表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界殺し  作者: Tetsuさん
転換の光
258/833

257:世界の意思

(チッ、意外に難しいな。)


加速した世界、重たい体、一瞬の空気穴。

左腕に仕込まれた銃を撃ち込もうにも、照準を合わせる間に空気穴は閉じる。


エネルギー残量を気にする必要は無いとは言え、集中力は徐々に落ちていく。


カスミちゃんの魔法は尽きることなく、細々とした魔法が絶え間なく降り注ぎ続けている。


<セーダイ、このまま続けていても、先にこちらのエネルギーが尽きる事が予測されます。>


煮詰まりかけた状況に、マキーナの警告。

それを聞いて、ふと思い付く。


(マキーナ、お前、俺の左腕をコントロール出来るか?)


<可能です。>


次の瞬間、鞭を振るいながらもやりたいことのイメージを思い浮かべる。

マキーナは即座に了承し、左腕の先の感覚が無くなる。


<今までの行動パターンから、予測を開始します。>


次の瞬間、発砲音と共に左の人差し指から銃弾が飛び出す。


鞭が当たり、俺がそれを引く瞬間、空気穴が開く。

だが、先読みで放たれていた銃弾は周囲の壁に跳弾し、その空気穴から内部に飛び込む。


飛び込んだ銃弾は、カスミちゃんの頬を掠める。


「……何?」


掠めた頬から滲む一筋の血を手の甲で拭いながら、カスミちゃんは信じられないモノを見る目でこちらを睨む。


<予測します、今。>


『驚いたか?

お前のその技、やっぱり弱点があるって事だ。』


その会話を続けながらも、マキーナの予測射撃が撃ち込まれる。

今度は背面の足元に開いた空気穴だったが、やはり跳弾で下から上に向かい飛び跳ね、カスミちゃんの背中を掠める。


「うぐっ!?」


『ハハッ、良いのか?

段々致命傷に近付いているぞ?』


3発、4発と撃ち込まれると、流石にカスミちゃんも焦り出す。


<予測します、今。>


「舐めるな、こんな弱点、始めから気付いていた!

対策として、更なる完全な防御にすれば良いだけのこと。

“壁よ、完全に我を包め”

……フフフ、どうだ、これでお前の攻撃が通る可能性は0だ。」


マキーナの弾丸は、発生しかけた空気穴に届き、そして穴を覆う膜に弾かれる。


よし勝った。


俺は加速を止め、鞭を振るうのも止める。

手元に引き寄せた鞭は、もうボロボロになっていた。

マキーナが強化してくれたとは言え、基本はこの世界の素材を使っている。逆に、よく保ったモンだと心の中で鞭を褒めてやる。


『お前の言葉は、あの神を自称する存在から与えられた不正能力(チート)で、それはつまり力ある言葉だ。

ならばそれは、本当なんだろうな。』


両手を広げ、肩をすくめる。


その姿を隙だらけだとでも思ったのか、相変わらず魔法を連射してくる。

だが別に俺とて隙を見せたわけじゃ無い。

それらを全て叩き落とし、電撃魔法は内受けからの払い受けで正面に真空の空間を作り、周囲に拡散させる。


俺が防御に回ったことに気を良くしたのか、カスミちゃんも魔法を打つ手を止めて、腰に手を当てる。


「フン、貴様もようやく私に勝てないと理解したか。

これから、お母様による宇宙開闢が始まるのだ。

無駄なことはせず、大人しくしていることだな。」


『宇宙開闢?

