325:転生者の後を追う
「おや、これはこれは勇者サマ、偶然ですな。」
迷宮内で勇者達に会ってしまった。
しまった、あまりコイツらとは出会いたくなかった。
迷宮内で他の冒険者パーティーと出会うのは、基本避けたい事象だ。
魔獣を倒す寸前を狙って横取りする輩もいれば、魔獣を倒したばかりの冒険者を狙って襲いかかる賊紛いの冒険者もいるからだ。
だから基本、他のパーティーが戦闘中なら迂回するし、迂回できずやむなくすれ違うときは、遠くから声をかけるのが大抵の世界での慣習だ。
今回の場所、ボス部屋に続く最後の一本道で、休憩中のキルッフ達に出くわしてしまった。
「何だお前、試練の間に挑める力あったのかよ?」
キルッフは気安く話しかけてきていたが、周りの女共は警戒をあらわにしている。
まぁ、どちらかというと女達の方が正しい反応か。
「へぇ、地元でそれなりに頑張ってまいりましたので。
ところで、お先に向かいなさいますか?」
こう言うときも、優先権は先にいるパーティーにある。
キルッフも“おう、もう少ししたら俺達が先に入る”と、返答していたが、魔法使いの女が何やら嫌な笑顔を浮かべている。
「あぁ、勇者様。
我々はもう少し回復が必要です。
よければ、こちらの方に先を譲っても良いのではないですか?」
その顔と発言で、何をしようとしているのかピンときた。
とは言え、キルッフにはそれくらいのことをやってやっても良いか。
俺は感謝しながらボス部屋に入ると、岩が動き出して人型になる。
岩巨人か、何処かの世界で召喚獣になってたときに、相手にしたなぁ、コイツ。
足元にはボロボロの装備で武装したゾンビが10体前後。
正直余裕だ。
だが、一瞬で倒してしまわないように、まずはゾンビを片付け、岩巨人にダメージを入れる。
別の世界のままなら、コイツは背中の中心に脆いところが有り、ソコを突くと簡単に崩れる。
その弱点を知らない新人は苦労する相手だが、慣れきってると動きの遅さも相まって雑魚以下になる。
(ここで雑魚刈りも悪く……いや、コイツ大したもの持ってないんだよなぁ。)
核となる魔原石も、見た目に反してそこまで大きくない。
やっぱり、唯の通過点程度の敵だろう。
岩巨人の両腕を砕いたところで、入口が騒がしくなる。
「この勇者キルッフが、劣勢とみて加勢してやるぞ!」
キルッフが突撃し、岩巨人の脛を斬りつける。
カインッ、と固い者同士がぶつかり合う音がし、そしてキルッフが剣を取り落とす。
「固ってぇ!
おいサラ!支援魔法の効果が出てねぇじゃねぇか!」
あーあ、そんな文句言ってると……ホラ、蹴られた。
岩巨人が動きの止まったキルッフを蹴り飛ばし、キルッフは情けない声を出しながら壁にめり込んでいた。
それを見た僧侶の女の子は慌ててキルッフの元に向かう。
女戦士は突撃するかと思ったが、盾を構えて冷や汗をかきながら守りを固める。
魔法使いの女は、顔色を変えて慌てて魔法の詠唱を始める。
……いやいや、横殴りしてくるならもう少し綺麗に倒せよ。
俺は呆れながらも、キルッフにターゲットを変えた岩巨人の弱点を一突きする。
そうして崩れた残骸の中から魔原石を拾い上げると、朦朧としているキルッフと、回復魔法を唱えている僧侶の目の前で、真っ二つに折る。
「やぁ、勇者様が奴の気を逸らしてくれたお陰で、無事倒せました。
ここは共同討伐と言うことで。」
まだ壁にめり込みグッタリしているキルッフの腹に魔原石の半分を放ると、そのままボス部屋を出ていく。
女達が呆気にとられていたが、正直この勇者達にもう構っている暇は無い。
「ご主人!旨そうな肉が置いてあるぞ!」
猫耳をはやした獣人の女の子が、露店で焼いている串焼きを指差しながら騒いでいる。
「やれやれ、アルスルは食いしん坊だなぁ。」
女獣人の後を、中々に良い装備を身に着けた黒髪黒目の青年が続く。
俺は別の屋台で食事をしながら、2人の様子を観察する。
追放されたハズレクラスの男。
追放されたすぐ後に美少女を連れ回し、試練の間をあっという間にクリアしたかと思うと、破竹の勢いで次々と迷宮を攻略。
今はこうしてサースフィールドの港で、エルフの国に向かう準備をしているらしい。
資金調達の面では誰も考えつかなかった品を発明し、次々と商人ギルドの特許を取得し荒稼ぎ。
迷宮攻略においても、今まで誰も気付かなかった隠し通路の存在や、未踏破地域を次々と暴きレアアイテムを入手するなど、怪しいなんてモンじゃ無い。
既に確定だろう。
男を観察していると、それとなく周囲を伺っているのが解る。
何を探しているのかと、釣られて俺も周りを見てみれば肩に尖った鋲が付いた世紀末な男達が、この屋台街に我が物顔で道幅一杯に広がり談笑しながら歩いている。
その向こうからは、大きな紙袋を抱えた美少女がヨタヨタ歩いてくる。
横顔だけ見ても、あからさまに周囲から浮いているような美形だ。
だが、このまま行けば、少女とあの世紀末達はぶつかるだろう。
何となく、狙いが解る。
それと同時に、悪戯心も湧く。
俺は屋台を出ると、少女と世紀末達がぶつかりそうな地点に行く。
近くの屋台でモノを買うフリをしながら、小銭入れを地面にぶちまける。
「あぁ!しまった!」
地面に銅貨がばら撒かれ、行き交う人々がそれを避ける。
「おいオッサン何やってんだよ。
あーもー、しょうがねぇな。」
世紀末達がサッと広がり、地面に落ちた銅貨を拾い出す。
道行く人達も世紀末達の行動に、何となく道を避けていく。
当然、その騒ぎを聞いて、大きな紙袋を抱えた美少女も立ち止まり、こちらを見ている。
「ホラ、多分全部拾えたとは思うが、確認してくれ。」
世紀末達がその外見に似合わず、皆で拾い集めると俺に銅貨を渡してくる。
凄い、1枚も減ってない。
「へぇ、ありがとうごぜえます。ありがとうごぜえます。」
「全く……、気を付けろよ。」
そう言うと、世紀末達はまた元のように歩いて去っていく。
ぶつからなかった美少女も、また何事も無かったように通りを去っていく。
「……あれ?おかしいな?
攻略サイトだと、ここでイベント発生って書いてあったのに。」
猫耳獣人の少女と一緒にいた男が、遠巻きに一連の流れを見ながらそう呟いていたのが聞こえる。
あぁ、なるほど、やっぱり事前情報を持っていやがったのか。
男は暫くの間、何も無い空間を見ながら手を動かしていたかと思うと、突然俺を凝視する。
<警告。外部からの干渉あり。>
マキーナの声が聞こえたかと思うと、男が俺に近寄ってくる。
「なぁアンタ、ちょっと俺と話をしないか?」
気付かれたか?
だがぱっと見俺は、貧乏そうで弱そうな冒険者にしか見えない筈だ。
今の行動以外、何がコイツの興味を引いたのか。
<勢大は、いわゆるこの世界でのステータスが存在しないからでは?>
あ、それだわ。
そりゃ怪しいわな。
そんな簡単なことも忘れていたのかと、俺は諦めて男に従った。




