342:ステージ1終了~地上戦と違和感~
「おおおお、落ちるぅ~!!」
<あんな撃ち方をするからです。
出力が一時的に低下するのですから、普通は減速ではなく加速してから使う、或いは人型に変型してから使うのが定石と、マニュアルにも記載してあります。
現在、機体が自由落下しています。
急ぎ人型形態に変型し、姿勢制御スラスターを使って下さい。>
グルグルと回転するコクピットの中で、必死にシートにしがみ付きながら可変レバーを引き起こす。
グリフォンは瞬時に人型に変型すると、脚部や肩部の姿勢制御スラスターが小さく点り、体勢を立て直す。
<メインブースター、リスタート。>
バックパックと脚部のメインブースターが青白い炎を噴き出し、ようやく急降下から、緩やかな降下へと移行する。
<各種システム、異常なし。
続いてシールドエネルギーの充填始めます。>
「まて、シールドは後回しだ。
先にメインウェポンに回せ。」
異論を挟もうとするマキーナに、有無を言わせず指示する。
マキーナがやむなくエネルギーをメインウェポンに回す中、地上の様子を見ていた。
(……何々、個体呼称名、“岩蜥蜴”に、“蛙人間”か。)
空を飛んでいた生物は虫系だったが、地上部隊は爬虫類?両生類?ともかく変温動物系らしい。
岩蜥蜴は先の戦いでも見ていたが、この蛙人間は初めて見る。
二足歩行する蛙、と言うのが正しいだろうか。
顔付きは確かに蛙だが、それを無理矢理二本足で立たせた様な外見をしている。
ただ、その体格は人の2倍、いや3倍は優に超える。
その巨体の蛙が、武器と防具のつもりなのか手に石をくくり付けた木の棒を持ち、胴体には大きめの石をくくり付けた姿で走りよってきているのだ。
ヌメッとした系が苦手な人には、まさしく地獄のような光景だろう。
ただ、その粗末な装備が原因なのか、数の差は歴然としているのだが、地上に展開している軍だけでもそれなりに押し返せている。
[だ、誰か!助けて!]
集音マイクが歩兵の声を拾う。
そちらを見てみると、強引に押し込まれてたらしい、防衛線の一部に敵性生物がなだれ込んでいる。
なだれ込んだ敵性生物は、蛙特有の長く素早い舌を使い、歩兵を飲み込もうとしていた。
俺は降下しながら歩兵を飲み込もうとしている蛙人間の足元に狙いを付ける。
(ALAHMの武器じゃ、まともに当てたら歩兵諸共撃ち抜いちまうからな。)
マキーナの力もあり、完璧に計算された弾道は蛙人間の左脚を吹き飛ばし、飲み込まれかかっていた歩兵は間一髪で脱出する。
「マキーナ、あそこに降りるぞ。」
<ご自由に。>
充填されたばかりのバルカンを撒き散らし、歩兵達の前に着地する。
「オラオラ!とっととお帰り願おうか!」
歩兵の突撃銃で対応できていた敵性生物だ。
ALAHMのバルカン砲の前では、ティッシュペーパーでチェーンソーを止めようとするような様だ。
次々とバラバラになり、遂には岩蜥蜴まで登場したが、それでも数匹程度ではティッシュペーパーが段ボール1枚に変わった程度だ。
簡単に押し返すと、その間に歩兵達は体勢を立て直す。
[こっちもあらかた押し返した!
俺も地上戦に合流するぜ!]
敵の航空戦力はトライスター隊と軍のシルフ部隊の活躍もあり、殆どこちらには流れてこなくなったからだろう。
ロゥのグリフォンも人型に変型すると、俺と共に地上戦線の補強に付き合ってくれる。
そんな風に薄くなった戦線に移動しては弾丸を撒き散らす作業をしていると、敵性生物が一斉に身を翻して撤退していく。
[奴等、ようやく巣へお帰りらしいな。]
ロゥが安堵した声をもらし、地上では勝利の雄叫びを上げる歩兵達の中で、俺は1人、言いようのない違和感を感じていた。
戦闘中も何かを感じていたのだが、その何かを考える暇がなかった。
[セーダイ、お疲れ!
しかしさっきの、アンタ自爆でもしたのかと思って焦ったぜ。]
「俺が男の前でそんな格好良い事をするかよ。
……なぁロゥ、先遣隊基地に攻めてきたのも、アイツらだったのか?」
ロゥは少し考え込むと、思い出すようにしながら口を開く。
[確かそうだったと……。
あ、いや、あの蛙人間達、あんな武器とか防具は着けてなかったな。]
違和感は確信へと変わる。
先程の岩蜥蜴、背面側、言うなれば空からの攻撃に耐えられる様に、上方向に岩のような部分が高く積まれていた。
あれはきっと、空からの空爆に耐えられる様にしていたのでは無いのか。
先程の蛙人間達もそうだ。
最初は突撃を繰り返していたが、途中からは手に持っていた石斧やその辺の石を拾い、こちらに投げ付けてきていた。
シールドのエネルギーを後回しにしていたせいで、何カ所か命中して僅かに装甲が損傷した程だ。
投石と棍棒は、人類最古の武器と言われている。
石をくくり付けた石斧なら、もう少し時代が進んでいるだろうか。
そして体にくくり付けた防具。
“攻撃を防ぐ道具を身に着ける”なんていう発想は、人が猿から人になり、人同士で道具を使った争いが起きてからではないか?
では、奴等は急速に知恵を付けつつあるのではないか。
[ん?何か軍の奴等が面白いこと言ってるな?
……“撃墜されたシルフが見つからない”だとよ。
何だろうな?
奴等が持ってっちまったって事かな?]
ロゥの言葉が、俺を更に不安にさせる。
「この惑星、もしかしたら想像以上にヤバいんじゃねぇか?」
[あ?何言ってやがんだよ?
相手は原始人みたいなもんだろ?
石で出来た手斧だなんて、原始時代かって話だぜ?
ハジメのニンゲンが思わずギャーとなく位じゃねぇか。]
アカン、こいつアホだったわ。
ってーかそれ、俺もお前もリアタイでは見てねぇ世代だろうが。
[……何か、お前等迷い人達の会話は、時々解らなくなるな。]
上を見上げれば、トライスター隊の描く3本の白い筋が青空に線を描いている。
「人類の進化と技術的発展について論じていただけですよ。」
俺は軽口を返しながらも、トライスター隊の無事を確認できてホッと胸をなで下ろしていた。
何か、大軍を前に“生きて帰ったら~”があまりに死亡フラグ過ぎて、ちょっと心に引っかかっていたからだ。
[そんだけ減らず口がたたけりゃ上等ってな。
よぉし、俺達は先に戻る。
お前等もサッサと戻って整備を受けろよ。]
俺達は去りゆくトライスター隊に対して敬礼すると、地上の歩兵達を踏まないように気を付けながら、スラスターを使っても問題ない位置にまで移動する。
[あーあ、あの新型だったらここからまた変型して、サッと帰れるのによぉ。]
「愚痴るな愚痴るな、ホレ、地上を見てみろよ。」
俺達の撤退を察知したのか、地上の歩兵達はあるものは手を振り、またあるものは敬礼をしと、それぞれが俺達に感謝を伝えてくれていた。
[……ありがたいな、こういうの。]
俺達2機も、敬礼の姿勢をとってから、バッカニアに向けてスラスターを噴射する。
「そうだ、ハワード少尉に1杯奢ってもらわねぇとな。」
[お、良いねぇ、そうだそうだ。]
俺達はやり遂げた満足感と共に、足取り軽くバッカニアを目指すのだった。




