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異世界殺し  作者: Tetsuさん
転換の光
238/833

237:国の母

「ようし! 後少しで城門が崩れ……。」


叫んでいた男の後頭部を、左腕の義手で殴り飛ばす。

金属で出来た義手は、傷のひとつも出来ていない。

ヘーファイトス氏は、見た目はアレだが良い仕事をしてくれる。


数人の男がこちらに気付いたので、一気に間合いを詰めると鳩尾、首、側頭部へとそれぞれ膝と拳を叩き込み、黙らせる。


「お嬢! 俺だ!」


「待て! アレは私の従者だ!」


顔を出して手を振ると、危うく魔法で撃たれそうになったが、すんでの所で気付いて貰えた。

俺は急いでアストライア嬢の元に駆け込むと、状況を確認する。


流石はアストライア嬢、敵の攻撃の特性を見抜き、光の盾ではなく土魔法で、半円を描くように胸くらいまでの高さの壁を作っている。

これなら土嚢代わりに、銃弾も防ぐことが出来る。


「セーダイ! 無事で良かった!

ここに来るまで、状況はどうだった?」


お互いに知り得た情報を交換する。

城下町に散っている騎士達は壊滅状態であることを俺から。

城門前はお嬢の機転でこの土壁で陣を張っているが、攻撃が厳しくてこれ以上前には進めないことをお嬢から。


お互いの情報を知れば、この場所が孤立無援の状態にあることは一目瞭然だ。


「それとお嬢、ここに来るまでに嫌な話を聞いた。」


相手の一部部隊、それも皇子が率いる部隊が、城の地下にある施設に忍び込もうとしている、という情報を伝える。


「何? 皇子が?」


アストライア嬢は少しの間、考え込む。

王城内に入り、大臣にまで面会が出来て直接進言出来るのは、この中で階級的にアストライア嬢だけだ。

だが、この局面でアストライア嬢が抜ければ、鎮圧は出来ないだろう。


考えている間も、土嚢に数発の銃弾が着弾する。


「アストライア様、今現在攻撃が激しく、思念魔法もそこまで長距離は飛ばしづらい状態です。

ここはアタイ達に任せて頂き、御身は王城に向かわれた方が良いのでは?」


迷宮でユーリ嬢と一緒にいた、あのガサツな女騎士が悩むアストライア嬢に進言する。

迷っていたアストライア嬢も、その言葉が決め手となり、決意したようだ。


「よし、お前達にここを任せる。

無理はするな。

第1に考えるは住民の安全だ。

最悪、城門を通りたいならば通して構わん。

それとセーダイ、共に来てくれるか?」


俺も、この状況では皮肉は言いづらい。

転生者を狙いたくはあるが、“皇子が何をするか”も興味深い。

ここは素直に頷く事にする。


「そうと決まれば話は早い!

アタイに任して下さい!

道を作りますよ!」


ガサツな女騎士は、土嚢の裏で魔力を練る。

コンビとして手慣れたモノらしく、ガサツな女騎士が両眼を開いた瞬間、ユーリ嬢が光の盾を張ると、ガサツな女騎士は立ち上がり、右腕を突き出して構える。


「“爆炎よ! 舞え!”」


一瞬、それが魔法の音だとは思えなかった。

電動ノコギリの様な連続した轟音が響いたかと思うと、伸ばした手の先から続々と射出される炎の魔法。

雨あられと吐き出される小さな炎の弾丸は、周辺の残骸や建物を薙ぎ払う。

あの迷宮では見たことが無かったが、それも少し納得できる。

この女騎士の魔法、もはや対軍レベルの魔法だ。

もはややってることが重機関銃での分隊支援レベルだ。

あの狭い迷宮では、こんな魔法の出番は無い。

ただのガサツな兵隊だとばかり思っていたが、その能力はやはり騎士、と言うことか。


「今だ! 行くぞセーダイ!」


アストライア嬢は駆け出し、隠すように停めていた馬に跨がる。

俺も慌ててその後ろに乗ってしがみ付く。

しがみ付きながら後ろを振り返れば、あのガサツな女騎士の放たれる魔法で、反乱軍は頭を上げることすら難しい状況のようだ。


(なんてぇ魔法だ。……本当に重機関銃みたいだぜ。)


