285:ピースブルーとのご対面
「……あ~、頭、痛ぇ。」
目が覚めると、社宅の自分の部屋。
一応、持ち物を調べてみても無くしたモノは無さそうだ。
鞄と財布に会社の携帯と、何も無くしてはいない。
二件目までは覚えているのだが、そこから先は記憶が部分的に曖昧だ。
とは言えヘラクレス氏とフロッピー氏とは、飲んでいる間にかなりアレコレ話すことが出来て、怪人側のロジックは理解出来た気がしていた。
拾われた状況を見ると、俺はどうやらかなり運が良かったらしい。
まぁ確かに、もし最初に拾われたのが外資のジャアークとかだと、かなり面倒な事になっただろうな、とは思えた。
下手したら解剖されてもおかしくない。
そして怪人側の思惑が理解できると、今度はヒーロー側の話が気になるところで、今日のブルーとの話し合いだ。
ある意味で、タイミングとしては丁度良かったかも知れない。
「マキーナ……、奴との打ち合わせまで後どれくらいだっけか?」
<残り2時間です。シャワーを浴びることを推奨します。>
かすれた声でマキーナに問えば、どうやらかなり酒臭いらしい。
グッタリしながらシャワーを浴びると、大分マシになった。
やっぱりね、翌朝のこれまでセットだよな、と、つまらないことを思う。
そう言う意味では平日の合間に飲むよりは、週末に飲む方が好きだ。
何とかの力で翌朝スッキリ、ってのも良いが、やっぱり酔うなら翌朝のダメージも含めてワンセットだろう。
「……とと、そんな事言ってる場合じゃなかったな。」
ノンビリし過ぎて、待ち合わせまで後20分位に迫っていた。
急いでスーツに着替えると、待ち合わせ場所の喫茶店に向かう。
持ち合わせは大分少ない。
給料が入ったら、取りあえず普段着を買おう。
そう心に誓いつつ、俺は待ち合わせ場所に急ぐのだった。
「あの、浦和さんと待ち合わせているのですが。」
喫茶店に入り、ウエイトレスのお嬢さんに告げると、奥の席に誘導される。
4人がけのその席には、顔立ちがよく似た若い男が2人、落ち着き無くコーヒーを飲んでいたが、俺が近付くにつれてますます緊張した表情をしだしていた。
「こちらでございます。
ご注文がお決まりの頃にまた……。」
「あ、ホットコーヒーをお願いします。」
“かしこまりました”と言ってウエイトレスのお姉さんはその場を後にする。
「……はじめまして、だな。
俺が、まぁ、アレだ、“ドクロ仮面”なんて不名誉な呼ばれ方をしている、そちらから見れば怪人側の人間だな。
一応、名前は田園 勢大と言う。
“ドクロ仮面”はこの世界でしか呼ばれてない名前だから、そっちで呼ばれるのは抵抗感があるな。」
俺は向かいの席に座りながら、自己紹介する。
ヒーローと怪人の密談だ、別に今更畏まる必要も無いだろう。
「お、あ、あぁ、失礼。
あまりにも普通の人だったんで、ちょっと驚いてましたよ。
えぇと、こう言う場では、確かにはじめましてですね。
ピースフルカーブセブンのピースブルーを担当しています、浦和 南三と申します。
ちょっと時代がかった名前なんで、あんまり好きな名前ではないんですけどね。」
俺の正面に座る若い男、南三君が砕けた様にそう言うと、彼の左隣、俺から見れば右の席に座る大人しそうな子が慌てて姿勢を正す。
「あ、えっと、浦和 東也、15歳です!
ピースフルカーブセブンでは、ピースグリーンを担当してます!」
「末っ子で、甘えん坊と言うのが抜けてるぞ。」
「もう!止めてよ兄ちゃん!」
南三君がからかい、東也君が膨れる。
その微笑ましい光景に、俺はいつかの世界で共に歩いた、1人の少年の姿を思い出す。
この世界の様に、現代日本に酷似していた世界ではあったが、どうしようも無いほどに終わっている世界で、それでも懸命に生きていた彼のことを。
「あの、田園さん?」
呼びかけられ、思い出から引き戻される。
イカンイカン、昔を懐かしむのはまた今度だ。
「あ、あぁ、スマン。
少しだけ、昔いた世界を思い出してね。
それよりも、呼び出しに応じてくれて有りがたく思うよ。
出会っていきなり殴りかかられるんじゃないかと心配してたんでね。」
「武蔵兄ちゃんがいたらそうなったかも知れないから、置いてきたんだよね。」
南三君は苦笑いすると、“東也、この人がまだ味方か解らないんだから、そう言うことは軽々しく口にするもんじゃ無いぞ。”と注意する。
東也君がその注意にシュンとしてしまうのも、同じように微笑ましい。
コーヒーが運ばれ、少しだけ話が中断される。
ウエイトレスが追加の伝票を置き、1口コーヒーを飲んだところで、聞きたかったことを先に話す。
「まぁ、味方だ何だと言うのは後にするとしても、君等から聞きたいことは幾つかあるし、そもピンクの彼女の件もある。
聞きたいことが山ほど有るんだが、まずは手っ取り早いことから行こう。
君等は、“転生者”なのか?」
俺の言葉に、南三君は少しだけ表情を硬くする。
「失礼ですが、アナタは“転生者”という言葉に、どのような印象を持っていますか?
それに合わせて、僕等も言葉を換えなければならないので。」
何だろう、あまり理解されない事って内容なんだろうか?
或いは過去に何かされたか、だ。
「どのような、か、……難しいな。
俺は“異邦人”だ。
君達が前世の世界からこの世界に渡ってきたのとは違い、俺は君等転生者の世界に侵入している異物だ。
それは時として転生者に優位に働くかも知れないし、逆に不利に働くこともある。」
驚いたように目を見開く南三君に、何を言っているのか理解できずに首をかしげる東也君が、実に対照的で面白い。
この少ない言葉の中でも、南三君は何かを理解したようだ。
「……なるほど、なるほど。
これは、武蔵の奴を連れてこなくてやっぱり良かった。
アイツを連れてきてたら、今の一言で勝手に“悪”認定して話がややこしくなるところだった。
お手柄だぞ、東也。」
南三君に言われて、状況は理解できてないが褒められたことによって照れる東也君を微笑ましく2人で見ていたが、思い出したように再度南三君が口を開く。
「もしかしてなんですが、田園さんは僕達を元の世界に帰すことは可能だったりしますか?」
中々に鋭い読みだ。
転生者の中にも、たまに彼のような、すぐに物事を理解できる人間がいる。
そこに年齢は関係ない。
やはり自分とは頭の出来が違う人間もいるんだな、と、感心しながら、俺は肯定する。
「出来る。
ただし、それは“転生者から権限を移譲して貰った場合に限り”だ。」
俺の言葉に、また南三君は唸り、頭を抱える。
ヒーロー側にも、問題があるようだ。
お休みありがとうございました。
再開致します。




