280:圧倒的!イルカ怪人!
「どうだ!ピースフルカーブセブンの力を見たか!!」
一般雑魚怪人を蹴散らし、ポーズを決めるヒーロー3人。
<セーダイ、今のうちにハケて下さい。>
マキーナにいわれ、そっとヒーロー達から遠ざかるように離れる。
一般雑魚怪人の場合、やられて爆発装甲が反応し、それでもなお生きている場合は戦線からそれとなく離脱する。
殺陣のシーンが足りないと爆発装甲を付け直して再出撃になるのだが、今回はそうせずに済んだようだ。
まぁ、ヒーロー側も3人しかいないから、そんなに長く雑魚戦をやっても仕方が無いからだろう。
しかし、確かにマキーナの言うとおりだったかもしれん。
レッドは一番人気だからか、目立ちたい雑魚怪人がやたらと群がるし、ブルーはソードだから迂闊に踏み込むと体を真っ二つにされかねない。
そう言う意味でも、アワアワしているグリーンの見せ場を作りつつ、真っ二つにならずに退場できたのは丁度良かったかも知れない。
「ククク、ここまでは想定通りよ。
さぁ行け、オールカよ!今こそ貴様の真の力を見せてやれ!」
俺達一般雑魚怪人達が稼いだ時間を使って、オールカはエネルギーを溜めていたようだ。
全身薄らと光り輝くオールカは、ワセリンでテカテカになったボディビルダーを、少しだけ想像させる。
【キュイキュイ、貴様等の攻撃はこのオールカ様には通用しないキュイ。】
あ、喋れたんだ。
いや、今はそれどころじゃないんだが。
俺の観察をよそに、オールカは一歩一歩、ポージングを決めながらヒーロー達に近付く。
……どうでもいいんだけど、何か微妙にキモいんだよなぁ、コイツ。
「クッ!どんなに攻撃が通じなくとも!俺達は負けない!」
レッドは全力で振りかぶり、オールカに殴りかかる。
あからさまなテレフォンパンチ。
俺なら躱してしまうだろうが、オールカはポージングのせいで回避出来ない。
【あ、痛っ!】
「えっ?」
一瞬、レッドだけでなく、全員の動きが止まる。
レッドのパンチは先程と同じ、オールカの赤黒くなった部位に命中した。
それでも無傷アピールをするのかと思ったが、オールカは痛そうによろめきながら殴られたところを押さえている。
【キュ、キュイキュイ、よくもやってくれ……あ、痛い!痛い!】
オールカが取り繕うように虚勢を張ろうとするが、レッドは無言で続けざまにパンチを繰り返す。
【痛っ!痛っ!止めっ……お、おのれぇぇ!!】
大爆発するオールカ。
静まりかえる場。
……え?
……え?
……どうするのコレ。
サイ・ジャック氏をチラと見ると、泣きそうな顔でこちらに助けを求めている。
仕方が無い。
追加業務だ。
「マキーナ、頼む。」
<……通常モード、起動します。>
マキーナの音声もどこか呆れ声に聞こえるが、止む無しに変身してくれたようだ。
取りあえずまだ変身したのには気付かれていないため、景気づけにレッドに跳び蹴りをかます。
「グァッ!
……クッ!現れたなドクロ野郎!!」
レッドを仲間の方へ蹴り飛ばすと、レッドは回転しながら起き上がり、ファイティングポーズを取る。
何となく、周囲にホッとした空気が流れる。
「ク、ククク、彼こそが我等の切り札!
その名も……そう!その名もドクロ仮面!
ククク、これで終わりだピースフルカーブセブン!
やれ!ドクロ仮面!」
サイ・ジャック氏も、先程の弱気とは打って変わり、自信に満ちた空気を放っている。
しかし困った、ここからどうすれば良いかが全く解らない。
この間の戦いで、このヒーロー達はあんまり強くないことも知っている。
かと言って、前回といい今回といい、悪の組織が毎回勝っても話にならない。
「今度こそ!俺はお前に勝つ!
ウォォォォ!!」
レッドが勢いに任せて俺に突撃してくる。
全てが大振りの、腕だけを振り回すようなパンチ。
そんなモノ、ヒーローの力で強化されている以外に危険な点は無い。
右の拳を払い、左の拳を避ける。
見せ場を作ってやりたいが、あまりにも力量に差がありすぎる。
『お前はもっと武術を学んでこい。』
また振りかぶる右拳を大きく払い退け、体勢を崩しながら半回転したその背中に、順蹴り、平たく言えば893キックを入れて転がす。
転がるレッドを乗り越え、グリーンがハンマーを振りまくる。
「この野郎!兄ちゃんの仇だっ!」
いや殺しとらんがな。
とは言え、グリーンも力任せにハンマーを振りまくるだけだ。
ハンマーをステップで避け、振り抜いたその隙に間合いを詰める。
『ホイ、残念賞だ。』
頭にチョップを落とすと、グリーンは武器を落として蹲ってしまう。
「うぅ……オマエが……グスッ……。」
イカン、泣かせてしまった。
少しだけ罪悪感を感じつつも、ブルーに向き直る。
グリーンと同じように隙を見て襲いかかってくるかと思ったが、剣を正眼に構えて静かに間合いを詰めてくる。
(あぁ、コイツはやるヤツだな。)
構えで解る。
こちらがワザとさらした隙には乗ってこない。
先程までの動きはまるで遊びだったと言わんばかりの、ある意味で殺気が心地良い。
『シッ!』
このままにらみ合っていたい所ではあるが、それだと飽きられてしまう。
意を決し、短く息を吐きながら踏み込む。
剣の切っ先が素早く跳ね上がり、俺の首を狙って振り下ろされる。
(っとと!)
踏み込みをやめ、即座に距離をとる。
しなやかに伸びた剣先は、首回りの防具に僅かにかすり、火花を散らす。
(剣道の有段者、初段よりはもう少し上かな。)
剣道三倍段、という言葉がある。
相手が剣道の有段者だった場合、無手の格闘なら三倍の段位を取ってないと相手にならないという意味の、1つの指標だ。
(マズいな、普通に攻めたら殺られるだけだな。)
<セーダイ、向こうの剣は西洋剣です。>
フェイントをかけながら間合いを測っていると、マキーナからのアドバイス。
西洋剣は日本刀と違い、刃を引いて斬ると言うよりは押し潰して斬る方が主だ。
だからそれを見越して防具で受けながら間合いに入れと言うことだろうが、中々にハードな事を言ってくれる。
西洋剣でも刃先は鋭利になっている。
一歩間違えれば真っ二つだ。
とは言え、やるしかない。
(今っ!!)
右脚で左右ローを狙い、剣先を下げる。
そこからの左後ろ回し蹴りで意識を上に振り、流れで姿勢を低くしながら踏み込み、間合いを詰める。
上げた剣を下ろす前に踏み込み、柄押さえを狙うも、素早く後ろに半歩下がられ、剣を振り下ろされる。
幸いにも後ろ移動で体重が乗っていなかったこと、振り降ろし始めに右の手甲を差し入れたことにより、手甲と剣の鍔迫り合い状態に持ち込めた。
『おい、話がある。
この戦いが終わったら、ピンクの元に俺を連れて行け。』
ブルーだけに聞こえるようにそう告げると、ブルーが仮面越しでも驚くのが解った。




