288:ヒーローの生態
(マキーナ、ブルーの回線に割り込めるか?)
<実行します。>
流石マキーナ先生、次の瞬間にはブルーの音声が聞こえてくる。
“待てレッド!その人は……”と言いかけていたが、それを遮る。
「ブルー君、良い機会だ!レッドをそのまま俺に向かわせろ!
このまま、どうやって解散するか悩んでいたんだ。
連絡先と住所を送信しておく!後で連絡くれ!」
「……!解りました!
おいレッド、事情は後で説明する!
本気じゃ無くて良いから、いつものバーニングパンチでも打て!」
一瞬、レッドが迷う素振りを見せたが、流石は戦隊モノのヒーロー。
すぐに攻撃態勢を取ると、決めポーズを取る。
「行くぞ怪人!受けてみろ!バーニング!レッド!ストレート!」
燃える炎の拳を繰り出し、突進してくる。
まぁ見え見えではあるが、今は黙って喰らってやる。
<爆発装甲盾、展開。>
拳が俺に命中する瞬間、マキーナが気を利かせて間に爆発物付きの盾を展開する。
『ちょ!?マキーナさん!?』
爆発盾の影響で激しく吹き飛ばされながら、空中で回転するとブースターユニットを展開し、ホバリングする。
『フン、また会おう。』
何かそれっぽく悪役セリフを言いつつ、空を飛んで脱出するのだった。
『……あの、マキーナさん。』
<何ですか、勢大。>
『いや、あの、このまま空飛んで、どうするのかなって。』
<ご安心を。
撮影ドローンから充分離れたところで、海に向かいます。>
ほうほう、海に向かう、と。
その次はどうする気だ?
<そのまま海面に着陸し、潜水により海岸へ戻ります。
30分程度で地上に戻れる想定ですが、1つ問題が。>
うん?問題?
<先程取り込んだ機体呼称“デス・ガン”ですが、どうやら陸専用のタイプだったようです。>
それって、もしかしてもしかして、よもやよもや、どうやって陸地に戻るのかしら?
<……勢大、頑張って下さい。>
『やっぱりかぁぁぁ!!!』
俺の絶叫と共に着水する。
幸いなことは、変身しているときには呼吸的な面は問題ないことか。
マキーナは30分と予測していたが、結局人の居ないところを探しながらの潜水だったため、1時間以上をかけて上陸、何とか社宅まで戻ってくる事が出来た。
「いやぁ、ヒデェ目にあった。」
もう、ああ言う予定していない状況での救助は控えるようにしよう。
そんな反省と共にシャワーを浴び終わると、社用携帯にブルー君から着信があったようだ。
折り返し電話をかけると、数コールでブルー君が出る。
「あぁ、ブルー君か?すまん、シャワー浴びててな。」
-無事で良かったです。
あ、普段は南三でお願いします。
何処で誰が聞いてるかわからないので。
それよりも、武蔵のバカを説得しましたんで、さっき途中になった話とか、その、セイの件もあるので、良ければ夕食を一緒にどうかなと思いまして。-
聞けば、俺の社宅から私鉄で数駅の所にある、怪神町という所に皆で住んでいることが解った。
何というご近所さんだ。
丁度良い機会だと言うことで、そのまままたスーツに着替えると言われた住所に向かう。
駅を降りて目的の場所に向かうが、そこは住宅街の中に建つ、こじんまりとしたアパートだった。
てっきり国家指定のヒーロー達だから、かなり良いところに住んでいると思ったが、全くそんな事は無い。
何か、凄い生活感に溢れるヒーロー達だ。
インターホンを鳴らし、中でドタドタと足音が聞こえたかと思うと、ドアが開く。
「あ、お待ちしてました。
上がって下さい。」
南三君が扉を開けると、漏れ出た空気からカレーの良い香りがしてくる。
……まさか、“夕食を”と言われたが、自宅で食事とは思わなかった。
俺は少しだけ呆気にとられたが、まぁこれも経験かとお邪魔する。
しまったな、これなら何か食い物でも買ってくれば良かったか。
「お~い、南三、そのオッサン誰?」
「あのねぇ、さっき説明したでしょうが、この人が田園さん、……あのドクロの人だよ。」
赤い髪の毛の青年がそれを聞くと、目を見開いて突然立ち上がり、ファイティングポーズを取る。
「南三!テメェ敵と通じてやがったのか!?
