272:重役面談
「ちょっとちょっと!困るんスよあぁいうの!
今週僕の担当なんスから!
あなたナニカの人ですか?」
ナニカ?
何だコイツ、突然何を言っているんだ?
黒づくめの軍服男に拉致されて転送した先は、何処かの会社?施設?のような場所だ。
窓がなく、全体的に何となく薄暗い場所で、機械的な何かがゴチャゴチャとあり、地面には転送陣が描かれている。
さながら、“魔法を科学で再現”したような場所だ。
その場所から会議室のような場所に連れてこられ、そしてお叱りを受けている最中と言うわけだ。
『なぁ兄さん、ちょっと話が見えなかったから今まで黙って着いてきたんだが、俺は別にアンタの部下って訳でも無いし、ここが何処かもわからねぇんだわ。
もうちょっとよ、始めから説明してくんねぇか?』
「君!その態度はよくないぞ!
君は変身課なのか?僕の怪人課ではそう言う口の利き方は認めていない!
それとも、装備課の試験運用か?」
あぁ、ナニカって、何課って事か。
それでも、別にここが何処だか解らないことに変わりは無い。
面倒くさいし、ぶっ飛ばすか、と思った矢先、会議室のドアが開かれる。
「待ちたまえサイ・ジャックよ。
その者は我等の管理下にいる者では無い。」
金の模様が入った黒い仮面の大男が、マントを翻し、右手をこちらに向ける。
些か芝居がかった台詞回しではあるが、それを聞いた黒づくめの軍服男は慌てて膝をつく。
「こ、これは、ワルアーク様!
こ、今回の件、この男が我等のタコタコ怪人を……。」
「よい、解っておる。
強き者よ、我が部下が失礼した。
この先の広間に、我が部下を待たせている。
よければそちらで、其方の話を聞かせて頂けないだろうか。」
随分と覇気溢れるその気迫に、何となく信じてみても良いかと思い、了承する。
まぁ、最悪ヤバい方向に行きそうだったら、ここから脱出するくらいは出来なくは無さそうだ、という打算もあったが。
大男に連れられ、広間に向かう。
広間には長い楕円状のテーブルと、複数の椅子が設置されており、そこに座っていた人々は、この大男が入ってきたときに立ち上がり、皆礼をしていた。
楕円状のテーブルの、一番手前の席を大男が引き、俺を招く。
“うわスッゴい紳士”と思いながらも座らせて貰うと、大男はその向かいの席に着席する。
「諸君、楽にせよ。」
大男の号令で、全員が着席する。
「急な招集にも関わらず、集まってくれて感謝する。
本日は各チームの現状を教えて欲しいと言うのもある。
が、その前に、こちらの方の話を各員に聞いて貰いたいと思っている。」
そこで、大男は改めて俺に顔を向ける。
それに釣られるように、全員がこちらを向く。
うっ、一斉に見られると、何か凄ぇ会議の時のつるし上げを食らってるときの気分になるな。
「強き者よ、改めて挨拶させて頂こう。
我が名は“ワルアーク”、この秘密結社ワルアークの総帥をさせて貰っている。
各員、順に挨拶せよ。」
「では私から。
私はワルアーク最高幹部のペンドラゴンだ。」
黒髪でオールバック、精悍な顔つきの男が立ち上がり、表情を変えずにそう挨拶するとまた着席する。
「俺は四天王の一、ダークキング☆ライオンだ。」
立ち上がらず、腕組みをしたままでライオン顔の男がつまらない顔をしながら呟く。
体格だけならワルアークとやらにも負けていない。
いや、気のせいかも知れないが、“キング”と“ライオン”の間に☆が見えた気がするが……。
「某は四天王の二、ムシャ・ブゲーでござる。
よろしくな、でござる。」
皆当たり前のように進行している。
よし、落ち着こう。
口に高楊枝をくわえた着流しの武士風の男が、気さくな笑顔でこちらにそう語りかける。
「アタシは四天王の三、アイリス・ミダラーよ。
ヨロシクねん、お兄さん。」
扇情的な衣装、と言うか、かなり面積の小さいビキニで褐色肌、背中からはコウモリの羽が生えた美女が、ウインクと共にこちらに挨拶してくる。
これ、ニチアサなら絶対に追加でタイツが必要なヤツだな。
「あ、で、さっきはすいません。
僕が四天王の四、サイ・ジャックです。」
黒づくめの軍服男が、丁寧に立ち上がりお辞儀している。
何だろう、ずっと感じていたが、コイツ絶対“ククク、ヤツは四天王の中でも最弱”って言われそうなヤツだよな……。
その他に二人ほどいたのだが、この二人はワルアークの両隣におり微動だにしない。
四天王と最高幹部とやらも、“まるでいないかのように”対応しているところを見ると、この二人は何か特別なのだろう。
一通り自己紹介が終わったようなので、今度は俺の番だ。
とりあえず、何処まで言ったモノかと悩んだが、いつも通り俺は別世界から来た異邦人だと言うこと、“転生者”を探している事を伝えた。
それらを伝えた後で、ワルアークが腕組みをする。
「フム、田園殿は“寄る辺なき者”であったか。
この世界、身分証の無いものは苦労するであろう。
それならば、我が秘密結社で働く気は無いか?
其方の実力、かなり高いモノと私は見ているが。」
驚きの提案だったが、正直な所を言うと結構興味を持っていた。
異世界に降り立つと、毎回苦労することがある。
その世界での身分と、金だ。
ある程度の剣と魔法の世界であれば、大抵“冒険者ギルド”があるので、すぐに身分は確保できる。
そこでの仕事は日雇いで、大抵前金か終了後の一括払いだ。
だから割と簡単に馴染むことが出来る。
しかし、ある程度の文明が進んだ世界だと、例えば大崩壊等が起きていないと、身分の証明証を確保するのは物凄く大変だ。
手っ取り早いのは死んだ人間のデータを使ってのハッキングだが、それとてそんなに都合良く見つかることは少ない。
キルッフのヤツがいる世界なら割と助けてくれることが多いが、どう見ても現代日本に近いこの世界、アイツの助けは当てに出来そうに無い。
ならば、ここに潜り込んで、ある程度の地盤固めたら脱けるのも有りではないか。
そう思えたのだ。
それに、酷く個人的ではあるが、“秘密結社”だ。
まともに求人広告に載るわけがない、見たことも無い職業だ。
居酒屋で隣の席に座ってるヤツと仲良くなったとき、“所でおたくサンのご職業は?”と聞かれたときに“ええ、秘密結社でして”とか答えられるかと思うと、かなり面白い。
「それもまぁ、面白いかも知れませんね。
……ちなみに、こちらの秘密結社、何をなさる集まりなんで?」
俺の問いに、ワルアーク総帥は腕組みをやめてこちらを真っ直ぐに見据える。
「ウム、世界征服を少々。」
この世界で、俺の職業が決まった。




