277:安全第一、装備課
巨大な砲弾が、ダークキング☆ライオン氏が持つバズーカの様なランチャーから吐き出される。
銃弾のように恐ろしい速さで来ると思ったソレは、何というか、ヘロヘロとしたスピードで俺に向かって飛んでくる。
砲弾に描かれているサメの様な顔も、しっかり見ることが出来る。
(いやこれ、普通に歩いて避けられるんだよなぁ……。)
数歩歩いて避けると、微妙にこちらに角度を変えて追ってくる。
「ハッハッハ、どうだ、この“追尾君1号”は!
速度はなくとも、対象に命中するまで追尾を止めないその機動は、確実にヒーロー達を追い詰める弾丸だ!
勿論、触れれば即大爆発する!
防御ユニットを断ったのだ、恨まないでくれよ?」
なるほどなぁと思いながらも、すぐに対策を思い付く。
なら、有名な戦法と行こうか。
俺はスタスタと歩くと、ダークキング☆ライオン氏の元に向かう。
「ぬ?降参か?なら……。」
素早くライオン氏の後ろに回ると、羽交い締めにする。
『これって、こうされたらどうするんです?』
「ヌォォォ!!そんな手があったとは!?
い、イカン、来るなぁぁぁぁ!」
追尾君1号は、狙い通りに俺に向かい、そして間にいるライオン氏に触れて大爆発する。
ただ、流石にライオン氏には効果が無いようだ。
作業着はボロボロになったが、ピンピンしている。
「なるほど!こうなってしまうのか。
だが、これ以上早くすればヒーロー達も避けづらいだろうし、うーむ、困ったなぁ。」
どーいうこっちゃねん?
なんでわざわざヒーロー達が避けられるように作ってるんだ?
『いや、避けられないようにするのはマズいんですか?』
「……?
あぁ、そうか、田園殿は本来人間だものな、そう言う考えにもなるか。
だがまぁ、我等は怪人であるが故。
“人間に技術を真似て貰い、より高度な技術に発展して貰う”という事をせねばならぬ故な。」
何を言っているか解らないが、この怪人組織“アーク”の目的の1つなのだろうか?
世界を征服しようという存在が、何故に現地人の文明を発展させようとしてるのか、これが解らない。
「さて、では次の装備試験と行こうではないか!」
まだ質問し足りなかったが、ライオン氏の威勢の良い声で装備課の面々はまた次の武器をセットし始める。
まぁ、トコトン付き合ってやるか、と覚悟を決めたときに、俺宛の電話がかかっていると、先程俺を案内してくれた若い兄ちゃんが電話を持ってきてくれた。
『もしもし、田園ですけど?』
-あ、もしもし田園さん?
鯛瓦君から聞きましたよ?
いつまで装備課で遊んでいるんですか?
まだ田園さんの今日のノルマ、終わってないんですからね。
そんな所早々に引き上げて、すぐにこっち戻ってくれないと困りますよ?-
電話口から、カニ田さんの苛ついた声が聞こえる。
なるほど、行ったことが無い奴からすると、他所への出向は遊びに行っている様なモノと捉えられているらしい。
『あぁ、スミマセンね、次の試験終わらせたら戻りますんで。』
壁の時計を見ると夕方の5時。
今日も何時に終わるかとゲンナリしながら、電話を切る。
『あぁ、ダークキング☆ライオンさん、怪人課から早く戻れってラブコールが出ましたんで、次の試験で終わりにしてくれるとありがたいッスね。』
「む、そうであるか。
では本日はここまでにしよう。
しかし、もうじき定時ではないか?
この時間から戻っても、終業になってしまうのではないか?」
変身を解いた俺は、苦笑いでそれに返す。
雑魚怪人のデータ入力は終わらない。
週に一度、ヒーロー達と戦う度に、失った雑魚怪人の生産があるからだ。
怪人生産部からも、“もっと早くにデータを納品してくれ”とせっつかれている。
入力が人力である以上、終わらない戦いなのだ。
「むぅ、サイ・ジャックの奴は何をしているのだ?
以前に来ていた鯛瓦も、1回試験すると後は“頼むから寝かしてくれ”と言っていたので、時間まで寝かせてやってたのだが……。」
あぁ、なるほど。
“鯛瓦君から聞きましたよ”とは、ソレのことか、と理解する。
なんだ、真面目に試験に付き合ってた俺は失敗だったか。
「いやぁ、しかし田園殿のお陰で今回は実りあるモノになった!
次回も出来れば田園殿に来て貰いたい所だ!
よし、諸君、片付けに移れ!
もっと研究したいのはわかるが、体こそが資本である!
良い研究は、良い私生活から生まれるぞ!」
装備課の面々は装備の改良点を議論し合っていたが、ライオン氏のかけ声で慌てて片付け始める。
凄い!
ワークライフバランスを意識してるライオンとか、俺初めて見た!!
名残惜しい気持ちや“この部署に転属願い出したいなぁ”とか思いながら、荷物を纏めて事務所を後にする。
事務所のおばちゃんからは、車に乗る前にお菓子を貰う。
「鯛君と違って、アンタ根性あるねぇ。
これ、鯛君来たら渡そうと思ってたお茶菓子だっぺ。
帰りの車ん中ででもけえなはれや。」
あ、車の中ででも食えって事か。
俺は有り難く受け取ると、社用車を走らせる。
鞄の中の社用携帯を見ると、15時位から着信が転々とついている。
なるほど、社用携帯にかけまくっても出なかったから、もしかしたら何処か他所で遊んでいるか、昼寝でもしていると思われたんだろうな、とボンヤリ思う。
しかし、鯛瓦さんもここには休憩がてらに寄っていたとなると、ここに来るのは課の中ではあまり良い顔をされてないと言うことだろう。
不思議な話だが、部署が多岐に渡るとこう言う事が発生する。
元の世界でも、似たようなことはあったなぁ。
「田園さん、装備課での作業が楽しかったのは解りますが、今のアナタの本業は入力作業なんですから、早々に切り上げてすぐに戻って貰わないと困りますよ。」
帰社してすぐに、カニ田さんのお小言が始まる。
ゲンナリした思いで聞きながらも、表情には極力出さないように努める。
それなら断れよ、とも思うが、サイ・ジャック氏とダークキング☆ライオン氏の間で決めたことらしく、トップダウンの指示は断り切れないようだ。
そんなところも、まるで人間社会と同じ様だな、と思いながら入力作業に没頭する。
(ん?この怪人、随分パラメータが高いな?)
数体入力を終えたところで、妙に基本パラメータが高い怪人が生まれていた。
「お、田園さんそれ特殊個体引いてますね。
後の処理は僕がやりますんで、田園さんは他の怪人のデータ入力をお願いします。」
カニ田さんに相談したところ、珍しく俺の業務を引き継いでくれた。
まぁ、さっきまで次の出張先のホテル予約をずっと見ている位余裕があるんだから、もっと早くに手伝ってくれても良いのにとは、少しだけ思っていたが。




