287:真のヒーローは遅れてやって来る
「このピースブルーと!」
「ピースグリーンが!」
「「お前達の悪巧みを!ここで止める!」」
前口上と共に2人のヒーローが怪人達の前に立ち塞がる。
俺はと言えば、取りあえず黙ってみているのも何なんで、周辺の人を逃がすための交通整理をしている。
このジャアーク達は完全に“襲って”きている。
研修で動画を見せて貰っていたが、ワルアークもサイアークもダイアークも、いわゆる日本を拠点に置く組織は事前に国に申請を行い、交通整理などをした上で襲っている。
そう言う意味でも、ジャアークは本来の本能に従い襲ってきているようだ。
「ギギギ、現れマシタね、ヒーローズ。
今日こそハ、仕留めてみせるデス。
ユケ!デス・ガン!!」
片言の言葉遣いではあるが、あのピエロのような奴がジャアーク日本支部の偉い奴なのだろう。
ピエロのような奴の前に、アンバランスなロボットがガシャン、ガシャンと歩き出す。
……なんだ、てっきりデス・ガンとか言うから、VR世界で撃った弾に当たると死んじゃうという名目で、撃った瞬間に合わせてリアルに殺していたトリック使いなのかと思ったぜ。
何て事をチラと思ったが、デス・ガンの威力は凄まじい。
両腕を砲身に変えて、弾丸をヒーローめがけて乱射している。
グリーンがハンマーを巨大化させて銃弾から身を守っていると、デス・ガンは両肩からミサイルを出現させ、それを撃ち込む。
大爆発を起こして粉塵が周囲に舞うが、何とかグリーンのハンマーが破壊されただけで済んだようだ。
ホッとしたのも束の間、すぐにデス・ガンはまた両腕のマシンガンを乱射し始める。
今度はブルーが剣を回転させ、弾丸を弾き落としているが、現状一歩も前へ出ることが出来ていない。
「必殺!ピース!ハンマー!!」
それでも流石ヒーロー、ブルーが耐え凌いでいる間に回復したグリーンがハンマーを再出現させると、ブルーが引きつけている間に空を飛び、ハンマーをデス・ガンに叩き付けた。
渾身の力を込めて叩き付けたハンマーは、デス・ガンを頭部から縦に地面まで縫い付けるようにブッ貫いた。
「Oh、流石にやられテ、しまいましタカ。
デモ、コレなら、ドゥデスか!?」
肩で息をするブルーとグリーンの周囲に、先程のデス・ガンと同じ形状のマシンがワラワラと出て来る。
何かを叫ぼうとしたブルーの声を掻き消すように、デス・ガン達は一斉に銃を乱射する。
ハンマーやソードを振り回して弾丸を弾き落としても、その数の暴力の前にはなすすべも無い。
徐々に弾が当たり出し、彼等のスーツからも火花が散り始める。
(……なんつーか、情緒がねぇんだよなぁ。)
勝つために拘るなら、このやり方は正しいのかも知れない。
雑魚怪人がいないし、裏の主役となる強そうな怪人もいない。
雑魚怪人がそのまま強くなって、数の暴力でヒーローを圧倒する。
ヒーロー側も、悪の怪人一人に寄って集ってと言えばその通りだが、それは少し違う。
ヒーローは万能では無いから、それぞれが補いあって戦うその姿に、人々は感動するのだ。
このデス・ガンとやらは、単体で万能だ。
それらが数集まって襲うのは、最早“戦い”ではない。
ただの“戦争”だ。
それは、やっちゃダメだ。
「マキーナ、通常モードだ。」
<通常モード、起動します。>
ブルーとグリーンはボロボロだ。
スーツからも火花が弾け、銀色の下地が見え隠れしている。
「ギギギ!!どうやらソコまでの様ですネ!
アァメリカのヒーローに比べたラ、ジャパァンのヒーローズは、脆いネェ!!
