314:決戦!悪の科学者!
出現予定ポイントの砂浜には、様々なところからヒーロー達がかけ声と共に現れる。
ある種、色とりどりのヒーロー達が揃うのは壮観だ。
だが、皆今回は暗黙の不文律なのか中央には陣取っていない。
着地した俺を挟むように、左右に分かれてごちゃっといる。
そう言えば、ピースフルカーブセブンの面々はまだ見ていない。
まぁ、まだ少し早い。
アイツ等もいずれ現れるだろう。
特にやることの無い俺は、砂浜の上で両腕を組んで仁王立ちで佇む。
これで来なかったとしたら、それはそれで面白い。
そんな事をボンヤリ考えながら待っていると、海の上に辛うじて見えるほどの小さな黒い点が、微動だにせず浮いているのに気付く。
<勢大、気を付けて下さい。あの黒い球を中心として、急速に異常値が増大しています。>
最初は近付いてきているのかと思った。
だが、実際には黒い点が徐々に、その内俺達を飲み込むのではないかと思えるような大きさに広がっていた。
「各員!一斉射!射ぇ!!」
政府も本気のようだ。
自衛の方々がライフルを構えると、号令に合わせて一声に射撃を開始する。
光が次々と黒い球に吸い込まれ、外れた弾丸が水柱を上げる。
歩兵が持つ小銃、戦車の機銃に大砲。
その全てが水面に浮かぶ黒い球に向かい、遂には水柱と水煙で見えなくなる。
「撃ち方、止め!」
立て続けになっていた破裂音が静まり、ゆっくりと煙が晴れる。
完全に晴れたその先には、予想通り何事も無く浮かぶ黒い球。
「第一状況、失敗!これより第二状況に移る!」
部隊員達が静かに後退を始める。
どうやら、彼等もこれで終わるとは考えてなかった様だ。
部隊員達と入れ替わるように、色とりどりのヒーロー達が前に出る。
「よーし、各自、必殺技を……!?」
何処かのヒーローが叫んでいたが、その声は途中で止まる。
黒い球の中心が割け、帆嵐が顔を覗かせていた。
「おやおや、無駄な努力をご苦労さん。
ただ、決着を付ける相手以外の有象無象が多過ぎじゃな。ちょっと外野は静かにして貰おうかのう。」
一瞬にして、青空が灰色になる。
いや、空が変わったのでは無い。
あの黒い球体から噴き出た何かが、この周囲の全て、俺達ごと包み込んだようだ。
「ヒッ!!何だあれ!?」
何処かのヒーローが指さして叫ぶ声に釣られ、そちらを見る。
濃い灰色の空高く、ヒビが入り空間が裂けたかと思うと、巨大な目が覗く。
その目を見た瞬間、心の中に恐怖心が湧き起こる。
『なん……、何なんだ!?』
巨大な目。
大型のトラックくらいのサイズはあるのでは無いか。
目でアレなら、本体はどれだけ巨体なんだ。
その目を見ていると、不意に足元の地面が崩れる。
崩れた足元には、歪んだ線路が見える。
その風景を俺は知っている。
よく解らない空間で肉体を鍛え上げ、そして復活と同時に……。
ハッと顔を上げる。
俺に向かって電車が突っ込んでくる。
電車の運転手が、真っ黒な目から血の涙を流している。
体が勝手に動く。
止めろ、止めてくれ!
スローになった世界で、ゆっくりと右の蹴りを繰り出す。
これが当たれば、当たってしまうと。
<勢大!意識をしっかりと持って!>
マキーナの言葉で我に返る。
俺は砂浜の上に、ただ棒立ちで立っていた。
線路も無ければ、突っ込んでくる電車もない。
全身汗だくになっていたのが解る。
『何だ?何があった?』
<正体不明の攻撃です。ただ、勢大の様子から観測すると、精神に影響を与える攻撃のようです。>
空はちゃんと青い。
灰色の何かが包み込んだように見えたが、それが精神干渉の攻撃だったようだ。
そして周囲を見ると、殆どのヒーローが地面をのたうち回り、悶え苦しんでいる。
そして、のたうち回っていない残りは虚ろにただ突っ立っている。
「おぉ、ドクロ仮面は立ち直ったかの。
偉い偉い。
こんな所で脱落されては、せっかくの趣向が台無しじゃからの。」
さながら孫の健康を喜ぶ老人のような明るい声の帆嵐とは裏腹に、黒い球体からボチャボチャと嫌な音を立てて、海に黒い液体を落としている。
『おいお爺ちゃん、オムツを履き忘れているぜ?』
俺の軽口に、帆嵐はニヤリと笑うだけだ。
海から無数の黒スライムがジワジワと歩いて近付く。
対するこちらのヒーローは、もう既に全滅だ。
この戦力差だ、俺の軽口を負け惜しみ程度に捉えているらしい。
『だが、ここから何とかするのがヒーローの仕事だろうさ。』
空から降り立つ4本の光。
光が薄れると、アイツらが姿を現す。
「人も人類も救うため、今俺達が参上だ!!
燃える炎のピースレッド!」
「因縁、ここで断ち切らせてもらう!
蒼き刃、ピースブルー!」
「あ、遅れてごめんなさい!
ピースグリーンです!」
「帆嵐、こんな事はもう、ここで終わらせてもらう。
ピースブラック、推参。」
……君等相変わらずバラバラやな。
とりあえず何か統一した方がええんちゃう?
ともあれ、文句の1つも言いたくなる。
『格好付けすぎだ、遅いぞヒーロー。』
「ご、ごめんなさい!
に……ピンク姉ちゃんと最後まで言い合ってまして。」
グリーンが律儀に遅れてきた訳を説明するが、いや今はそう言うのじゃ無いねん。
「ん?またコイツらか。
だが、今回はこっちも状況が違うからな。」
ブラックの言うとおり、変身課の彼女達よりはヒーロー達の方が相性は良さそうだ。
レッドは例の燃える拳で殴り飛ばしつつ燃やし、グリーンはハンマーで奴等の核ごと叩き潰している。
刃物を使うブルーは苦戦するかと思ったが、新しい技なのか斬りつけては凍らせて、黒スライムを粉々にしていた。
「何だよコイツら、弱っちいけど数ばかり居やがって!」
レッドは不満を漏らすが、この状況では仕方が無い。
他のヒーロー達が使い物になっていればこうはならなかっただろうが、精神干渉から誰も抜け出せていない。
「フフフ、お前達も我が手中で悶え苦しむが良い。
“浸食汚染”!」
<勢大、先程の攻撃が来ます。>
マズい!
今ここでピースフルカーブの面々も汚染されたら、マジで打つ手が無くなる。
だが、俺が叫ぶよりも早く、あの灰色の波動が俺達を通り抜ける。
『しまっ……!?』
同じ攻撃は通用しないとばかりに、俺への攻撃はマキーナが弾き飛ばす。
助かったと思う反面、ピースフルカーブの面々が気になりそちらに視線を向ける。
灰色の波動が通り抜けて、ピースフルカーブの面々は動きを止める。
だが、次の瞬間には目の前の黒スライムを、先程までと同じ様に撃破していた。
「なっ!?えっ!?
何故じゃ!?何故精神干渉がきかん!?」
帆嵐が焦る。
だが、正直俺もそれには同意だ。
耐性がある奴がいてもおかしくないが、全員耐えられているのは不思議でならない。
だが、不思議だろうと何だろうと、ピースフルカーブの面々は次々と黒スライム達を撃破していった。




