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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の剣
27/831

26:遭遇

沈黙の中で、草原に吹く風の音だけが響く。

月光は変わらず、優しく周囲を照らしている。

最初の一言は言った。

更に何かを被せて言いたくなるが、今までの人生経験から、ここは相手の発言を待つべきだと感じ、グッと(こら)えた。


「あんたも……。」


警戒はされ続けている。

何かを考えているのだろうが、睨み付けられたその表情からは、その考えまでは読めない。


「あんたも、俺と同じ転生者なのか?」


少しは聞く耳を持ってくれたのだろうか。

“さぁ、ここから交渉開始だ”と心で呟き、敵意は無いことを示すつもりで、俺はゆっくりとマキーナをジャケットの胸ポケットにしまう。


「少し違う。

恐らくこの世界に転生してきたのは君一人で、俺はどちらかと言えば、流れ着いた異邦人、だと思う。

そういえば話は変わるんだが、俺の名前は漢字で田んぼの田に公園の園、勢力の勢に大きいと書く。

君の漢字はどう書くんだ?」


“これから深刻な話をする前に、少し打ち解ける必要があるかも知れん”と感じ、親近感を感じさせる話題に変えるため、漢字で名前を聞く。

彼は東西南北の北に京都府の府、それに大中小の中で“北府(キタミヤ) (アタル)”と書くらしい。


この世界に漢字は無い。

もう少しだけ、俺の存在を信じてくれたらしい。

彼は剣を下ろす。

だが周りの少女3人はこのやり取りがわからず、頭の上に?マークを浮かべたままだ。


「それで、勢大さん。

アンタは、この迷宮を守る魔拳将の一人になったのか?」


「魔拳将?なんだいそれ?」


彼からの突然の投げかけに、今度は俺の頭に?マークが浮かぶ。

俺の質問のどこが悪かったのかは不明だが、彼の警戒度が上がるのがわかる。


「“マーブの木物語”ってRPG知ってるか?

ここはアレの世界なんだろ。

俺はあのゲーム超やりこんだからね。

ストーリーも完璧に覚えてるんだよ。

んで、学院の地下迷宮で力を付ける前の魔導将、は既に倒してる。

アンタ実はここの迷宮に眠る、“選定の剣(カリバーン)”を先に入手されたくないって事なんじゃ無いのか?」


……なんだろう、段々話が通じなくなってきた。

とりあえず知らない事を伝えつつ更に話を聞いてみたところ、何となくそのゲームの流れがわかってきた。


彼の言う「マーブの木物語」とは、彼の前世で流行っていた長大作RPGらしい。

言っては何だが俺自身、今でも結構なゲーマーのつもりだったが、あまりRPG関連は詳しくなかったので“そんなゲームあったかなぁ?”という気持ちだった。

まぁ、最近は仕事が忙しかったしあまり最新ゲーム関連も調べていなかったから、仕方がないかもしれない。


ともあれ、そのストーリーは王道の剣と魔法の世界であり、主人公は出自不明ながらも、ある晩夢のお告げで女神から“いつか勇者となる存在”として神託を受ける。

その神託に従い冒険者になるべく王都を目指す道中、山賊に襲われているエルフの王女様の一行と出くわす。

その戦闘は言ってみればチュートリアルのようなもので、そこで戦闘の基本と“スキル”の使い方、魔法攻撃の基本がわかり、レベル上昇のパラメータ振り分け方の注意点がわかったりするらしい。

そのイベント後、王都で勇者の洗礼を受ける。

洗礼後、山賊の残党に襲われ壊滅寸前の村を救助し、生き残りの娘で物語のヒロイン、村娘のケイを助け出す。

また、助ける際に一人村を守って瀕死になっていた旅の冒険者ブルータスから“奇跡のコイン”という物を譲り受ける。

その後、魔族の動きが活発になり、選定の剣(カリバーン)の封印が魔族によって弱められ迷宮が出現する。

迷宮を攻略し、そこにいた四天王の一人を倒すと、次は魔道学院に隠されていた迷宮で“王の鎧”を狙った四天王の一人が迷宮暴走を企てる。

それを主人公が防ぐ頃、ドワーフ族からの救援要請が来る。

魔族の侵攻と四天王の一人を倒し、ドワーフ族に眠る秘宝“王の盾”を回収すると、エルフの王女から認められ、彼等の種族に伝わる秘術によって選定の剣(カリバーン)と奇跡のコインを融合し、究極聖剣“エクスカリバー(元選定の剣)”にして貰えるとのこと。

それらの装備を持って魔族の大陸に渡り、最後の四天王を倒し人類の前線基地を設置、一丸となって魔王を倒すという壮大なストーリーらしい。


いやはや、早口で助かったが、如何せん長かった。

周りの女子達は何を言っているのかわからない様子だったが、まぁ、元の世界でも突然こんな事を語り出す奴がいたら、微妙な空気にはなるだろう。

多分この後の出来事とかで、“予言していたのですね!”的な感じに、彼に対する信頼度が増すのかもしれんが。


「こっちから出せる情報はだした。

次はアンタの番だ。

何でこの世界に来たんだ?

アンタも女神に認められたんじゃないのか?」


二度目だとしても、この質問には悩む。

適当に上手いこと言って彼に協力を仰ぐか、更に警戒されるかもしれんが今までの事を真摯に話すか。


少し悩んだが、結局嘘は付かず素直に話すことにした。


自分の身に起きた事、元の世界に戻るための方法、ただ、積極的にそれをしたい訳では無く、何か別の方法を考えるために協力して欲しいことを。


今までの人生で行ってきた交渉の経験上、多少飾り立てる位なら言葉は乱れない自信はある。

だが嘘をつけば、やっぱり言葉は乱れる。

乱れればそれは相手の心情に不信を呼ぶ。


アタル君だけと話していたなら、転生者という前提条件を持つなら、この話の流れは間違いではなかったと思う。


ただ、その時この話が聞こえている相手は、アタル君だけでは無いという事を失念していた。

情報不足からの思い込み、“殺す”という単語だけを聞き取り起きる早合点。

人が増えれば増えた分だけ、そういった思いを持つ人間が増える。


アタル君が何かを答えるよりも早く、猫耳娘が飛び出す。

地を蹴る音は聞こえていた。

俺は左斜め後ろに軽くステップで下がりながら、右手の甲で自分の体の外側へ細身の剣を払いながら受け流す。


「つまりお前は、アタルを殺そうとしてるにゃ!

それだけで、十分アタシ等の敵にゃ!」


「いや、そうならない為に話し合いをですね……。」


“痛ぇ”と思って手の甲を見ると、手の甲に血の線が出来ていた。

(かわ)してこれか。

転生者だけでなく、物語の主役級を舐めてかかるとヤバいな。


「その身のこなし、やはり俺をだまし討ちしようとしたのか!

ありがとうジェネ!助かった!」


いやいや、何でそうなりますのん。

まぁでも、“お前を殺す”といきなり言われて“胸キュン……”なんて、普通はならねぇか。


アプローチ間違ったかなぁ。

しかし、悔やんでも仕方ない。

今はこの場を切り抜けなければ。

慌てて胸ポケットに右手をあわせ、マキーナを起動する。

上手くいかない落胆が、心にのしかかるのを感じながら。

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