それじゃ、サヨナラデェス!!」
ピエロのような怪人が勝ち誇り、腕を振り上げたその瞬間、デス・ガン達は次々と爆発する。
殆どのデス・ガン達が爆発した後で、満身創痍のブルーとグリーンの前に、俺はあえて立ちはだかる。
<ブーストモード、終了します。>
『惜しいな、全部はぶっ壊せなかったか。』
ブーストモードを維持できる時間は、実時間にすると割と短い。
継続的な戦闘を望むなら、平均的には2秒か、3秒か。
その時のコンディションでマチマチだ。
だが、どんなに良いコンディションの時でも、その辺くらいを超えると体への負担が異常に増加する。
正確に測っていないから細かくは解っていないが、それでも体感時間は10分以上に感じている。
今回は、数が多すぎて倒しきれなかっただけだ。
<いいえ、丁度良いです。
数機は捕獲、吸収したいと思っていました。>
『腹壊すなよ?』
マキーナと雑談していると、目の前のピエロが怒りでワナワナと震えているのが解る。
「き、き、貴様!貴様貴様キサマァ!
ナズェココニイルンデェス!
キサマは!ワルアークの飼い犬だったデショウ!!」
おいおい、怒りすぎてオンドゥル語になりかけてるぜ。
『悪いな、別に飼われているわけじゃない。
たまたま目的が近しいから、軒先を借りてるだけだ。』
「な!何が目的ディスか!?
……いや、その目的とやら、我等の組織の方が実現しやすいのでは無いディスか?」
なるほど、有望株と見れば引き抜きをかけるのもまた、外資らしい。
『悪いな、俺、お前等好きになれそうに無いわ。』
一気に間合いを詰めて打ちのめそうとしたが、すんでの所でかわされる。
なるほど、見た目と違ってそれなりに強いわけか。
「ギギギ、今日ハ用事を思い出したノデ、コレで失礼するヨ!
マタ会おう、クソヒーローズにクソボーンヘッド!」
ピエロはそう言うと、クルリと回転して姿を消す。
後に残されたデス・ガン達は、再起動すると無差別に周囲に攻撃を始める。
『ったく、最後まで迷惑な奴だ。
おら、ヒーロー共。
もう回復は終わったかよ?
さっさと潰すぞ?』
全身スーツが元通りの青と緑に戻ったのを見て、俺は手近な奴を捕まえる。
<装甲を突き破り、心臓部の核を掴んで下さい。>
マキーナに言われたとおり装甲をぶち抜き、輝く水晶のような石を右手で掴む。
掴んだ瞬間、右手から黒い靄のようなモノが広がり、一気にデス・ガンを包み、そして右手の中に吸い込んでいく。
<システム、解放されました。>
マキーナの声と共に、俺の視界の端にずらっと解放された装備一覧が映る。
日本刀にジェットパック、各種銃器と映るが、一際目を引くモノもある。
『おぉ、電磁砲まで解放できたのか。
この世界の技術も、中々高度なレベルに達してたんやなぁ。』
電磁砲とは、少し前の世界、パワードスーツのようなモノを着込んで、虫のような敵対生物とドンパチやってた世界で、俺が最後に装備した武器だ。
平たく言ってしまえば高出力のレールガンで、異星人の要塞や装甲をぶち破る兵器だった。
だが、マキーナ曰くこの世界ではまだ作成されていない、ただ物資があったからマキーナの知識で製造できた、オーパーツ同然の代物らしい。
(それでも凄ぇけどなぁ。)
視界に映る懐かしの兵器を横目に、ブルー達に振り返る。
ここからどうやって場を有耶無耶にするか相談しようとした矢先に、面倒事がまた舞い込む。
「遅ればせながら参上!俺の名はピースレッド!
いたな悪党!この俺の、正義の鉄槌を喰らわしてやる!!」
あぁ、良い感じに余計なのが来たな……。




