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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の羽
329/832

328:チュートリアル~未来の過去の未来~

それは、転送された中でも割と珍しい瞬間だった。


「んで?アンタ、所属は何処?階級は?」


数人から銃を突き付けられ、俺は両手を上げている。

その中でもリーダー格と覚しき精悍な男が、油断なく銃を構えながらではあるが、俺とコンタクトを取ろうと話しかけてくる。


「アラヤダ、随分古いデザインのバッグを使っているのね?

……わ、凄い、これスマートフォンってヤツよね?

博物館の中でしか見たこと無いわ。」


お仲間と思われる女性は、俺の通勤鞄に興味を奪われている。


(マキーナ、アンダーウェアモードだ。)


<アンダーウェアモード、起動。>


誰にも気付かれずに、アンダーウェアモードに変身する。

とりあえず最初の関門は抜けた。

究極、マキーナさえ有ればこの後の復旧も何とかなる。

そう思うと、少しだけ心に余裕が出てくる。


「あー、俺の大事な、唯一の持ち物なんでね。

あんまり乱雑に扱って貰うと困るかな。」


両手を上げながら、女性に向かいそう言うと、こめかみに銃らしきモノを突き付けられる。


「おい、今アンタと話してるのは俺だぜ?」


いやはや、いきなりまいったね、どうにも。




いつものように転送した俺は、周囲の状況に違和感を覚えた。

と言うのも、周りが見たことの無い機械ばかりだからだ。

四方の壁は鉄の棚?と言うには幅が狭く、何も物が置けないような隙間しかない凸凹でビッシリと埋まっている。

俺の後ろには天井と地面に丸いレンズのような物がはめ込まれた鉄板が設置されており、そこから円筒状に光が、まるで水のように上から下へ流れている。


5~6人入れば窮屈さを感じそうな、そんな小部屋に俺は出現していた。

あまり体験したことのない状況に俺は何となく危険を感じ、鞄からマキーナを懐にしまい直したところで、警報が鳴った。


このままここに居るのも危険そうだと判断し、扉を出たところで周囲を取り囲む銃口とご対面した、と言うわけだ。




「……そうは言われても、所属や階級と言われても何の事か解らないし、そもそもここが何処だかも解らないんだ。

一応先に行っておくと、俺の名前は田園たぞの 勢大せいだいだ。

普通の、会社員だよ。」


「その会社が何処だか聞いてるんだよ。

ロズノワルか、ダウィフェッドか、アンヌ・ンか?

……まさかシロニアやアブドってことはあるまい?」


シロニアとアブド、と言う言葉でピンと来る。

剣と魔法の世界ではその二か国は出て来ない。

何故それを“会社”と呼んでいるのかがわからないが、ともあれここは未来世界だろうと言うことだ。


だが、それを説明すればまた有らぬ疑いをかけられる。

とりあえず、何も知らない振りをしておかないと危険そうだ。


「そのどれでもない。

……武蔵野流星企画って言っても、解らないか?」


元の世界の俺の会社名を言うと、先程まで質問していた男は微妙そうな顔をする。


「なぁリーダー、コイツもしかして、ヒガシカワの野郎と同じなんじゃないのか?」


俺に質問していた男の隣の、ヘルメットと防護マスクで顔が見えない男が、ボソリと呟く。

“ヒガシカワ”という単語に興味を覚える。

“野郎”と言うことは人物なのだろう。

どの世界でも、あまり日本語の名前は聞かない。


「どうだかな。

……なぁオッサン、アンタ今は何年だと思う?」


「西暦2017年だろう?」


隊員達が、“ヒガシカワより数年前の人間だな”と口々に噂しているのが聞こえる。

先程リーダーと呼ばれた男はため息をつくと、俺の荷物を漁っていた女に目配せする。


「アタシも同じ感想よ。

このご先祖様の荷物、博物館に売ったらそれなりのお金になりそうなくらい骨董品なのに、全部“さっきまで使っていた”くらい、物がしっかりしてるわ。

プラスチックも電子部品も経年劣化してない、完全な、ね。」


「解った。

お前がそういうなら、そうなんだろうな。

……全員、銃を下ろせ。

どうやらこのオッサン、ヒガシカワと同じで次元の迷い人(フォーリナー)の様だ。

あぁ、それとオッサン、今は統合新光暦618年だ。

アンタの言う西暦は、とっくの昔に終わってるよ。」


俺は色んな意味でショックを受けていた。

ここはやはり未来世界だった、と言うこと。

そして前のロボットの世界は、確か新光暦2021年とかそこら辺だったはずだ。

つまりは、未来の過去、という、謎の体験をしていることになるのか。


改めて彼等を含めた周囲を見回す。

よく解らない金属で出来た通路、先程俺が出て来た部屋も、センサーで自動で開閉する扉。

近未来的なプロテクターに身を包み、同じく近未来的な銃を持つ兵士達。

本当の意味でここは未来世界と言うわけだ。


「……驚いたな。

ちなみにここは日本なのか?」


俺の言葉に、周囲は訝しげな顔をする。

俺の問いに答えたのは、俺の鞄を漁っていた女性だった。


「ニホンって、あの元・地球(ジ・アース)にあった州の名前でしょ?

残念、ここはそこから……何光年だったかしら、まぁ、それ位離れた宇宙の中よ。

昔の言葉で解りやすく言えば、宇宙船、って事かしら。」


目眩がする。

いつものリスポーン地点どころか、宇宙空間に出現したわけか。


そんな俺の驚きを見て、時空を越えてカルチャーショックを受けた一般人、に見えたらしい。

周囲の兵隊もニヤニヤ笑うと、口々に“未来へようこそ”と軽口が飛び交う。


「よし、警報解除!

全員、配置に戻れ!」


リーダー格の男がそう言うと、皆ゾロゾロと駄弁りながら去っていく。

それを見て、“全く”と呟くが、それくらいの些細なことは見逃すらしい。


「改めてようこそ、開拓船RCGバッカニアへ。

俺は防衛隊長のハワード・クラフト少尉だ。

こっちのは副官のリン・バースタ曹長。

歓迎するぜ、ご先祖様。」


「あ、あぁ、よろしく。」


差し出された手に握手で答える。

こういう文化は、今も昔も変わらないらしい。


「何か、こう言っちゃ失礼だが、随分手慣れているんですな。

もっとこう、“お前は何者だ!?”みたいな感じで尋問されるかと思いましたよ。」


「なんだ?そう言うのがお好みか?

なら今からでもやってやるぞ?」


当然首を縦に振るわけがない。

この皮肉めいた冗談が好きなハワード少尉と、それから聞けば考古学や生物学の専門家並みの知識を持つリン曹長に囲まれ、俺は今までのことをアレコレと話す。

無論、異世界を飛び回った話はしていない。

異世界を飛び回る前の、懐かしき元の世界の記憶をアレコレと話したくらいだ。

ただ、ここに来るキッカケの話だけは、会社帰りに階段を転落して、光に包まれた、と、それっぽい話をでっち上げておいた。

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