341:ステージ1~空中決戦~
[オイオイオイ、何だよこりゃあ!?]
先に出撃しているロゥ機に追い付こうと加速した時、ロゥ機から通信が入る。
“何だよ”と言いかけて、それを見る。
「うわ、どう言う風景だよ、これ。」
空を埋め尽くすのかと思うほど黒い点。
レーダーで見ても、その1つ1つが敵である赤い点で表示されているのが解る。
いやむしろ、レーダー上では赤い点が重なりすぎて赤い帯になっていた。
しかも、赤い帯のその奥に、黄色い帯も見える。
「マキーナ、この黄色いのは何だ?」
<赤が空中戦力、黄色が地上戦力を表示しています。
それぞれ1万体近い数が揃っています。>
確か統合政府軍とロズノワル私軍の合計でも、機動兵器の数は5千機と少しだったはず。
「倍以上……いや、地上戦力を加味すれば4倍以上か。
中々痺れる数になるな、こりゃ。」
それも“全機出撃したとして”の数だ。
実際にはもっと軍の機体は少ないと考えると、そりゃテストパイロット隊の俺達にも声がかかるはずだ。
[こちらトライスター隊ハワード、テスト隊、聞こえるか?]
「良好ですよ、ハワード少尉。」
いつになく真剣な声色のハワード少尉から通信が入る。
流石にこの状況、いつものような調子ではいかないようだ。
[俺達は軍の打ち漏らしを対処するように指示が下っている。
だが、ご覧の有り様だ、全員で始めから打ち漏らしを待っていると後手に回ることになる。
俺達は先にアイツらを叩くから、お前達で打ち漏らしの対処を頼む。]
[たった2機でですか!?]
無線からはロゥの悲鳴が聞こえる。
それでも、ハワード少尉は何時ものように茶化したりはせず、大真面目な返答が返ってくる。
[あぁ、そうだ。
お前達だけでやれ。
……やるしか、ないんだ。]
ハワード少尉の覚悟というか、決意のような物をそこに感じ取り、俺達はただ“了解”と返すしかなかった。
[まぁ、不貞腐れるなよ、コレが終わったら1杯やろうぜ。]
「ハワード少尉、それ死亡フラグですよ。」
思わずツッコミを入れる。
危うく戦争映画の定番の流れになるところだった。
これで何とか死亡フラグを回避できたと思いたい。
[ハハ、そりゃ危ねぇな、気を付けないと。]
アカン!この人の死亡フラグが止まらん!
そんな俺の心配をよそに、トライスターは敵陣へと突っ込んでいく。
だが、流石に多勢に無勢、すぐに打ち漏らしがこちらに向けて進軍してくる。
[トライスターから敵機体情報が来たぜ。
……何か、ハチとかカマキリみたいな奴等だな。]
モニターを見てみれば、空を飛んでいるのはハチ型の生命体で俺達のALAHMの人型と同じくらいのサイズ、これは“インセクトビー”という名称が付けられた存在と、カマキリ型の生命体で100tクラスより二回りくらい大型な“インセクトリーパー”という名称が設定されている生命体の情報だった。
-あぁ!?俺の機体に取りつきやがっ……やめっ!!-
動画データも添付されていたのでチラと見れば、軍のシルフ1機がインセクトビーに取り囲まれ、インセクトビーの尻にある針でエーテルシールド諸共串刺しにされていた。
別の動画ではインセクトリーパーの大きな鎌で、複数機のシルフが両断されていた。
[……データ見たか?コイツらの武器、エーテルを纏ってやがるぜ。]
ロゥに言われるまでも無く気付いていた。
インセクトビーもインセクトリーパーも、攻撃の瞬間に針や鎌が青白く光っていた。
あれは間違いなくエーテル粒子が加速したときの光だ。
「あぁ、だが、生物の限界なのか、見たところ接近戦が主体らしい。
やられたフェアリーみたいに近付けさせなければ、俺達の機体なら余裕だろ?」
軍用機のフェアリーは、やはり汎用機のため空は飛べても機動力がどうしても低い。
だが可変機の俺達なら、空戦は奴等の上を行く。
[余裕とは心強いね、頼りにしてるぜセーダイ!]
