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異世界殺し  作者: Tetsuさん
転換の光
253/833

252:王都に向けて

「……で、何で俺が奴隷扱いなのかねぇ。」


フォスの街近くの村にいたときにも見た奴隷運搬用の檻の馬車、その中に俺はいた。


「しょうがないじゃない、今の王都に入るのは、一筋縄じゃ行かないのよ。

アタシだってこんな格好、あんまりしたくないのよ?」


檻の中には俺以外、そう、ヘーファイトスも同じ様な格好で乗っていた。

ソレを運搬するのは、アストライアとかつての仲間達。


「それにしても、お姉様が御無事で何よりでしたわ。」


「あぁ、まさかユーリとフレアの2人もこちらに居るとは思わなかったぞ。」


アストライア嬢に嬉しそうに話しかけるのは、あの迷宮で、1年前に共に戦ったあの女騎士達だった。

赤毛の女騎士、フレアって名前だったんだ……。


あ、いや、そんな事はどうでもいいのだが、彼女達から話を聞くと、アストライア嬢はあの戦いにおいてへーラーからカスミちゃんを殺そうとした犯罪人扱いされており、“名誉男性”という謎の称号を受けているらしい。

そのため、アストライア嬢直属の部隊である彼女達も、“戦犯部隊”と言われ、酷い扱いを受けていたとの事だ。

ただ、完全に騎士の称号を剥奪されたわけではないらしく、今回プロー領への偵察、男狩りの使命を受けて出陣していたらしい。


だが、アストライア嬢と近しかった彼女達は、流石に今の体勢に疑問を持っていたらしく、内々でアレス皇子と接触していたとのことだ。


「アタイ達はまだ王国で騎士身分だからな。

王国に戻り、アレス皇子達の部隊を呼び込むまでだ、勘弁してくれよな、セーダイさん。」


赤毛の女騎士が、併走している馬上でニシシと笑う。


「どうだかねぇ、いざ王国に入って俺を突き出して良い報酬が入ったら、また裏切るんじゃねぇか?」


檻の中から、自分でも憎まれ口と解りながらぼやく。

だが、赤毛の女騎士は、その言葉に真剣な顔を返す。


「今更こう言っても信じちゃくれないだろうがな、アタイはアンタとアストライア様の関係を羨ましく見ていた。

男が、とか、女が、とかでない、対等な関係。

それが凄く羨ましかった。

今の王国は、何というか歪だ。

無理に男を貶めて、それで満足しているようにも見える。

……この方法が正しいかは解らない。

でも、我等の団長が信じる正義を、アタイも信じたくなったのさ。」


赤毛の女騎士はそう言うと、少し照れたように鼻をかく。


「それに、“騎士は弱者の盾”だろう?

王国が弱者を踏みにじるなら、それから身を挺して護るのも、騎士の役目なんだろうからな。」


「……そうか、悪かったよ。」


俺はため息をつくと、左腕の義手に仕込んである棒手裏剣の本数を確かめる。

義手はヘーファイトスに直してもらった。

オマケの機能で、リボルバーの弾倉も仕込んである。

人差し指を伸ばせば、銃としての機能も使える。

多分、今のままでこれを使うことはないだろう。

だが、“通常モード”になればかなり有効な武器になるはずだった。


「あぁ、そう言えばお嬢、あの砦で見つけた武器、ちゃんと積み込んであるんだろうな?」


「あ、あぁ、それは積み込んであるぞ。

しかし、お前あれを使うのか?

やはり、あまり想像出来んが……。」




砦での会談、それは結局の所、アストライア嬢の発言が決め手だった。


「私は、あの時地下でユーピテル殿が“装置”として使われているのを見た。

あれは、魔法を使う人間の禁忌に触れる所業だ。

私は、アレを止めたい。

その為に王国に反旗を翻す事になっても、私はアレを止めたいと思っている。

私は、私の正義を信じたい。」


「ならば、我々と行動を共にして貰えないだろうか?

我等も、カスミ王の圧政をこれ以上見過ごせない。

私も王国の皇子として、このまま国が腐り落ちていくのを、ただ黙ってみていることは出来ない。」


会談が終わり、アレス皇子の引き連れる部隊と改めて合流した際、アストライア嬢の部下だった2人とも会うことが出来たようだ。


再会を喜ぶ彼女等を見つつ、俺は武器庫へと向かう。

王都に殴り込みをかけるなら、多少は使えそうな装備を手に入れておきたいと思ったのだ。


(……あんまり、良い鋼を使った武器は無さそうだなぁ。)


武器庫に入り、幾つかの武器を見ているときに来客が現れる。


「あら、やっぱりここに居た。

セーダイちゃん、左手の調子はどう?

良ければ直してあげちゃうわよ。」


ヘーファイトスに左手の義手を外して渡すと、何でもプロー領で新しい技術を得たらしく、手の甲にリボルバーの弾倉を組み込めそうだという。


「もうスッゴいの、プロー伯爵、金属の筒で火薬と弾を込める方法を開発しててね、ソレを使えば、簡単に弾薬が持ち運びできたり、事前に作り置きが出来たりするのよ。

その技術と、アレス皇子の持っていた破魔の腕輪の効果を解析してね。

“弱い魔法防御なら貫通出来る”弾丸が作れたのよ。」


この世界に、薬莢の概念がとうとう出て来てしまった。

しかも、魔法防御を貫通する弾丸とは。

これは、後々まで尾を引く厄介事になりそうだ。


ともあれ、今は素直にその技術革新を喜ぶべきか。

俺は左手の改造を任せると、引き続き武器漁りを始める。


「あ、これ良いな。」


見つけたのは革製の鞭。

伸ばしきると俺の身長の2倍以上ある。

全長が3m以上はある鞭を見つけることが出来た。


「アラヤダ、セーダイちゃんって、そう言う趣味があったの?」


おいこらオカマ。

人をアブノーマルな趣味持ちみたいに言うんじゃ無い。

ちゃんと冒険家の考古学教授も愛用している、れっきとした武器なんだぞ。


「んな趣味はねぇよ。

こう見えて、人間相手にゃ想像を絶する武器になるんだよ。」


時代劇モノで目にする鞭打ちの刑、という拷問がある。

アレも10回だの20回だのと、意外に少ない回数に思えるかも知れないが、実際はそれでも十分絶命しうる回数だ。

それは、どんなに肉体を鍛え上げた人間でも同じ事。

人間の体というモノは、“強烈な痛み”に耐えられるようには出来ていない。

強烈な痛みを受けるとショックで死んでしまうくらい、人間というのは実は脆いのだ。


武器庫を出て、砦の柵に攻撃を当てる練習をする。

力の加減、鞭の軌道。

マキーナ先生の軌道予測というズルはあるものの、俺はすぐに体感的に鞭の振り方を覚えることは出来た。

想像なら、恐らくカスミちゃんとまた対峙することがあると思う。

その時、これはきっと役に立ってくれるだろう。




「まぁ、見てなってお嬢。

上手く行ったらめっけモン、位に思ってくれてて良いからよ。」


檻の中で寝転びながら、アストライア嬢に声をかける。

アストライア嬢は、真剣な顔で何かを呟いていた。


「いや……しかし……、セーダイがそう言う趣味なら私も受け入れた方が良いのか……?」


そろそろ本気でしばくぞお前等。

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