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異世界殺し  作者: Tetsuさん
勇気と絆の光
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289:ヒーローとの交渉

「……ふっ!グッ!グスッ!

……田園さん……そんな事が……!!」


ピースレッドこと武蔵君は、驚いた事に東也君よりも純粋だったようだ。

俺の話を、最初はカレーを食い終わった満足感から寝転がりながら聞いていたが、その内身を起こし、最終的には身を乗り出して泣きながら聞いていた。


一応、俺から見た事実しか言っていないが、こんなにアッサリと信じて貰って大丈夫なんだろうか?

やはり、あの神を自称する存在から転生させて貰っただけに、理解できることが多いと言うことだろうか?


「……とまぁ、俺の話はこんな所だ。

一応言っておくが、誓って嘘は言っていない。

南三君にも東也君にも手伝って貰い、この世界の管理権限を取得させて貰っているところだ。

出来れば君にも管理権限を移譲して貰いたい所ではあるが……。」


「そうだよ、武蔵兄ちゃん!

この人が何か、ゲームのステータス画面みたいなのを開いたのは僕も見たよ!

僕等が“管理権限を田園さんに一次委譲する”って言えば、僕等も元の世界に帰してくれるかも知れないんだよ!」


東也君が俺の言葉を引き継いで、足りなかった説明を入れてくれる。

有りがたいなと思ったが、その言葉を聞いた武蔵君は顔を暗くする。


「……お、俺は、俺は嫌だよ、元の世界に帰るなんて。

何でだよ!良いじゃん、こっちの世界でヒーローとして暮らそうぜ!

元の世界に帰ったって、何にも良いことなんか無かったじゃないか!」


焦ったような、怒ったような表情で立ち上がり、それだけ言うと先程の廊下を左に駆けていってしまった。

多分、あっちが彼の私室が有る方なんだろう。


呆気にとられ、俺は南三君を見る。


「……田園さん、すいません。

アイツ、元の世界では就職浪人だったもんで……。」


元の世界での武蔵君は21歳だったらしく、高校卒業と共に働きに出ていたが、どの職場も長続きしていないらしい。

結局フリーターとしてアルバイトをしながら、長女の西さんと共に生活費を工面する毎日だったと言うことだ。


そこから、南三君にはこの世界に来てからの事を、色々と聞いた。


神様に言われて兄弟全員で転生した先は、現代日本とよく似ているが、“怪人”と“ヒーロー”が戦っている世界だった。

昨今ではヒーローのなり手が少なく、またせっかく強いヒーローになっても、アメリカやヨーロッパ等により強大な怪人組織がいるため、すぐに引き抜きにあってしまう。

その為、この異世界日本政府は困り果てていたらしい。

そこで政府は、“政府が保証する制度”でヒーローを作り出そうとしたが、あまり上手くは行ってなかったらしい。

そのため、政府は藁にも縋る思いで怪しげな召喚儀式を行っていたとの事だ。


そして、その召喚儀式で自分達が唯一の成功例になり。

政府は、“自分達が召喚したのだから”と、色々と身分やら資金面での援助を行う事で、ヒーロー達の身分をガチガチに固めたらしい。

ただ、彼等兄弟達は、言ってしまえば貧困から一気に生活が改善したと言える。

特に、彼等兄弟は、ある意味で全員が公務員と言うことだ。


これに兄弟達、特に働きに出ていた上の3人は、大いに喜んだらしい。

ただ、最初は7人で活動していたが、最初に次男の(あたる)君、ピースブラックが“俺はソロで戦いたい”と、離脱を宣言。

続いて四男の(はじめ)君、ピースイエローと、二女の北斗(ほくと)さん、ピースホワイトが、それぞれ“黄色は嫌だ”と“白じゃなくてピンクが良かった”と言い離脱。

2人は別のアパートに住んでいるが、ヒーロー活動は政府に決められた最低限の範囲しか行っていないらしい。


「……何とまぁ、住むところまでバラバラになっちまってたのか。」


人の気持ちとは難しい。

貧しいときは肩寄せ合って、助け合ってきた兄弟達も、少し余裕が出ると互いを煩わしく思い始める。

さらには、“あぁしたかった”や“こうしたかった”という欲望が鎌首をもたげる。


この世界、ある意味でトップクラスに残酷だ。

試しちゃいけない間柄の絆を、笑って試してやがる。

あの神を自称する存在を気持ち悪く思いながらも、話を聞き終わった俺はハンカチで額の汗を拭う。


これはまいった。

暴力なら、多少の覚えがあるから暴力で跳ね返せる。

ピンクが暴力に屈しそうなら、“立って闘え”と発破をかけるくらいは出来たろう。


だが、これはそうじゃない。

もっと深刻な、心の問題だ。


勘弁してくれ、心は重すぎるよ。


そう泣き言を言いそうになるが、乗りかかった船って奴になるのだろう。

夕食後の一服も終わり、お茶を飲み干すと南三君に声をかける。

ピースピンク、西さんに声をかけねば。


案内して貰うと、やたらと真新しい壁と扉が廊下の突き当たりに見える。

屋内なのに、外扉が鎮座しているその光景に奇妙なモノを感じながらも、改めて周囲を見渡す。

扉の右下にある棚の上には、空になったカレー皿があるところを見ると、食事は取っているのだろう。

唯流石にインターホンの様な物は無いので、これは扉を叩くしか方法は無さそうだ。


意を決して、扉を叩く。


「すいません、西さん。

私は田園と申します。」


-誰?政府の人?-


扉の向こう、くぐもった音ではあるが、一応普通に聞こえる声で西さんから返答がある。

あぁ、確かにこの声はあの時聞いたピースピンクの声だ。


「いいえ。

……その、言い出しにくいんですが、アナタが最後に戦い、アナタをぶん殴ったドクロの仮面を着けてた者です。」


扉の向こうで、ガタガタと何かがひっくり返るような音が聞こえる。


-な、何しに来たの!?

いえ、そもそもどうやってここの場所を知ったの!?

武蔵達は無事なの!?-


「あ、姉さん、僕等は無事だよ、と言うか、お願いして田園さんに来て貰ったんだよ。」


ガタガタと騒がしかった部屋の中の音が止まる。

ふと、“もしかしたら、変身モジュールを探していたのか?”という疑問が頭をよぎる。

変身モジュールはヒーローそれぞれが違った形をしているらしく、武蔵君や南三君は腕時計の形を、東也君は変身ベルトの様な形らしい。

その中でピンクの西さんは、スマホのような形をしているとの事だ。

俺のマキーナもそうだが、あぁ言う小物は肌身離さず持っていないと、何処に置いたかすぐに解らなくなる。

音から察するに、西さんはそんなに部屋を綺麗にしている方では無さそうだ。

ともあれ、誤解はこれで解かれたと思っていたが、そう簡単にはいかないようだ。

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