286:勢大さん辱めを受ける!
「その、権限を移譲する方法、ちなみになんですが、どういう風にすれば良いんですか?」
俺は、自身のことも含めてもう少し詳しく話をする。
こうなってしまった経緯、始まりの瞬間と、幾つもの異世界を渡り歩いている話を。
「……なるほど、そんな事が。
あ、いや、年上の方に“なるほど”とは失礼でしたね。」
「おじさん、そんな大変なことが……。」
南三君も東也君も、話を聞けば聞くほどのめり込んでくれた。
東也君に至っては、涙ぐんで俺の身を案じてくれていた。
2人とも、この話を嘘だと決めつけず、素直に信じてくれたのはありがたかった。
もしかしたら彼等にも、何か思い当たることがあるのかも知れない。
その話の流れで、南三君が“権限の移譲をしたい”という話をしてくれた。
早速口頭で“田園さんに権限を一時移譲する”と言ってもらうと、俺の目の前にいつものパラメータ画面が表示される。
「わっ、ホントだ!
何かCGみたいな画面が出て来た!
……けど、何か文字が灰色だね?」
東也君が呟いたとおり、俺の目の前に現れたパラメータ画面は、文字がアクティブ化されておらず、全てグレーアウトされている。
そしてパラメータ画面の中央に白い文字で、“権限:1/7”と表示されている。
「……まさかなんだが、君等もしかして戦隊の名前の通り7人いるのか?
この表示の感じからして、7人から権限の移譲を得ないとパラメータを弄れない感じになるんだが……。」
試しに東也君にも権限移譲を口にして貰うと、中央の表示が2/7に変わる。
「え、えぇ、実は僕等、7人兄弟でして……。」
これで確定だ。
幾つかの世界で体験したように、ここは“条件付き”の世界だ。
今回の世界では、彼等全てから“権限の移譲”の承認を得ないと終わらないらしい。
「い、一応、田園さんには必要なことだと思うので、僕等の話をさせて下さい。
僕等は……。」
酷い話だった。
彼等は7人の兄弟と両親の、9人家族だったそうだ。
両親は地方に住み、兄弟は学校や社会人として勤めていたので、皆散り散りだったそうだ。
ある年の年末、久々に両親の元に帰ろうと話し合った結果、兄弟は東京駅に集まり、そこから夜行バスで両親の元に帰ろうとしたらしい。
そのまま帰れれば良かったのだが、夜行バスは運転手の居眠りで高速道路上で大事故を起こす。
それで兄弟は一巻の終わり。
だったらしい。
死んだと思った7人は、しかし気が付くとあの、白い大地と青空の、何も無い空間にいたらしい。
そこで彼等は神様に出会い、いつもの流れとなったらしい。
ただ、ここで南三君と東也君の意見が割れた。
南三君は神様はお爺さんだったと話したが、東也君は筋肉ムキムキの青年だったと語る。
俺は黙って聞いていたが、いつも疑問に思っていた事がここで何か答えを得られた気がした。
あの神を自称する存在、“見る人にとって見たいモノに見える”のではなかろうか。
いつも転生者から情報を聞いていると、あの存在はあやふやだ。
男であったり女であったり、若かったり老人であったり。
俺が見た少年も、本当に少年なのか怪しい。
どこかの世界ではアレを“原初の混沌”と呼んでいた。
アレはきっと、そう言う存在なのだろう。
「……まぁ、神様とやらがどんなだったかはともかく、先を続けてくれるかい。」
俺に促されて、南三君はまた話し出す。
兄弟は男女合わせて7人。
丁度南三君が真ん中らしい。
上から、この世界でのピースピンクで長女の西、ピースレッドで長男の武蔵、ピースブラックで次男の中、ピースブルーで三男の南三、ピースイエローで四男の一、ピースホワイトで次女の北斗、そしてピースグリーンで末っ子の東也君と、こう言った兄弟らしい。
「いや君等、マジで戦隊員も7人なんかい!」
「えぇ、だから自己紹介でも“ピースフルカーブセブン”と……。」
「まてまてまて、いやいやいや、おかしいですやん?
普段7人いないやん?
それじゃいつもピースフルカーブフォーとか、この間なんかスリーになっとるやんか!
何で他の奴等は出て来ないん?」
思わずエセ関西弁で怒りたくなる。
「いや、まぁ、前に皆でも話し合ったんですが、離脱してる奴等は“目指す路線が違うから”という話でして……。」
南三君も、微妙な表情をしながら弁明する。
なんじゃそりゃ、バンドの解散理由か何かか。
更に話を聞けば、ピースピンクはこの間俺に殴られてから部屋に引き籠もっているらしい。
次男の中は、“俺は一人でやっていく”と、ソロで怪人退治を請け負っているとのことだ。
四男の一と次女の北斗は、“希望の色じゃないから”と言うことで、戦隊活動自体を殆どやっておらず、生活が苦しくなると数回ヒーロー活動をして、収入が入ったらまた休止すると言うことを繰り返しているらしい。
なんじゃそりゃ、ちょっと人気のある地下アイドルかVtuberか何かか?
俺が呆れていると、東也君がスマホを見て驚く。
「あっ!?
ねぇ兄ちゃん、怪人退治の予告が入ってるよ!!」
「えっ、……あぁ、コイツらか。
……田園さん、ちょっと申し訳ないですが、この続きはまた今度に……。」
南三君は名残惜しそうにしているが、怪人の出現予告があったらしい。
おかしいな?ウチは今日はお休みで、誰も活動してないと思ったんだが?
「あぁ、今日の敵は“ジャアーク”の方ですから。
コイツら土日も関係なしだし、襲撃予告もこんな風に直前とかなんですよ。」
まぁ、これが本来は、いや、本来完全な敵対しているなら予告すらしてこないだろう。
某オンラインゲームでよくあった“予告緊急”とか、何だそれ?と思っていたが、現実に起こるなら、そりゃ予告されている方が準備できるから良いなと、改めて思う。
「いや、良ければ俺も現場まで行こう。
終わったら、また少し話そうか。
ピンクさんの件もあるしな。」
ついでに言えば、昨日の飲みの席で聞いた話から推測するに、ジャアークは面倒な商売敵でも有るわけだ。
なら、どんなのがいるのか見ておくのも悪い事じゃないだろう。
俺は颯爽と立ち上がり、伝票を掴む。
そして金額を見たとき、そっと伝票を置く。
「ゴメン、給料日前でキツいんで、割り勘で良い?」
南三君は何かを察したように静かに頷くと、会計を済ませつつ、見えないように俺に万札を握らせる。
流石に子供に奢って貰い、尚且つ資金まで恵んで貰うには恥ずかしすぎたので返そうとするも、頑なに受け取らない。
俺達の静かな押し問答を、東也君が何も解らずに純真な目で見ていた。
フッ、東也君よ、……君はこんな情けない大人になっちゃ、ダメだぞ。




