
着替えてグリフォンに向かう。
お前も先に行け。」
俺はすぐにパイロットスーツに着替えると、通信機器を起動する。
(念には念を入れとくか)
通信を送る相手はハワード少尉。
短い文章を送る。
先程ロゥが言った言葉、“あの時”とは、奴が所属していた先遣隊の基地でのことだ。
断片的な話ではあるが、先遣隊の基地が落ちた時、最初に起こったのは市民の暴動だったそうだ。
暴動を制圧する為に基地守備隊が出動し、状況が混沌としてきた頃に敵性生物に襲われたらしい。
戦線を張ることも出来ず基地内部まで侵入を許し、後はもう、濁流にのまれる木の葉の如く、散り散りに押し流されたらしい。
奴は無事だった生存者を1つのビルに集め、自分の小隊でそれを最後まで守り続けていたらしい。
それが本当だとしたら、今は先遣隊基地とは比べものにならないほどの人間がこの大地に定着しようとしている。
被害を考えると、目眩がしそうな程だ。
通信を終えた俺は、格納庫へと走る道中、ロゥと合流する。
「おっ、セーダイ、早いな。
俺達のグリフォンもスタンバイしとけって連絡が今更入ったぜ。」
「いや、スタンバイじゃない。
準備できたら飛ばねぇと、間に合わなくなるかも知れんぞ。」
その言葉に、すぐにロゥも頷く。
俺達の立場は、言ってみれば船団の中でも微妙な立ち位置だ。
何処かの実働部隊に所属しているわけではないので、整備班長の許可申請がおりれば俺達の判断で飛ぶことも可能なのだ。
「テスト中の広範囲ウェーブ砲のテストとか、何でも理由は良い。
とにかく相手に先手を打たれるのだけが怖いから、何とか先に飛んでおこうぜ。」
「そうか、それがあったな。
ちょっとオヤジさんに連絡入れとくわ。」
走りながらロゥが通信をすると、何か怒鳴り声が聞こえたが承諾は得たようだ。
格納庫に到着すると、整備兵達が慌ただしく走り回っている。
「オイ、ロゥ!
テメェまた無茶言いやがって!
今から付け替えだ、10分……いや5分もらうぞ!」
整備班長はその声とは裏腹に、何処か嬉しそうではある。
俺達はそれに手を上げて返事を返すと、すぐに見慣れたグリフォンのコクピットに滑り込む。
ヘルメットを被るとすぐに整備班長の声が聞こえる。
[いいか?解ってると思うがコイツはグリフォン用に調整されてない。
ヤバいと思ったら、すぐにパージするんだぞ!]
[了解!T01、ロゥ、グリフォン出るぜ!]
甲高い鳴き声と共に、黒と砂色が入り混じるグリフォンがカタパルトから飛び出す。
俺は機体を戻ってきた射出式カタパルトに乗せると、操縦桿を握りしめる。
「テストパイロット隊02号機、セーダイ・タゾノ、グリフォンで出ます。」
[02、射出!]
見えない力でグッとパイロットシートに押されながら、空へと飛び立つ。
もう何回となくコレを繰り返しているが、それでも俺の中で一番好きな瞬間だ。
自分の意思で地を離れ、自由に空を飛ぶ。
少しだけ、いつものし掛かっている心の重圧も、この時だけは軽くなる気持ちになれるからだ。
[やっぱり侵攻しようとしてやがる!
9時の方向、大部隊だ!]
ロゥの声で、感傷に浸っていた思考を中断する。
奴が指示した方向を見れば、予想通り地面を這う黒い集団が、定着エリアに向けて進軍していた。
「黒いな?
やっこさん達、また何か新しい装備でも着けてきたのか?」
<警告、回避して下さい。>
マキーナの声を聞き、反射的に進路をずらす。
地面からチカッと何かが光ったかと思うと、先程まで俺がいた空間を、青白い光が通り抜けていく。
[な……な……。]
「エーテル……弾……?」
俺達は、その通り抜けた光に絶句していた。
エーテルの弾。
エーテル粒子を圧縮し加速して、弾体として射出する事で、戦艦の装甲ですらぶち抜ける力を得る、俺達の機体にも搭載されている武器。
同じエーテル粒子を展開するエーテルシールドでしか防げない、この時代における最強の兵器。
<続けて来ます。回避行動を。>
「ロゥ!避けろ!」
マキーナの声を聞いた瞬間、俺は操縦桿を傾けつつロゥに怒鳴る。
地上の黒い集団から、まばらではあるがチカチカと何かが光り、そして次々に俺達の機体の脇を通り抜けていく。
[馬鹿な!?
文明の進化が早すぎるだろぅ!?
どうなってるんだよ!?]
「俺が知るかよ!
お前ちょっと行って、“どうやって進化したんですか?”って、聞いて来いよ!」
飛び交う弾を避けながら、時にエーテルシールドに掠めながら、俺達は必死に回避する。
それしか方法は無かったとは言え、たった2機で来たことを後悔しながら。




