318:闘え!ピースフルカーブセブン!
背部ユニットが出現し、後方にアンカーとしてポールが撃ち込まれる。
姿勢が固定されると、右脇から折りたたまれていた銃身が展開し、1本の砲身となる。
右手でグリップを握り、左手は砲身下の持ち手へ。
<各関節部、ホールド。
エネルギー、充填を開始します。>
『早くしてくれ、マキーナ。』
そうは言っても、視界の右下に0とカウントが現れ、ゆっくりと数字が増えていく。
「グゥワハグゥワハ!何かぁ、やろうというのかぁ!
させんぞぅ、させんぞぅ!」
空間の裂け目から黒い液体が量を増し、大怪人ホランに流れ込む。
[マズいよレッド!奴のエネルギーが増大してる!!]
グリーンの叫びが、無線越しに聞こえる。
[クソッ!押し負ける!]
ブラックの叫びと共に、ヒーローロボが跳ね飛ばされ、尻餅をつく。
幸い、他のヒーロー達を潰さずには済んだようだ。
この状況、最早他のヒーロー達は障害にしかなっていない。
砲身を展開する前に片付けるべきだったか、と、チラと頭をよぎるが、そんな事をしている暇は無かった。
まぁ、アイツらの変身スーツは、見た目に反して物凄く頑丈らしいから、それを信じて放置するしか無い。
俺としても、既に電磁砲を展開している以上、何も行動は取れない。
「悪さぁしてるガキは、何処じゃあぁ!」
大怪人ホランが遂に俺を見つけ、こちらに歩み寄ろうと歩を進める。
[させるかぁ!]
ヒーローロボがタックルのように突撃し、大怪人ホランを押し込む。
だが、押し倒すまでは行かず、海面を波打たせながら大地を滑るが、途中でその動きを止める。
「グゥワハグゥワハ!
こんなモンかの、異世界のゴミガキ共がぁ!!
いんやぁ、黒鉄も、竜胆も、儂には敵わないとぁ、言うところかのぅ!」
4本の腕でヒーローロボを持ち上げると、砂浜を越えて海岸近くの民家に放り投げる。
家屋の倒壊から発生する土煙と、恐らくは電線の電気が飛び散り、小さな爆発を起こす。
それでも、ヒーローロボは立ちのぼる煙の中から右手に炎を纏って飛び出す。
[必殺!機神バーニング・ストライク!]
炎を纏い殴りかかるも、それは大怪人ホランの1本の腕で掴み取られる。
空間の裂け目からエネルギーを受けている現状、腕の太さも先程より太くなっている。
もう既に、1本の太さがヒーローロボと同じくらいになっている。
「グゥワハ!今度はこちらの番じゃのう!」
4本の腕が拳を固め、滅多矢鱈にヒーローロボを殴り付ける。
その強度は金属と同等なのか、殴る度に火花が飛び散り、ヒーローロボの装甲が段々と歪んでいく。
「そら!そらそらそら!
もっと早ぅ動かんかぁい!!」
[クソッ!パワーが足りない!
アイツとの力の差は後ちょっと、後ちょっとなのに!]
遂に、ヒーローロボが膝をつく。
滅多打ちはそれでも止まらない。
ヒーローロボのファイティングポーズは解け、中でヒーロー達の悲鳴が聞こえても猛撃は止まらない。
遂には、ヒーローロボはただ打ちのめされるがままになる。
『……マキーナ、砲身をアイツに向けろ。』
<駄目です。
今射撃をしたところで、目くらまし程度にしかなりません。
その後、我々は対抗手段を全て失います。>
そんな事は解ってるんだよ!
だが、このままでも俺達は全滅だ。
それなら、コイツぶっ放してさっさと動けるようになって、俺が死ぬまであのデカブツを打ちのめしてやる。
もう、ヒーローも、あの空間の裂け目も関係ない。
俺は、俺のルールに従う。
俺のルールは、“仲間を見殺すな”だ!
