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異世界殺し  作者: Tetsuさん
勇気と絆の光
319/832

318:闘え!ピースフルカーブセブン!

背部ユニットが出現し、後方にアンカーとしてポールが撃ち込まれる。

姿勢が固定されると、右脇から折りたたまれていた銃身が展開し、1本の砲身となる。

右手でグリップを握り、左手は砲身下の持ち手へ。


<各関節部、ホールド。

エネルギー、充填を開始します。>


『早くしてくれ、マキーナ。』


そうは言っても、視界の右下に0とカウントが現れ、ゆっくりと数字が増えていく。


「グゥワハグゥワハ!何かぁ、やろうというのかぁ!

させんぞぅ、させんぞぅ!」


空間の裂け目から黒い液体が量を増し、大怪人ホランに流れ込む。


[マズいよレッド!奴のエネルギーが増大してる!!]


グリーンの叫びが、無線越しに聞こえる。


[クソッ!押し負ける!]


ブラックの叫びと共に、ヒーローロボが跳ね飛ばされ、尻餅をつく。

幸い、他のヒーロー達を潰さずには済んだようだ。

この状況、最早他のヒーロー達は障害にしかなっていない。

砲身を展開する前に片付けるべきだったか、と、チラと頭をよぎるが、そんな事をしている暇は無かった。

まぁ、アイツらの変身スーツは、見た目に反して物凄く頑丈らしいから、それを信じて放置するしか無い。


俺としても、既に電磁砲(ドアノッカー)を展開している以上、何も行動は取れない。


「悪さぁしてるガキは、何処じゃあぁ!」


大怪人ホランが遂に俺を見つけ、こちらに歩み寄ろうと歩を進める。


[させるかぁ!]


ヒーローロボがタックルのように突撃し、大怪人ホランを押し込む。

だが、押し倒すまでは行かず、海面を波打たせながら大地を滑るが、途中でその動きを止める。


「グゥワハグゥワハ!

こんなモンかの、異世界のゴミガキ共がぁ!!

いんやぁ、黒鉄も、竜胆も、儂には敵わないとぁ、言うところかのぅ!」


4本の腕でヒーローロボを持ち上げると、砂浜を越えて海岸近くの民家に放り投げる。


家屋の倒壊から発生する土煙と、恐らくは電線の電気が飛び散り、小さな爆発を起こす。

それでも、ヒーローロボは立ちのぼる煙の中から右手に炎を纏って飛び出す。


[必殺!機神バーニング・ストライク!]


炎を纏い殴りかかるも、それは大怪人ホランの1本の腕で掴み取られる。

空間の裂け目からエネルギーを受けている現状、腕の太さも先程より太くなっている。

もう既に、1本の太さがヒーローロボと同じくらいになっている。


「グゥワハ!今度はこちらの番じゃのう!」


4本の腕が拳を固め、滅多矢鱈にヒーローロボを殴り付ける。

その強度は金属と同等なのか、殴る度に火花が飛び散り、ヒーローロボの装甲が段々と歪んでいく。


「そら!そらそらそら!

もっと早ぅ動かんかぁい!!」


[クソッ!パワーが足りない!

アイツとの力の差は後ちょっと、後ちょっとなのに!]


遂に、ヒーローロボが膝をつく。

滅多打ちはそれでも止まらない。

ヒーローロボのファイティングポーズは解け、中でヒーロー達の悲鳴が聞こえても猛撃は止まらない。

遂には、ヒーローロボはただ打ちのめされるがままになる。


『……マキーナ、砲身をアイツに向けろ。』


<駄目です。

今射撃をしたところで、目くらまし程度にしかなりません。

その後、我々は対抗手段を全て失います。>


そんな事は解ってるんだよ!

だが、このままでも俺達は全滅だ。

それなら、コイツぶっ放してさっさと動けるようになって、俺が死ぬまであのデカブツをちのめしてやる。


もう、ヒーローも、あの空間の裂け目も関係ない。

俺は、俺のルールに従う。

俺のルールは、“仲間を見殺すな”だ!