……こうなりゃ、変し……。」
「ダメだよ!武蔵兄ちゃん!!」
この、ファイティングポーズを取っている赤髪が武蔵君、レッドなのだろう。
東也君が慌てて押さえ込み、変身を中断させる。
俺も、マキーナを取り出しかけていた手を止める。
「兄さん、話聞いてなかったのかよ……?
この人は一応怪人側の人だけど、話が通じる人なんだよ。」
呆れたように南三君がそう言うと、武蔵君は不貞腐れたように座り込み、何やらブツブツと文句を言い出したが、それ以上何かする気は無い用だ。
だが、少ししたら何かを思い出したように、ハッと顔を上げてこちらを向く。
「そうだ!
オッサンがドクロ野郎なら、姉ちゃんに隠さないとじゃねぇか!?」
「……だから、それもあって田園さんを呼んだんだよ。
このままじゃ俺達も資金打ち切りが待ってるだけだ。
その辺のことを田園さんにも説明して、姉さんの説得にも力を借りようと思ってるんだよ。」
“力を借りたい”とは言われていたが、そう言うことだとは思わなかった。
だが、“資金打ち切り”とは何の事か解らなくとも、穏やかじゃない事は確かだ。
“とりあえずもうすぐ食事が出来るから”と言われ、仕方なしに居間のテーブル、武蔵君の向かいに座る。
武蔵君は、まだ半分俺を疑っているようではあった。
「……オッサン、凄ぇ強ぇのに、何で怪人側なんかについてんだよ?」
ポツンと、武蔵君がつまらなさそうに吐き捨てる。
俺は、静かに武蔵君を見据える。
態度は尊大で、言葉遣いは強め。
髪色も日本人顔には向いていない赤い色で、服装も赤を基調とした、どことなく攻撃的な印象を受ける。
「な、何だってんだよ……。」
恐らくは、虚勢。
内心は怯えや恐怖で弱気だが、立場か、年上だからか、何にせよ、無理をしているのだろう。
あの立ち回りでも、この青年は真っ直ぐな拳だった。
根は、優しくて真っ直ぐな子なのだろう。
「いや、無理をしていそうだなと思ってな。
俺は望んでこの立場にいる。
ただ、別に“人類を恐怖に~”とか、そんな事は考えちゃいない。
俺は、“いつかいなくなる異邦人”だ。」
「……悪ぃ、全っ然、解らねぇ。
飯食いながら、もう少し詳しく聞かせてくれよ。」
そうだろうな。
これだけの単語で理解できたら苦労はしない。
丁度そこへ南三君がカレー鍋を持ってテーブルの上に置く。
東也君も炊飯器を手にして後に続く。
南三君がそれぞれによそりながら、最後にもう一つよそり、それを武蔵君に手渡す。
「武蔵兄さん、また姉さんの所に頼むよ。」
武蔵君は何も言わず受け取ると、奥の廊下に向かい歩いて行った。
「……西さんは、同じ家に住んでるんですか?」
俺の問いに、南三君は小さく頷く。
「えぇ、このアパート、僕等用に2階をぶち抜きにして貰ってまして。
間取りはそのままで、壁が襖やドアに改築されてるんですよ。
それで、一番奥の部屋は西と北斗の部屋になってまして。
まぁ、北斗は別のアパートに引っ越しちゃってますがね。」
なので現在は西さん一人で一室にいるらしいのだが、この間の俺との戦闘以降、部屋に引き籠もってるらしい。
食事も食べていなさそうなので、こうして一番仲の良い武蔵君が食事を届けているとのことだ。
……なんだろう、ヒーロー達もヒーロー達で、問題ありすぎだろ、この世界。




