260:名乗り上げ
「オカマ!まだか!?」
「焦らせないで!!
これでも急いでるんだから!!」
焦りから思わず言葉は出てしまうが、ヘーファイトスの動きは早回しのビデオを見ているようだ。
自身のバトルユニットからも部材を取り外し、魔法で次々と部品の形を変え、組み上げていく。
「でもセーダイちゃんから聞いて、作れば作るほど、アナタ達の世界ってこういう道具技術が進んでいるのを感じるわぁ。
正直、何でも道具で解決出来ちゃうんじゃない?」
ヘーファイトスが、作業のスピードを全く落とさずに、それでも感心したように呟く。
「俺から見りゃ、それでも魔法の方が便利に見えるがね。
実際、何でも有りだ。」
言葉を紡ぎ、よく解らん“魔力”を練り上げて物理法則では説明つかない事象を引き起こす。
言ってみればそれ自体が、出来ない人間から見れば不正能力みたいなもんだ。
「そうね、結局、どっちもどっちみたいなものよね。
さぁ、出来たわよ。」
左腕に、もはや義手では無くなった義手パーツを取り付ける。
口頭での説明なのに、ヘーファイトスは俺のイメージをほぼ再現してくれた。
最初の一発目だけは手で込めざるを得ないが、薬室に弾丸を装填し、ボルトを下げてからマガジンをセット。
左手首の下についた引き金に、右手の指をかける。
ロングバレルライフル。
それも、セミオートのライフルを、この短期間で仕上げていた。
試しに遠くのシリンダーに向けてトリガーを引くと、擊芯が弾丸の雷管を叩き、弾を発射する。
発射時のガスの一部を戻し、ボルトが後ろにスライドしつつ、薬室の空薬莢を排出。
スプリングの力で戻ろうとするボルトの一部が、次の弾薬を押しだし、また薬室に弾丸が装填される。
「おし、良い出来じゃねぇか。」
「あ、待ってセーダイちゃん。
一応オマケパーツって事で、銃身の支えも作ったから。」
そういうと、細長い棒を銃身に取り付け始める。
流石に2脚のバイポッドとはいかないが、それがあるだけで随分安定する。
気の利くオカマだと思いながら、へーラー達の戦いを目で追う。
高速移動しながら剣を打ち合う2人を追いかけるのは容易なことではない。
「でも、本当に当てられるの?
あのスピードを捕らえられるの?」
「そんなもん、左手に銃付けてたらこう言うしかないだろ?
“サイコ銃は心で撃つんだ”ってよ。」
俺は自信ありげにニヤリとしながら答えるが、“精神魔法なんて使ってないわよ?”とヘーファイトスは不思議そうな顔をする。
まぁ違う世界のお話だ、通じなくても仕方がない。
俺は心を静め、激しく戦い合う2人に狙いを定める。
「ハハハ、どうしたアストレア!!
動きが悪くなってきているぞ!!」
「「ぬっ、このっ……!!」」
遂に打ち合いに負け、アストレア・アストライアが弾き飛ばされ、幾本ものシリンダーを破壊しながら壁に打ち付けられる。
その衝撃で剣を取り落とし、ガクリと膝をついたその瞬間を、へーラーは見逃さない。
「ハハハ!終わりだ!
貴様の正義は無駄だったな!
愚かな人間には、貴様の言葉なぞ誰一人届くことは無い!!」
恐ろしいほどの速度で距離を詰めると、うなだれた頭めがけて剣を振り下ろす。
「いるさ!ここに一人な!!」
来るべき場所は解っている。
剣を振り下ろすことも解っている。
ならば後は、マキーナに頼るまでも無く、そこを狙えば良い。
ついでにそんな事を言われたら、そこまでお膳立てされたら、もう有名なあのセリフを言うしか無いだろう。
俺の叫びと共に放った銃弾は、へーラーの左腹部に命中し、そして貫通する。
「ぐっ!?」
剣の軌跡も僅かに逸れたが、完全に外れはしなかった。
振り下ろしていた剣は、アストレア・アストライアの頭ではなく、左肩に突き刺さる。
「「ぐあっ!」」
「クソッ!」
俺は焦りながらも僅かに体を動かし、狙いをへーラーの胴体に向けながらすぐにトリガーを引く。
狙いも完全に定まらないまま立て続けに乱射したが、数発はへーラーに命中したようだ。
たまらず、へーラーもその場から飛び退る。
俺は左腕のライフルを抱えたまま、アストレア・アストライアの元へ駆け出す。
「マキーナァ!!」
<モード・正義の女神、権限を移行。>
こちらに向けて飛んでくる、光に包まれた金属板を右手でキャッチする。
「マキーナ、変身だ!」
<通常モード、起動します。>
光の線が俺の体を縦横無尽に走る。
線との間が輝き、光が収まると黒い装甲が俺の全身を包む。
左腕の即席ライフルも包まれて、手甲の下から銃身が突き出す。
最後に、背中にブースターのようなモノが生え、そこから黒い翼が展開される。
黒い翼とか、“厨二病も良いところだな”と思ってしまい若干恥ずかしくなるが、ここはグッと我慢だろう。
<特殊モード、展開完了しました。>
『さぁ、続きと行こうか、へーラー。』
全身の傷を治したへーラーが、忌々しげにこちらを睨む。
右手に持っていた剣だけでなく、今度は左手にも剣を出現させる。
「キサマ、何故邪魔をする!
キサマはこの世界に関係の無い住人なのだろう!
なら、そこのカスミから能力を奪い、サッサと消えろ!!」
俺はチラと後ろを振り返る。
見れば、肩口を斬られたアストライア嬢を、ヘーファイトスが回復してやっている。
アストライア嬢は、痛みをこらえながら、真っ直ぐな瞳で俺を見ていた。
『そうだな。俺はこの世界の住人じゃない。
あの、神を自称する存在に会うために、奴の頼みを実行して回る、唯の異邦人だ。』
「……ほう、ならば、妾と目的が一緒ではないか。
共に力を合わせ、あの原初の混沌の空間に向かわぬか?
そうすれば、お互い目的を果たせるではないか?」
へーラーは、最初に出会ったときのような穏やかで優しい笑みで俺を諭す。
俺がもう少し若ければ、そしてもう少し事情を知らなければ、その誘いに乗ったかも知れない。
『断る。
俺はハッピーエンド厨なんだ。
……俺はな、あの神を自称する存在に会うためとはいえ、“異なる世界で、今度こそ幸せに暮らしたい”という転生者の希望を踏みにじれるほど、まだ堕ちちゃいねぇんだわ。』
元の世界に帰りたい。
その為なら、こんな転生してワガママ放題生きているガキを踏みにじった所で、別に文句は言われないだろう?
何度そう思ったことか。
何度そうしたかったことか。
それでも、俺にそうさせなかったのは、“異なる世界で必死に今を生きる人々”の姿を見ているからだ。
そうで無かったら、あの神を自称する存在が言ったように、とっくに何処かの世界を丸ごと破壊して、そのエネルギーを抜きとっているだろう。
『悪いな、俺はお前のような道は行けない。
“目的のための手段も慎重に選んで行動する”派なんだ、俺はな。』
「フン、原初の混沌の使徒にしては、キサマは随分と不出来な存在だ。
それではアレも嘆こうというものよ。
アレに代わり、不様な使徒は私が排除してやろう!」
心動かされる事無く、左前の構えに静かに構える。
『俺は俺だ。
唯の人間、名前は田園 勢大だ。』




