311:成功と暗躍
「いやぁ~鯛瓦君、今回はお手柄だったねぇ!!」
昨日とは打って変わって、スクイードが揉み手で鯛瓦さんに近付く。
朝から“僕だったらもっと……”とか“あー、こう言う系の演出ね、ハイハイハイ”と、割とよく聞こえる一人言を呟く、不機嫌なカニ田の雰囲気で既に察していたが、例のライスフィールドドアーズとの戦いが、かなり好評だったらしい。
戦いの最中、吹き飛ばされる度に派手に爆発する周囲、ヒーロー達がバイクに乗って疾走するときも破裂する爆発と、まるで何か劇場版の様なド派手な演出に、日本中はおろか海外のサイトにまで紹介されるほど、好評を博していた。
いや、今風に言うならバズった、という感じだろうか。
サンマ怪人達が画面を埋め尽くすような“魚群ミサイル”でヒーロー達を苦しめる様子など、かなりの高評価だった。
あれ、装備課があの時持ってきた“殺傷能力は全く無いが爆発だけはとにかくド派手”という、謎の試作品“エフェクト・ボム”を組み込んだモノだが、結果高評価だったからまぁ、良しとしよう。
「鯛瓦君なら、いつかやってくれると信じていたんだよ~。
今回は装備課からもお礼が来たりと、やっぱり鯛瓦君は違うねぇ~。」
リーダー達のミーティングを終えたその足で褒めたところを見ると、上の評価も中々のモノだったらしい。
「いや、アレは田園さんが……。」
「そうかも知れないけどホラ、今回の総指揮は鯛瓦君じゃないか!
それに、ダークキング☆ライオン様からも、彼の部下から“鯛瓦が一生懸命走り回っていた”と、その働きぶりを聞いているらしいからね!
いや~、お手柄だよ鯛瓦君!」
鯛瓦さんは俺の功績も伝えてはいたが、スクイード的には“自分が今まで育てていた部下”が活躍したことにしたいようだ。
「ま、たまたま成功したのかも知れませんが?
僕クラスから言わせてもらうなら、まだちょっとツメが甘いですね。
ホラこの爆発とか、僕ならもっとヒーロー達に肉薄するような位置にセットしますからね。」
カニ田がさっきよりも少しだけ大きな声で、もはや誰に聞かせているつもりなのか解らない一人言を呟く。
カニ田なりに、自分の地位を追われだしていることに焦っているのだろう。
まぁ、自業自得ではあるが。
しかしその焦りを横目で見ながら、思いをはせる。
俺がこの世界に居着くつもりなら、カニ田のように自分の有能さをアピールするだろうか。
或いは“それは俺が根回ししたことだ”とキレて自分の功績を主張するのだろうか?
もしくは、静かに部署異動の願いでも出すのか。
まぁ、実際には“解る人には解るか”と思いながら、結局何もしないかも知れないな。
消極的に見えるかも知れないが、歳をとると色々と解ることもある。
鯛瓦さんは、今回の件で対処法は解ったはずだ。
ちゃんと考えているならば、次に似たようなことが起きても対処できるだろう。
だが、初めての事態に曝されたときに、同じように考えることが出来るだろうか。
出来る奴もいる、だが、そうで無い奴も多い。
常に新しい難題が降りかかってきても、心を動かすこと無く視野を広く、ゴールを何処に定めるか、そしてそのゴールへの安全な最短距離を探し出せるか。
そう言う人間は、応用が利く。
そうして、その後は常に新しい何かを生み出していく。
そう出来る人間は、それなりに貴重だ。
自分がそうである、と、鼻にかける気は無い。
だが今までの人生経験から、近しいことは出来る自信があるし、俺よりもそうなれるように、新人を教え続けてきた経験もある。
だから、“金の卵に育てる”事には、多少の自信がある。
それに、日本的な社会であれば、カニ田のように自身をその能力以上に強く売り込むのは、上司に気に入られていれば別だが、そうで無くなったら今のように、マイナスにもなり得る。
そう考えてみると、“まぁ、仮にこの世界に居着くにしても、ここじゃ無くてもそれなりに生きていけるだろう”と、そういう気持ちにもなれるってもんだ。
そうすると不思議と怒りも薄れてくるから、やはりここはしゃしゃり出る必要は無さそうだ。
そんな事に思いをはせながら、何となくいつも捕まえている“迷惑系”の配信者の画面を見る。
この手の配信者は、たまに次回告知をしていたりするから、防衛手段としてたまに目を通したりしていた。
(ん?何だこれ?)
その配信者のページに、新しい動画がアップされている。
それは数秒程度の告知動画で、真っ暗な画面に白文字で“緊急告知”と表示されていた。
試しにイヤホンを付けて音声を聞いても、“凄い事実を発見しました!編集次第、すぐにアップします!”と流れるのみだ。
あの時、アイツは捕まえて追い返した筈だ。
俺も数回映ったことはあるが、モザイクがかかっていたし、何より今回もいつもと変わらない対応をしていたはずだ。
どうせまた突撃失敗動画の前フリかな?コイツ釣り動画多いからな、と思いながら、俺はその配信者のページを閉じた。
さてそんな事よりも、今日も楽しい雑魚怪人の入力作業に取りかかるとしよう。
今日は終電前に帰れたら良いな……。
-……お前等みたいな気持ち悪い異世界の不純物なんか、この世界に必要ない!
怪人も、賞賛されるヒーローも、共に潰し合って殺し合えばいいんだ!
……もっとだ!
もっともっと、本当に……、近日中に……やる!
……皆殺す、最高の……だ!
お前等真っ先に殺してやる!-
編集する手が震える。
コイツは凄ぇ、本当のスクープだ。
あの時、新人ヒーローが何かボロを出さないかと狙っていた。
テレビ局の人間につてが有り、“次回はどの辺で戦うか”は聞いていたが、具体的な戦闘場所は解らなかった。
だから、そのエリアで戦う可能性の高い場所に、前日の夜から隠しカメラを仕込んでいたのだ。
結果としては仕込んだ場所では無い、また別の場所だったから突撃することになり、いつものガードマンに防がれてしまった。
その日は近くのホテルに帰り、翌日隠しカメラを回収して、一応撮影した内容を早回しで見ているときにそれに気付いた。
あの日撮影されるはずの無いピースフルカーブセブンと、噂のドクロ仮面。
しかも、ピースフルカーブセブンの装備を作ったとされる怪しげな科学者帆嵐が、人類の敵とされるワルアークの四天王を召喚して、戦っていたのだ。
しかも帆嵐の最後の捨て台詞。
若干音声が聞こえづらく、音も飛び飛びになってはいるが、意味はしっかり理解できる。
そう、真の悪は人類側にいたのだ。
これは一大スクープだ。
即座にテレビ局の人間にコンタクトを取り、公表方法を話し合う。
俺がnukotubeで流した後で、テレビ局がスクープとして俺の画像を使う。
これで俺は、トップnukotuberの仲間入りだ。
急いで戦闘シーンを編集して、最後に俺のコメントを入れる。
この動画をnukotubeにアップロードし、公開時間を設定する。
それと同時に、編集後のデータをテレビ局の人間にメールで送る。
少し後に先方からも、実に良い返事が返ってきた。
これを今日の夕方に流し、そしてテレビ局が緊急スクープとして夜のニュースで流す手筈だ。
今から、押し寄せるであろうマスコミにどうアピールするか。
そんな事を考えながら、仮眠するためにベッドに横になるのだった。