ロゥ機が機体を右へ大きく傾かせ、右旋回を始める。
「まぁな、任せておけよ。」
俺の進路はそのまま真っ直ぐ、敵中へと突っ込むコースを取る。
引きつける必要も無い。
敵影が射程距離ギリギリに近付いた瞬間、バルカン砲のトリガーを引く。
無数の光の点が飛んでいき黒いシルエットに当たると、そのまま黒いシルエットはバラバラになりながら弾けて落ちていく。
「かかってきやがれ、クソ昆虫共!」
威勢良く叫ぶが、状況はあまり良くない。
インセクトビーが軌道を変えて俺の周囲を飛び回る。
幸いなのは、こちらの方が機動力がある分、先程の映像のように囲まれて取り付かれる事が無いことか。
「こりゃ、狙う必要なんかねぇな!」
実際、ロックオンは必要なかった。
トリガーを引けば数発でインセクトビーは墜落していく。
そして数が多すぎて、何も考えずトリガーを引いても、何かしらに命中するほどだ。
そうして何度も通り過ぎざまに撃ち落としているが、それでもあまりに数が多い。
数が多すぎて、俺を追いかけるために、機体の後ろに黒い線が出来ているくらいだ。
「まいったね、どうにも。」
[そのまま真っ直ぐ飛べ!]
正面少し上から、ロゥ機が真っ直ぐこちらに突っ込んでくる。
「おまっ!正気か!?」
あわやぶつかると身をすぼめたが、辛うじて俺の機体の上をすり抜けていく。
[1列に並んでくれてご苦労さん!]
ロゥ機がバルカンとミサイルをばら撒くと、俺の後を追いかけていたインセクトビー達が次々と撃墜されていく。
「やれやれ、頭おかしいぜ。」
[だぁ~れの頭がイカレてるってんだよ!
ほれ、デカブツが来たぜ!]
正面には大型のインセクトリーパー。
俺とロゥ機で横並びに飛びながら、それぞれ左右の鎌にバルカンとミサイルを撃ち込む。
[ダメだな!全部弾き落とされちまう!]
飛びながらとは言え、インセクトリーパーの動きは素早い。
バルカン砲の弾では外皮にダメージを与えてはいるが、致命になるには相当時間がかかりそうだ。
肝心のミサイルなのだが、それらは全て両腕の大鎌で薙ぎ払われていた。
(随分とピンポイントで防いでやがるな?)
バルカン砲には大した反応を示さないが、ミサイルだけは機敏に撃ち落とす。
まるで“それを喰らってはいけない”と、始めから知っているような動きだ。
妙に引っかかるが、今はそれを気にしても仕方が無い。
「ロゥ!俺に考えがある!
お前はとにかくアイツを引っ掻き回せ!」
[特攻でもする気じゃねぇだろうな!?]
“するか馬鹿”とロゥに怒鳴ると、俺は機体を回転させながらインセクトリーパーの下に潜り込む。
インセクトリーパーが命令しているのか、下面に潜り込ませまいとインセクトビー達が殺到してくる。
<……発射後は、機動力が著しく落ちます。
変型することをオススメします。>
流石相棒、これからやろうとしている事もお見通しか。
「生き物なら、弱点は腹ってな。」
樹脂で出来た透明なカバーを開け、中のボタンを押す。
俺達のグリフォンに積まれている最終兵器、バーストボム。
機体全体がエーテル光に包まれ、光はそのまま周囲を巻き込む、破壊の光へと変わる。
「……これは……すげぇな……。」
吹き飛ばされ、燃え落ちていくインセクトビー達と、腹部に大穴を開けて墜落していくインセクトリーパーを見ながら、俺はその威力に恐怖していた。




