25:発見
騒がしくなりだした町の喧騒で目を覚ます。
この世界、時計が無いのが不便だった。
外を見ると日がやや高めに上がりつつある。
(9時か、10時くらいなのかなぁ?)
太陽の位置と腹の減り具合からそんなことを思いながら、のんびりと身支度をし食事を取る。
いつも通りに荷造りをし、いつも通りに宿を出る。
だが、今回はいつも通りにギルドへは行かない。
町中で酒を2本程買い、後は真っ直ぐに北部の村に向かう。
マキーナはズボンのポケットに移してある。
出会ってどうするか、具体的には決めていない。
まずは話をしてみよう。
後の成り行きは、それこそ成り行き任せだ。
村に着くと、先日来たときとは違い、珍しい鉄鎧姿の騎士達が至る所にいた。
「待て、今この村は我々騎士団が一時的に逗留している。
用なくば早々に立ち去られよ。」
村に入ろうとした俺を警戒し呼び止める。
「あぁ、そうなんですね。
先日の依頼で村長さんにお世話になったから、御礼に酒持ってきたんですが。」
「そうか、そういった付き合いも大事であるな。
だが今はむやみに人を入れられん。
それは我等から渡しておこう。」
この辺の依頼を受けておくべきだったか。
ちょっと失敗だったかもしれん。
だが、ここで事を荒立てても仕方が無い。
渡そうとしたとき、後ろから呼びかけられた。
「おぉ、君はエル先生のご友人のセーダイではないか。
ここで何をしている?」
振り返るとそこにいたのは、俺が最初に王都に来たときに門番をしていたカイン氏だった。
俺がざっと事情を話すと、笑いながら仲間に何かを話す。
俺を呼び止めた男も、“うむ、そういうならば”と呟き、俺に村の中へ入ることを許可してくれた。
「非常事態ゆえ、許せ。
依頼後の村への気配り、個人として感心いたす。
通れっ。」
“役割”と“本音”の狭間なのだろう。
村の入り口を守る騎士に礼をし、村長の家に向かう。
道中も似たようなことがあるからと、カイン氏が付き添いとして同行してくれた。
ふと思い出し、以前王都に向かう途中革鎧の騎士とすれ違ったことをカイン氏に話すと、この国の騎士に関して教えてくれた。
領地内の治安警備をする部隊には革鎧が支給されており、門の防衛や国防に関することは鉄鎧が支給されているらしい。
(まぁ、警察と軍隊みたいな違いなのかなぁ?)
と俺の中で知識に当てはめる。
どちらにしても、俺が見た騎士はいずれの人も高潔だった。
その事をカイン氏に伝え褒めると、
「現場の人間はね、大抵の奴は、皆人々の規範であろうと頑張るからね。」
と、少し寂しそうに笑っていた。
あぁ、まぁそういう事か、とすぐに理解できたが、それ以上は名誉のために言わないでおいた。
以前に俺が野営をしたとおぼしき辺りに、一際デカいテントが張られていた。
恐らくアレが本丸かな、と思い、“あのテント、何か一番大きいですね”と、それとなくカイン氏に話を向ける。
「あぁ、勇者サマ御一行が中で今頃よろしくやってるんじゃないかな。
なんなら君も覗き見るかい?
僕は遠慮しとくけど。」
必要以上の情報に思わずドン引きですよ。
そんな心の声が顔に出てしまったのか、カイン氏は俺を見ると噴き出した。
「あっはは、冗談だ。
安心しなよ、そんな事にはなっていないだろうさ。
アレなら村の子達の方が遙かにマセてるよ。
ただ、覗き見れば2~3日は口から砂糖が出続けるくらいだ。」
俺は苦笑いを浮かべながら、申し出は慎んで御辞退させて頂いた。
そんな風景見せられたら、士気が下がりそうだ。
まぁ大体の位置は把握した。
夜になり、村の外側から回り込んであそこに行ってみるか。
アハンウフンの最中でないことだけを祈ろう。
その後村長の家につき、大変な事態になってしまったことを詫び、酒瓶を渡して引き上げることにした。
途中村長から、折角なのだから今晩泊まっていかないか、とありがたい誘いも受けたが、それは遠慮しておいた。
本当はそれが一番やりやすいのだが、俺自身の心が、ここまで通してくれた人達の気持ちをこれ以上裏切れなかった。
優しい世界は、その優しさが辛いと知った。
夜になり、村から少し離れた位置でマキーナを取り出す。
念のために、スーツに着替える。
ジャケットが風にたなびきながら、右手にマキーナを握りしめる。
「起きろ、マキーナ」
<マキーナ、起動シマス>
全身を赤い光が走り、僅かな光と共に全身を包む黒い姿となる。
今夜は月明かりが出ているが、風がある。
姿勢を低くし、走り抜けるには絶好の条件だった。
腰を落とし素早く走り抜ける。
途中警備している騎士にあったが、その場合は伏せて進み、風が草原を揺らす音と共に切り抜ける。
森林の入り口側から目的の大型テントに近付き、伏せて状況を観察する。
10人くらいは楽に入れそうだが、これでもかと目立つ真っ白な色の大型テントからは、若い男女の楽しげな声が聞こえる。
周囲に歩哨として騎士がいる様子も無し。
すぐ近くにテントも無いことから、俺は思わず“何だ?何で警備の騎士がいないんだ?”と呟いていた。
これでは、このテントに何かあった場合、絶対にすぐに駆けつけられない。
むしろ狙って下さいと言っている様なものだ。
そんな考えを巡らせていたからか、彼等の話し声が聞こえなくなった事に気付くのが遅れた。
次の瞬間には、テントから彼等が飛び出し、隠れている俺の方へ向けて武器を構えていた。
「いるんだろう?出てこいよ。」
最悪の接触だが、元々テントまで来てからどうするか考えてなかったのだ。
丁度良いかと思い直し、伏せるのを止めて立ち上がる。
「ほ、ホントにいたんだ!?」
「アタシの耳を信じてなかったのかにゃー!?」
女の子達から驚きの声と抗議の声。
展開した彼等を見れば、左から杖を構えた少女、剣を構えた、先程抗議の声を上げた猫耳少女、剣と白銀の鎧を身につけた男の子、そして先程の驚きの声を上げた、錫杖を持つ女の子だった。
猫耳少女以外が、俺の姿を見ると改めてこちらに構え直す。
俺はそのまま歩み寄り、それなりに普通に話せそうな距離にまで近付いた。
「こんなナリをしているが、怪しいもんじゃ無い。
……と、いっても信じられないだろうから、今装備を解く。
攻撃するなよ。
マキーナ、戻れ。」
<マキーナ、解除>
全身鎧姿を止め、スーツ姿になる。
男の子が、驚きの表情を浮かべる。
「俺もその、なんだ、この世界の住人じゃない存在でね。
田園 勢大という。
君がキタミヤ アタル君か?」




