302:色気の無い絵面
「そ、そう言えば田園さんは怪人側の人だったもんな。
それなら、知らなくても無理は無いか。」
「確かに。
でも結構テレビCMとかバンバンやってて有名な話だと思ったんですが、興味ある人とかじゃないと知られてないんですかね?」
アタル君の言葉を、南三君が引き継ぐ。
すまんな、忙しい日々を送っていると、段々とテレビとか見なくなるんや……。
「僕等の装備は、国が管理している研究所で作成されているんですよ。
総責任者は帆嵐という方で、どこかの大学の教授をされている一方で、オモチャ会社か何かの会長もやっているって話です。」
ホラングループ。
それを聞いて、少し思い出す。
確かヒーローや怪人のプラモデルやソフビ、ついでに変身グッズ系を作っている会社だったはず。
オタク趣味の俺としては、文化的に安定している異世界だったりすると、真っ先にそう言ったモノを癖で見ているし、何より怪人枠を取っていく大手広告代理店と組んでいるので、会社の資料でもたまに見かけていたが、“元の世界では聞いたこと無いオモチャ会社だなぁ”程度の認識だった。
まさか、そこがヒーローの装備を作っていたとはなぁ。
言われてみれば、オモチャのCMでも“あのヒーローの装備を作った”みたいなうたい文句があった気もする。
「国の奴から帆嵐教授って呼ばれてるけど、ワルアークやサイアーク、ダイアークに効果的な武器を日夜研究しているらしいぜ?
何でも最近じゃエーテルを使った新武器を研究しているとかって、この間来た役人さんが話してたな。
研究狂いで、毎回止めるの苦労するとか何とか。」
「なるほどねぇ。
怪人側からすると、面倒な事この上ないな。」
俺の言葉に皆笑う。
その後に皆が帆嵐教授とやらの噂話をし始める。
曰く、“現状、ヒーローの数が増えないのを不満に思っている”だったり“運営している会社の資金を使って、政府が認識していない研究もしているのでは?”という噂があるとか。
「そう言えば、この間ジャアークの奴が攻めてきてて、お前等とオッサンで戦った時あったじゃん?
あれの後でさ、何か俺“どこで何してた?”ってメッチャ役人さんに聞かれたよ。
アレ何だったんだろうな?」
「あぁ、アレ武蔵兄さんの所にも行ったんですか。
あの人達、僕と東也の所にも来ましたよ。
あの戦闘の前に帆嵐教授と会ったか、教授から呼び出されてあそこに到着できたのか、みたいな内容でしたね。」
武蔵君と南三君が、思い出したように顔を上げる。
あの戦いはジャアークから直前に告知があったと聞いていたが、改めて話を聞くと、本来ジャアークが拠点にしていた場所からは随分離れていたらしい。
また、あの日は武蔵君はオフで都内に遊びに行っていたらしく、それで少し遅れて現れたらしい。
あの時南三君は東也君と俺と共に喫茶店にいて、そこから向かった事を話したが、俺の存在よりも“その男性は帆嵐教授じゃなかったのか”と、そっちを怪しまれたらしい。
結果、俺から聞いた素性を話したらしいが、それには大した反応はしていなかったらしい。
「不思議ですよね。
世間じゃ田園さんの存在の方が謎だらけで、ネットとかでも最近の話題はそっちで持ちきりなんですよ?
なのに、田園さんの事を話しても“そっちは別口で問い合わせるから良い”の一点張りですからね。」
「俺の所には、そう言う連絡来なかったけどなぁ。」
“田園さんの勤めてる会社の方に連絡行ってるんじゃないですか?”と笑い話にはなったが、そんな話は噂すら聞かなかった。
週明けにも改めて聞いてみるつもりだが、多分“そんな連絡は無かった”と言われそうな気はしている。
ここまで聞いていても、怪しいなんてもんじゃない。
心象としては真っ黒だ。
「でも僕、あのおじさん嫌いだな。
……なんか、ことある毎に触ってくるんだもん。」
東也君がゲンナリとしながら湯船で伸びをする。
……もしかして教授……いや、まさかな。
「そういや、そろそろ装備のメンテナンス時期か。
あそこ遠いんだよな。」
武蔵君が顎まで湯船に浸かりながら愚痴る。
聞けば空港近くの、結構辺鄙なところにあるらしい。
「……そうか、なら南三、ホクトとハジメにも声かけといた方が良いんじゃないか?
あいつら絶対忘れてるだろ。」
アタル君が、いつも通りという感じで南三君に向く。
南三君も、“あー、そうですねぇ。”と、上を見ながらボンヤリ呟く。
「ん?君等その、ホワイトさんとイエローさんだったか、行方を知っているのか?」
俺の質問に、何故かヒーロー達は全員苦い顔をする。
あの東也君ですら、微妙な顔をしたと思うと俺から目線を逸らす。
「お、オイオイ、何だよ、ここまで来て隠し事は勘弁してくれよ。
来るときにも言ったが、確かに俺は俺の目的のためにこうして君等といるが、大人のオッサンとして、君等の力になりたいとも思っているんだぞ?
そこに嘘はねぇよ。」
「いや、そう言うわけでは。
……田園さんはその、nukotubeって知ってますか?」
俺の言葉に、何やら意を決したのかアタル君が口を開く。
nukotube。
海外が発祥の、動画サービスだ。
登録さえすれば、誰でも簡単に動画を投稿できる。
投稿した動画が収益化出来れば、再生回数や広告収入などで生計を立てることが出来るなど、“新しい芸能文化”として人気を博していた。
この世界ではそのnukotubeでリアル顔出しでやっているタレントのことをnukotuber、アニメキャラの皮を被り運用しているタレントのことをVnukotuber、または縮めてVtuberと呼んでいる。
「あぁ、知ってるよ。
最近じゃ君等との戦いの前に安全確保しないと、“ヒーローの戦いを邪魔してみた”みたいな動画を投稿しようと迷惑な奴も出て来るから、注意が必要って会社からも言われてるからなぁ。」
そう、近年“迷惑系nukotuber”なる存在も出て来ており、俺達が毎回制止している常連さんもいるくらいだ。
「んでも、それがどうしたんだ?」
「いや、実はですね、それ、なんですよ。」
話が見えてこない。
あと二人のヒーローと、nukotubeが何だというのだろうか?
「あー、あの2人はですね、デビューしちゃってるんですよ。」
「???」
完全に頭の上に?マークが出ている。
オッサンには、もっと解りやすく教えて欲しいもんだ。
「えぇと、ホクトお姉ちゃんとハジメ兄ちゃんは、“怪人倒してみた”系nukotuberになってまして。」
「あー、まぁ、上がったらどこかファミレスでも寄りますか。
動画お見せしますよ。
そっちの方が早そうだ。」
東也君と南三君の言葉を聞いても、オッサンの俺には理解が追いつかなかった。
ただ、“お、おぅ……”と、生返事をするのがやっとだった。




