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異世界殺し  作者: Tetsuさん
勇気と絆の光
303/833

302:色気の無い絵面

「そ、そう言えば田園さんは怪人側の人だったもんな。

それなら、知らなくても無理は無いか。」


「確かに。

でも結構テレビCMとかバンバンやってて有名な話だと思ったんですが、興味ある人とかじゃないと知られてないんですかね?」


アタル君の言葉を、南三君が引き継ぐ。

すまんな、忙しい日々を送っていると、段々とテレビとか見なくなるんや……。


「僕等の装備は、国が管理している研究所で作成されているんですよ。

総責任者は帆嵐(ホラン)という方で、どこかの大学の教授をされている一方で、オモチャ会社か何かの会長もやっているって話です。」


ホラングループ。


それを聞いて、少し思い出す。

確かヒーローや怪人のプラモデルやソフビ、ついでに変身グッズ系を作っている会社だったはず。

オタク趣味の俺としては、文化的に安定している異世界だったりすると、真っ先にそう言ったモノを癖で見ているし、何より怪人枠を取っていく大手広告代理店と組んでいるので、会社の資料でもたまに見かけていたが、“元の世界では聞いたこと無いオモチャ会社だなぁ”程度の認識だった。


まさか、そこがヒーローの装備を作っていたとはなぁ。

言われてみれば、オモチャのCMでも“あのヒーローの装備を作った”みたいなうたい文句があった気もする。


「国の奴から帆嵐(ホラン)教授って呼ばれてるけど、ワルアークやサイアーク、ダイアークに効果的な武器を日夜研究しているらしいぜ?

何でも最近じゃエーテルを使った新武器を研究しているとかって、この間来た役人さんが話してたな。

研究狂いで、毎回止めるの苦労するとか何とか。」


「なるほどねぇ。

怪人側からすると、面倒な事この上ないな。」


俺の言葉に皆笑う。

その後に皆が帆嵐(ホラン)教授とやらの噂話をし始める。

曰く、“現状、ヒーローの数が増えないのを不満に思っている”だったり“運営している会社の資金を使って、政府が認識していない研究もしているのでは?”という噂があるとか。


「そう言えば、この間ジャアークの奴が攻めてきてて、お前等とオッサンで戦った時あったじゃん?

あれの後でさ、何か俺“どこで何してた?”ってメッチャ役人さんに聞かれたよ。

アレ何だったんだろうな?」


「あぁ、アレ武蔵兄さんの所にも行ったんですか。

あの人達、僕と東也の所にも来ましたよ。

あの戦闘の前に帆嵐(ホラン)教授と会ったか、教授から呼び出されてあそこに到着できたのか、みたいな内容でしたね。」


武蔵君と南三君が、思い出したように顔を上げる。

あの戦いはジャアークから直前に告知があったと聞いていたが、改めて話を聞くと、本来ジャアークが拠点にしていた場所からは随分離れていたらしい。

また、あの日は武蔵君はオフで都内に遊びに行っていたらしく、それで少し遅れて現れたらしい。

あの時南三君は東也君と俺と共に喫茶店にいて、そこから向かった事を話したが、俺の存在よりも“その男性は帆嵐(ホラン)教授じゃなかったのか”と、そっちを怪しまれたらしい。

結果、俺から聞いた素性を話したらしいが、それには大した反応はしていなかったらしい。


「不思議ですよね。

世間じゃ田園さんの存在の方が謎だらけで、ネットとかでも最近の話題はそっちで持ちきりなんですよ?

なのに、田園さんの事を話しても“そっちは別口で問い合わせるから良い”の一点張りですからね。」


「俺の所には、そう言う連絡来なかったけどなぁ。」


“田園さんの勤めてる会社の方に連絡行ってるんじゃないですか?”と笑い話にはなったが、そんな話は噂すら聞かなかった。

週明けにも改めて聞いてみるつもりだが、多分“そんな連絡は無かった”と言われそうな気はしている。


ここまで聞いていても、怪しいなんてもんじゃない。

心象としては真っ黒だ。



「でも僕、あのおじさん嫌いだな。

……なんか、ことある毎に触ってくるんだもん。」


東也君がゲンナリとしながら湯船で伸びをする。

……もしかして教授……いや、まさかな。


「そういや、そろそろ装備のメンテナンス時期か。

あそこ遠いんだよな。」


武蔵君が顎まで湯船に浸かりながら愚痴る。

聞けば空港近くの、結構辺鄙なところにあるらしい。


「……そうか、なら南三、ホクトとハジメにも声かけといた方が良いんじゃないか?

あいつら絶対忘れてるだろ。」


アタル君が、いつも通りという感じで南三君に向く。

南三君も、“あー、そうですねぇ。”と、上を見ながらボンヤリ呟く。


「ん?君等その、ホワイトさんとイエローさんだったか、行方を知っているのか?」


俺の質問に、何故かヒーロー達は全員苦い顔をする。

あの東也君ですら、微妙な顔をしたと思うと俺から目線を逸らす。


「お、オイオイ、何だよ、ここまで来て隠し事は勘弁してくれよ。

来るときにも言ったが、確かに俺は俺の目的のためにこうして君等といるが、大人のオッサンとして、君等の力になりたいとも思っているんだぞ?

そこに嘘はねぇよ。」


「いや、そう言うわけでは。

……田園さんはその、nukotubeって知ってますか?」


俺の言葉に、何やら意を決したのかアタル君が口を開く。

nukotube。

海外が発祥の、動画サービスだ。

登録さえすれば、誰でも簡単に動画を投稿できる。

投稿した動画が収益化出来れば、再生回数や広告収入などで生計を立てることが出来るなど、“新しい芸能文化”として人気を博していた。

この世界ではそのnukotubeでリアル顔出しでやっているタレントのことをnukotuber、アニメキャラの皮を被り運用しているタレントのことをVバーチャルnukotuber、または縮めてVtuberと呼んでいる。


「あぁ、知ってるよ。

最近じゃ君等との戦いの前に安全確保しないと、“ヒーローの戦いを邪魔してみた”みたいな動画を投稿しようと迷惑な奴も出て来るから、注意が必要って会社からも言われてるからなぁ。」


そう、近年“迷惑系nukotuber”なる存在も出て来ており、俺達が毎回制止している常連さんもいるくらいだ。


「んでも、それがどうしたんだ?」


「いや、実はですね、それ、なんですよ。」


話が見えてこない。

あと二人のヒーローと、nukotubeが何だというのだろうか?


「あー、あの2人はですね、デビューしちゃってるんですよ。」


「???」


完全に頭の上に?マークが出ている。

オッサンには、もっと解りやすく教えて欲しいもんだ。


「えぇと、ホクトお姉ちゃんとハジメ兄ちゃんは、“怪人倒してみた”系nukotuberになってまして。」


「あー、まぁ、上がったらどこかファミレスでも寄りますか。

動画お見せしますよ。

そっちの方が早そうだ。」


東也君と南三君の言葉を聞いても、オッサンの俺には理解が追いつかなかった。

ただ、“お、おぅ……”と、生返事をするのがやっとだった。

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