へーラーは何考えてやがるんだ?』


自らの絶対優位を悟ったからか、非常にありがたい事にカスミちゃんは饒舌になる。

俺も、内心を隠しながら焦ったようなフリをしつつ、話を促す。


「フフフ、知れたこと。

お母様は創造神に反逆するのだ。

お母様は俺の元の世界の話や、転生させて貰った時に創造神に会った話をよく聞いてくれた。

俺の想いや悩みもな。

だからこそ、お母様が全てを手配してくれたのだ。

この世界の力を全て束ね、お母様は創造神の元に向かわれる。

そうして、アイツに成り代わり、全ての世界を支配する、絶対なる唯一神となられるのだ。」


こりゃまたすげぇ。

そんな規模のデカい計画を考えてやがったのか。


『ん?ちょっと待てよ。

へーラーが神の元に向かうって、お前はどうなるんだ?』


「俺は、ただ幸せな恋愛をしたいだけだ!

お母様は、それを約束してくれた!

ユーピテルで束ねたエネルギーを、俺という器に入れてお母様が取り込む!

それでお母様は創造神の元に辿り着くのだ!」


いやいやいや、お前取り込まれとるやん。

思考がコントロールされてるのか?

自身がどうなるか、正常な判断が出来ていないな、コレは。


しかし、コイツは驚いた。


今までも、転生者が神への反逆を考えたことはあった。

俺が飛ばされる世界は、基本的にはそう言う世界だ。

あの神を自称する存在は、言葉では“死にたくても死にきれない転生者の救出”と謳っていたが、実際はアレに盾突いた、またはその前兆がある世界に俺を送り込み、メチャクチャにしたかったのだろう。



しかしこの世界では、“世界そのものが反逆を企てている”と言うことだ。

ギリシャ神話モチーフと言う、神の存在が身近な世界観だからか。

まぁ、ギリシャの神様とか、結構自由奔放だからなぁ。


「カスミ陛下、お覚悟……って、セーダイ?

もう着いていたのか!?」


センサーの反応を見れば、アストライア嬢とアレス皇子が到着してしまったようだ。

本当は彼等が来る前にケリを付けておきたかったが、とは言えどうしようも無い。


『手出し無用!』


俺は振り返ることなく、2人に伝える。

ただ、これは見方を変えればラッキーとも言えなくも無い。

カスミちゃんは、少しだけ警戒を強めてくれる。

恐らく、あの“アストレア”の力を警戒しているのだろう。


「フフフ、コヒュ、あの時の3人がこうして、コヒュ、俺の前に揃ってくれるとはな。

コヒュ、あの時の雪辱、ここで果たしてやろうか。」


カスミちゃんは随分と息苦しそうにしている。

言葉を発しながら、何度も呼吸を繰り返し、そしてその息苦しさを解消できずにいる。


『……なぁ、カスミちゃんはさ、英語で“母”ってタイトルのテレビゲーム、やったことあるかい?』


「な、コヒュ、何の事だ?

そんなモン知らん!コヒュ……。」


まぁ、あれも俺が小学生くらいに流行ったゲームだからなぁ。

流石に知らんよなぁ。


『まぁ、そのゲームにさ、子豚的な名前の敵が出て来るんだ。

そいつは悪いんだけど、どこか憎めなくて良いキャラなんだよ。』


「そ、コヒュ、それが、どうした!!」


カスミちゃんの視線が揺れる。

そろそろ限界か。


『そのゲームの、2作目だったか、3作目だったか。

遂にその子豚は敵になるんだけどさ、戦闘中に“絶対無敵カプセル”みたいなモノに入っちゃうんだわ。

だけどそのカプセル、欠陥があってさ、“1度入ったら外からも内からも開けることが出来ない”んだよ。』


「……俺が、それだとでも……。」


最早息も絶え絶えだが、中々に勘は鋭いらしい。

俺が言いたいことに、すぐに気付いた様だ。


『その“絶対無敵カプセル”さ、俺思うんだよね。

“どうやって空気を取り入れているんだろう”って。

どんなに防御力があっても、完全密閉されてりゃ、いつか酸素がなくなって死んじまうよな?』


カスミちゃんの目が、驚愕で見開かれる。

自分の身に何が起きているのか、やっと理解した様だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