ただ、撃ち終わってドッと倒れ込む女騎士をユーリ嬢が支えている姿が、最後に辛うじて見えた。


(なるほど、流石に大技なのか。)


やはり魔法は強大であるし、その時代の文明から何世代も先の技術を再現している。

とは言え、やはり人の内にある力を使って魔法は行使される。

今後、火薬や科学技術が発展していった場合、魔法も過去のモノになる日が来るのだろうか。

城門の方を振り返りながら、そんな想いに囚われていた。


「……あ、あのだな、セーダイ。」


「ん? なんだお嬢? 何処か怪我してるのか?」


先程の走り抜けた際、予想外の弾が命中していたのか?

俺は慌てて左腕でアストライア嬢にしがみ付き直し、右手で腰回りにの被弾が無いか調べる。

見たところでは、血液の流出は無い。


「ち、違う!……そ、そんなにくっ付かれると、その……。」


あー、何だろう。

スン、ってなったわ。

怪我したのかと思って焦ったわ。


「ズビシ!」


俺は擬音を口にしながら、右手でお嬢の兜にチョップを入れる。


「バカ、非常事態に何考えてやがるんだ。

変なところに意識向けてないで、前見て馬走らせろ。」


「ば、バカとはなんだ!

セーダイがそんなに強く抱きつくのが悪いんだろう!

私は悪くない!」




とても戦闘中とは思えない見苦しいやり取りをしながら、何とか王城までたどり着く。

深夜と言うこともあるからか、城の門は固く閉ざされており、不気味なほどの静寂だった。

何となくこの世ならざるモノを感じる王城に、俺とアストライア嬢は自然と表情が引き締まる。


「我が名はアストライア、王に火急の件があり駆けつけた。

誰でも良い、王、または大臣に取り次ぎを!」


馬から降り、門番へと声をかける。

門番は“こちらに”と、俺達を通用口から中に入れる。

城内を通され、最低限の灯りしか無い応接の間に通される。

そこには、あの転生者と共にいた女性、へーラーが既に座っていた。


「あぁ、アストライア、無事で良かったわ!

反乱が起きたと聞いて、心配していましたのよ!」


へーラーはアストライア嬢を迎え入れ、抱擁と共に優しく声をかける。

アストライア嬢は、すぐさま城下で起きている事象と、俺の聞いた話をへーラーに報告している。



少しだけ、違和感を感じていた。


城下町の入口、城外壁の門が攻撃されているのに、ここは静かすぎる。

それに、アストライア嬢が現れたとき、“まるで事前に言われていたかのような”スムーズな対応だ。

道すがらのアストライア嬢の反応を思い返しても、ニュートラルに感じた。


「して、カスミ陛下は今どこに?」


アストライア嬢の言葉で現実に引き戻される。

そうだ、危機を告げに来たんだった。


「それがねぇ、陛下は月に一度の“お籠もりの日”なので、今は城の地下にいるのよ。

そうだ、アストライアちゃん、ちょっと地下に行って陛下に今のことを伝えてくれないかしら?」


「それは……、それは構いませんが、私の従者のセーダイも共に連れて行って問題無いでしょうか?」


う~ん、アストライア嬢はこういう所あるんだよなぁ。

俺が前に玉座の間で何をやったか、何を目的にしてるのか、もう忘れたのだろうか。

チラとアストライア嬢を見れば、その表情は穏やかで、俺への信頼が滲み出ている。


参ったねぇ。

こういう無垢な心を持つ相手は、いつもやりづらい。

へーラーも、チラと俺を見るが、“アラ、構わないんじゃ無いかしら?”と、優しげに微笑む。


気のせいかも知れないが、それは“娘から彼氏を紹介された母親”の表情によく似ていた。


その意味は、祝福だけじゃ無い、と言うことだ。

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