マキーナが諦め、砲身を少しずつ動かし始める。

だが、大怪人ホランの攻撃の方が少し早い。


膝立ちになり動きを止めたヒーローロボに、大怪人ホランは右手を2つともスクリュー状に変え、頭と胸を両方貫こうとしている。

確かに、あのどちらかにコクピットがあるだろう。

俺が向ききるよりも早く、それが貫かれることは見えていた。


心の中で、“お前等の仇はとってやる”と、俺も諦めかけたその時、空にピンクの流星が舞う。




「あぁたしのぉ!家族にぃ!

手を出すなぁ!!!」




いかづちを纏って降ってきたピンクの流星は、大怪人ホランの右腕を2つとも断ち切り、そして砂浜に舞い降りた。




「ピースピンク、ここに参上!」


ピースピンクは既に第二形態の変身をしており、両腕を組みながら大地に仁王立ちになる。

彼女のその怒りを表すように、全身を電気が走っていた。


「アタシの、家族に、手を出すな。」


怒りを込めて、ピースピンクがもう一度その言葉を口にする。

よく見れば、微かに膝が震えている。

それでもなお、彼女は恐ろしい敵の前に立った。


精一杯の虚勢、なけなしの勇気。


その姿に俺は幻を見て、そして視線を逸らす。


「来い!機神ピンク・ファルコン!!」


ピースピンクが叫ぶと、先程まで上空を旋回していたピンクの鳥型ロボが、一直線に主の元に向かう。

ピースピンクは光になり、鳥型ロボに乗り込む。


[よぉし、全員揃ったね!今なら行けるよね!レッド!]


グリーンの叫びに、レッドが答える。


[応とも!皆、行くぞ!]


「グゥワハ!何をしようと変わらんわぁ!!」


ヒーローロボが大怪人ホランを蹴り飛ばすと、その勢いで空を飛ぶ。

ピンクのメカが変形し、背中に装着される事により、ロボの輝きが、次々に金色へと変化する。


[家族の絆と勇気を力に変えて!]

[七星合体!]

[超機神!ピースフルカーブセブン!!]


空中で決めポーズを取ると、轟音と共に着地する。


「グゥワハグゥワハ!

どぉれだけ強くなったか、お爺ちゃんに見せてぇご覧!!」


大怪人ホランが殴りかかるが、超機神は左腕を突き出すと半透明な盾でそれを防ぐ。


[イエローシールド!

どうした!そんな攻撃は通用しないぞ!]


超機神が右手を天に掲げると、蒼い剣が実体化する。

握った瞬間、刀身から炎が吹き出す。


[[合体剣!バーニングスパークソード!!]]


大怪人ホランを袈裟斬りにすると、切り口から炎が吹き出す。


「ンヌグアァアァ!!

なんじゃ!?なんじゃその力は!!

クソッ!もっと力じゃ!!

もっと力が必要じゃ!!」


空間の裂け目からの黒い液体が、更に加速する。




<砲身を、空間の裂け目に照準し直します。>


『あぁ、スマン、そうしてくれ。』


先程のピースピンクの立ち姿に、俺は死んだ兄貴の幻を見ていた。

その幻影を払うように、視線を逸らし空間の裂け目を睨む。


幼い頃に死んだ兄貴。

俺より何歳か年上で、幼い俺から見れば何でも出来るスーパーマンだった。

さながらそう、幼い俺から見れば、あのピースピンクの様なスーパーヒーローだった。

でも、俺のスーパーヒーローは病気で死んでしまった。

あの時、俺の中にあったヒーロー像も、一緒に死んだ。


そんなヒーローを信じられない俺が見た、久方ぶりのスーパーヒーローだ。

なら、結末はバッドエンドには出来ない。


<エネルギー充填、92パーセントに到達。>


もう少しだけ時間をくれ、スーパーヒーロー。

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