マキーナが諦め、砲身を少しずつ動かし始める。
だが、大怪人ホランの攻撃の方が少し早い。
膝立ちになり動きを止めたヒーローロボに、大怪人ホランは右手を2つともスクリュー状に変え、頭と胸を両方貫こうとしている。
確かに、あのどちらかにコクピットがあるだろう。
俺が向ききるよりも早く、それが貫かれることは見えていた。
心の中で、“お前等の仇はとってやる”と、俺も諦めかけたその時、空にピンクの流星が舞う。
「あぁたしのぉ!家族にぃ!
手を出すなぁ!!!」
雷を纏って降ってきたピンクの流星は、大怪人ホランの右腕を2つとも断ち切り、そして砂浜に舞い降りた。
「ピースピンク、ここに参上!」
ピースピンクは既に第二形態の変身をしており、両腕を組みながら大地に仁王立ちになる。
彼女のその怒りを表すように、全身を電気が走っていた。
「アタシの、家族に、手を出すな。」
怒りを込めて、ピースピンクがもう一度その言葉を口にする。
よく見れば、微かに膝が震えている。
それでもなお、彼女は恐ろしい敵の前に立った。
精一杯の虚勢、なけなしの勇気。
その姿に俺は幻を見て、そして視線を逸らす。
「来い!機神ピンク・ファルコン!!」
ピースピンクが叫ぶと、先程まで上空を旋回していたピンクの鳥型ロボが、一直線に主の元に向かう。
ピースピンクは光になり、鳥型ロボに乗り込む。
[よぉし、全員揃ったね!今なら行けるよね!レッド!]
グリーンの叫びに、レッドが答える。
[応とも!皆、行くぞ!]
「グゥワハ!何をしようと変わらんわぁ!!」
ヒーローロボが大怪人ホランを蹴り飛ばすと、その勢いで空を飛ぶ。
ピンクのメカが変形し、背中に装着される事により、ロボの輝きが、次々に金色へと変化する。
[家族の絆と勇気を力に変えて!]
[七星合体!]
[超機神!ピースフルカーブセブン!!]
空中で決めポーズを取ると、轟音と共に着地する。
「グゥワハグゥワハ!
どぉれだけ強くなったか、お爺ちゃんに見せてぇご覧!!」
大怪人ホランが殴りかかるが、超機神は左腕を突き出すと半透明な盾でそれを防ぐ。
[イエローシールド!
どうした!そんな攻撃は通用しないぞ!]
超機神が右手を天に掲げると、蒼い剣が実体化する。
握った瞬間、刀身から炎が吹き出す。
[[合体剣!バーニングスパークソード!!]]
大怪人ホランを袈裟斬りにすると、切り口から炎が吹き出す。
「ンヌグアァアァ!!
なんじゃ!?なんじゃその力は!!
クソッ!もっと力じゃ!!
もっと力が必要じゃ!!」
空間の裂け目からの黒い液体が、更に加速する。
<砲身を、空間の裂け目に照準し直します。>
『あぁ、スマン、そうしてくれ。』
先程のピースピンクの立ち姿に、俺は死んだ兄貴の幻を見ていた。
その幻影を払うように、視線を逸らし空間の裂け目を睨む。
幼い頃に死んだ兄貴。
俺より何歳か年上で、幼い俺から見れば何でも出来るスーパーマンだった。
さながらそう、幼い俺から見れば、あのピースピンクの様なスーパーヒーローだった。
でも、俺のスーパーヒーローは病気で死んでしまった。
あの時、俺の中にあったヒーロー像も、一緒に死んだ。
そんなヒーローを信じられない俺が見た、久方ぶりのスーパーヒーローだ。
なら、結末はバッドエンドには出来ない。
<エネルギー充填、92パーセントに到達。>
もう少しだけ時間をくれ、スーパーヒーロー。




