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異世界殺し  作者: Tetsuさん
勇気と絆の光
277/834

276:意外な嗜好

「すいませ~ん、怪人課から来ました田園です~。」


元は埋め立て地だったのだろうか?

何も無い原っぱに、ポツンとその建物はあった。

バラック小屋の様なソレには、入口に“秘密結社ワルアーク(株)装備課”という筆書きの看板が付けられている。

中々に達筆だが、こんなに堂々としている秘密結社も珍しい。

建物前に引かれた砂利の駐車場、紐で出来た駐車線に車を止めると、入口の引き戸を開けつつ挨拶する。


「アレ?いつもの鯛君じゃないんだねぇ?」


バラック小屋には、いかにもな事務員制服を着たおばちゃんがいた。

おばちゃんは書類記入の手を止めて、珍しいモノを見るようにこちらを見る。


「えぇ、鯛瓦さんの代わりに来るように言われまして。

どちらに向かえば良いですかね?」


開いている事務席の1つに腰掛けると、お茶を出してくれた。


「あ、ダークキング☆ライオン様?

今怪人課の人がね、えぇ。

あ、じゃあそっちに向かってもらいます~。」


おばちゃんが何処かに内線すると、状況を確認してくれた。

どうやら、このバラック小屋の奥にある地下への階段から、下に向かえば良いようだ。


「あ、荷物とかどうすれば……?」


「そんなんアタシが見とくから、そこにうっちゃらかして下行っとくれ。

あぁ、お茶飲んでからでえぇから。」


何とも、ノンビリとしたやり取りだ。

鯛瓦さんが怯える要素が何一つ無い。

何なら、定期的に俺が来ても良いくらいだ。


お茶を飲み終えた俺は礼を言うと、そのまま奥の階段を下る。

少し長く感じる階段を降りた先には、タッチパネル式の自動ドアが行く手をふさぐ。

怪人証で通過できるかなとタッチしてみれば、すんなりと扉が開く。

扉の先は、コンクリート製の壁と床の通路に出る。

一瞬だけ、少し前に経験した女性上位の世界、あそこにあった地下施設を思い出す。


上の大雑把な作りとは違って、地下施設は随分と近代的、いや未来的な作りになっている。

天井の照明が明々と照らす中を、靴音を響かせて歩く。

いや、夜中にここの警備とか、怖くてしたくないな、これ。


通路の突き当たりにまた扉が有り、怪人証でタッチして開くと、少し広いフロアに出る。

ただ、イメージしたような整然と机が並んでいて多くの研究員がPCに向かっている訳では無く、様々な工作機械が雑然と並び、作業着姿の男達が真剣な表情で打ち合わせていたり、工作機械で何かの作業をしていて、熱気に満ち溢れていて、何かちょっと羨ましい。


「どなたかお探しですか?」


白いツナギに白い作業帽を被った青年が、入口で周りを観察していた俺に声をかけてくる。


「あ、ええ、怪人課から来ました田園です。」


髪は茶色いが、体格が良い真面目そうなその青年を、俺は何処かで見た気がするな、と思いながらも要件を話す。


すると青年はすぐに後ろを振り返り、同じ様なツナギを着たライオン顔の人に叫ぶ。


「ライオン様!怪人課から来ましたよぉ!」


「おぉ、来たかぁ鯛瓦!

今日もお前をしごいて……って、何だ田園殿ではないか。」


ツナギ姿のライオン顔に若干の違和感を覚えながら、それでも俺を覚えていたのかとちょっと驚く。


「あ、すいません。

新人の研修の一環と言うことで、鯛瓦さんの代わりに来ました。」


その言葉を聞いて、少しだけライオン氏は顔を曇らせる。

と言うか、ライオン顔だけど表情は人間のそれだ。


「んん?新人研修の一環?

怪人課の奴は何を考えているのだ?

田園殿をこの様な扱いとは……。

まぁ、折角来て頂いたのだ、ウチの仕事も体験していってくれ。」


ツナギ姿のライオン氏に連れられ、更衣室に案内される。

何だ、荷物とかここにいれれば良かったな。


「田園殿は、あの姿に変身すると能力が上がるタイプか?」


そう言えば、四天王と会ったときには変身したままだったな。


「いえ、能力が変わることは無いッスね。

まぁ、服とか持ち物とかが壊れなくて便利なんで、アレに変身しているというか。

あ、筋力以外の小技系は任せてますが。」


俺はマキーナを取り出しながら、自身の能力を説明する。

説明しながら、そうだ、マキーナはそもそも唯の鎧だったんだよな、と思い出す。

耐属性防御や物質取り込みや回復等々、色々やってくれているが、本来は“衣服を破損させないための鎧”だ。


<私はマキーナ、勢大(マスター)を護り、支援する智恵ある鎧です。>


唯の鎧に随分無理をさせているな、と思った瞬間、珍しくマキーナから語りかけてきた。

“唯の鎧”と言う言葉に反発を覚えたらしい。

変わった鎧だ、と思った瞬間、ライオン氏に両腕を掴まれた。


「素晴らしい!!

本来の能力を邪魔せず、それでいて自立型のAIが装備者の不足を補う!

そう!装備とはかくあるべきだ!!」


マキーナの声は音声発音をしない限り、基本的に俺にしか聞こえないが、ライオン氏は俺の端的な言葉で理解が出来たらしい。

いたく感動すると、俺にマキーナを見せて欲しいと言われたのでマキーナの金属板を渡すと、穴の開くほど見つめながら、アレコレ調べ始める。


<セ、セーダイ、止めさせて下さい!>


またも珍しく、マキーナが焦った声を出す。

確かに、ウカウカしていたら分解されてしまいそうだ。

俺は“おしまいです”と言いながら回収すると、ライオン氏は悲しげな顔をしていたが諦めてくれた。

いや、俺に本来の作業用スーツを渡さず、マキーナに変身して試験を受けて欲しいと言い出した所を見ると、そんなに諦めてはいないようだ。


気付けば、更衣室の入口に作業員達が全員顔を出して覗いている。

見ているのは勿論、俺では無くマキーナだ。


(コイツら、技術バカというより、技術ジャンキーだな。)


とは言え、こうなった以上は仕方が無い。

改めてマキーナを見せびらかす危険性を感じながら、俺はその場で変身する。


「マキーナ、通常モードだ。」


<通常モード、起動します。>


全身を赤い光の線が走り、線と線が繫がるとその間を淡い光が包む。

光が収まると、全身は黒のラバーの様な材質で覆われ、手甲、足甲、胸当てに肩当ての部分に銀色の防具が出現し、最後に髑髏の意匠の仮面が頭を包む。


変身が終わると何故か起きる拍手。

こんなにやりづらい状況は初めてかも知れん。


「ぬぉぉぉ! 素晴らしい!!

音声認識で自動に指定したモードへと変身できるのか!!

そ、それにも、もしや、“通常モード”と言っていたという事は、他にも変身パターンを認識出来ているというのか!?」


あー、ヤバいわ。

試験どころじゃねぇ。

ってか、ライオン系って言えば“装備など不要!この肉体こそが百獣の王の証よ!”みたいなノリじゃ無いの?

何でこんな装備マニアなんだよ!

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