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異世界殺し  作者: Tetsuさん
光の剣
23/832

22:機を待つ

「武器良し、防具良し、回復に毒消し、雑貨類良し。ついでに現場猫風にヨシ!」


宿の部屋で装備をチェックする。

手慣れた物だ。

宿の主人に、支払った日程以降に帰って来なかったら、部屋の物は処分してかまわない、と定型句を告げると、ギルドに向かって歩き出す。


命を落とすこともある冒険者業の場合、必ずそう言って宿を出るのだ、と、キルッフから聞いた。

以前は宿泊費を払った日付以降も帰ってこない冒険者が多く、死んだと思い宿側が衛士に依頼して、諸々手続きをしてから部屋を空けた後で帰ってきた冒険者と揉めることも多かったため、宿側が損をしないようにと、冒険者ギルドと協議して出来たルールらしい。


まぁとは言え、元いた世界の物は全てリュックに積み込んでるから、部屋にはこの世界に来てから買った衣類が何着かしかないから、別段大した資産があるわけでは無いが。

しかし、そんな日常のやりとりがすんなり出来るようになるくらい、何の進展も無く2か月が過ぎようとしていた。


何度か学院から火柱が上がったり、晴天なのに雷が落ちたりと派手なことが起きているらしかったが、学院の壁向こうは見ることが出来ないので、今はどうすることも出来なかった。


一度、マキーナで全身鎧化して素性を解らなくして、鍛えた力を活用して忍び込もうとしたが、あまり超常的な力を使うのは諸般の事情から止めていた。



「あ、セーダイさん、今日は何を受けられるんですか?」


冒険者ギルドで“害獣駆除”の木札を取り、受付に向かおうとすると、オルウェンから声をかけられた。

今日は人が少ないため、受付は三人全員空いていた。

しかしオルウェンの左の男性からは目で“頼む”と訴えられ、右のお姉さん系からは業務用の笑顔で“隣へどうぞ”の手をされていた。


この世界、話は何もしなくても通じたが、文字の形状が日本語や英語とも違っており、流石に読み書きは出来なかった。

しかもこの世界は紙が出回ってないため教科書のような物が少なく、図書館のような物も無いため、文字の学習には苦労させられていた。


そんな俺でも2か月もすれば“害獣”や“駆除”と言った単語レベルでは何とか少しは読めるようになったが、文章を読むのはまだまだ難しい。

しかしこの世界では俺のように読み書きが出来ない奴は多いらしく、受付に木札を持っていけば、どういった内容の依頼かを受付が読み聞かせてくれる。


……のだが、このオルウェン、そっちも酷い出来だったので、“どう伝えれば良いか”“相手が何を求めているか”“必要な情報は何か”を、新人教育を思い出しながら毎回根気強く教えていたところ、ギルド内で“オルウェンの教育係”のような立ち位置になっていた。

新人教育は是非、そちらで完結していただきたい。

などと思っていたが、他の冒険者から相談されることの多いキンデリックからも「あの子の受付が段々上達してきて、他の冒険者共からの苦情も減ってきててな。悪いがセーダイ、そのまま頼む。」と言われてしまい、仕方なしに引き受けていた。


「今回セーダイさんがお持ちした木札の依頼内容はですね、この王都からやや北部にある畜産が盛んな村でして、そこで繁殖される鳥は飛べないのですがお肉が柔らかくてジューシーで、名産品の1つとしてこの王都にもよく出荷されていて、あ、後は屋台でも凄く人気で……。」


いやだから今そういう情報はいらんねん。

まずは書いてあることだけ読んでよ。


依頼内容を纏めれば、今回の依頼は王都から北部にいった村で、村近くの森に野犬が数頭住み着き、家畜の鳥に被害が出ているから退治して欲しい、という内容だった。

更に細かい場所、依頼人の名前、報酬、依頼達成の条件等、ある程度必要なことを聞く。


村長からの依頼、野犬3匹の駆除、村までここから多分数時間、食料支給あり、報酬は銅板4枚。


まぁ割の良い方かなと思いながら、そのまま受ける。


しかし、ただの犬なら村人でも駆除出来るだろうから、魔獣化してるんだろうなぁとは思っていた。


この世界は魔法がある。

魔法を使うには魔素なるものが必要らしく、それは大気中にも充満しているらしい。

風の吹きだまりや洞窟などは魔素が溜まりやすいらしく、そこで影響を受けた動物が魔獣化という、目が赤く光るようになり人や家畜を襲うようになる、凶暴な存在になるらしい。


まぁ何とかなるかと思いながら、北部の門から依頼の村へ歩いて向かう。

道中でマキーナを起動しながら。



この2か月間、冒険者の仕事をこなしながら、自分の力についても調べていた。

この世界で初めてマキーナを起動した際、視界の左下に[99.78]と映っていた。

丁度魔獣化した猪を退治する依頼で、鍛えた力で一撃殺だった。

変身を解こうとしたとき、左下の数字が[98.12]に変わっていたことに気付いた。

その時は“何だろう?”位にしか思っていなかったが、その後に元の世界のズボンが破れたからマキーナを使って直したとき、依頼のために常人以上の力を発揮したとき、その数字が減ったことに気付いた。

そして、一晩寝ようが飯を食おうが、この数字が減りはすれども増えることは無かった。


“これ、この世界で使える超常的なエネルギーの残量かな?”


という結論にすぐに至った。

パーセンテージだとすると、この手持ちの100%を使い切ったらどうなるのか予想も付かない。

少なくとも転生者に会うまでは温存しなければ、まともな戦いも出来なくなるかも知れない。


起動して今見た数字は、85.61%になっていた。

昨日、試しにマキーナを使わずに超常的な力で魔物化している猪を退治した。

それでも数値が減っていると言うことは、どうやらマキーナは数値が見えるだけで、残量はあくまで俺の物らしい。

いやはや、中々そう上手くは行かないらしい。


村が見えてきたところで、マキーナの変身を解除した。


「こんにちは。

冒険者ギルドから依頼を受けてきました、セーダイと申します。

村長さん、どちらにいますか?」


修理だろうか、養鶏場の小屋を直しているおじさんに話しかける。


「おぉ、冒険者さんか、助かるよ。

村長の家は村の中心の、大きな屋敷だ。

行きゃわかるから、早ぅ行ってやってくれ。」


手を上げて返事をすると、村長の家に向かう。

村長だというお爺さんと話し、依頼が間違いない物と確認。

村の西に面した森の入り口から現れ、鳥を襲って行ったという。

そして、やはり赤い目をしていると。

夜に襲われたことも確認し、夜食として干し肉を数枚と水で薄めた葡萄酒が入った革袋を貰う。

さて、必要なことは大体揃った。

後は結果を出すだけだ。


「月並みですが村長さん。

“冒険者にお任せを”

です。」


では、森の入り口に色々とさせて貰おうか。


夜が来る。

さぁ、イニシアチブフェイズといこうか。


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