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異世界殺し  作者: Tetsuさん
転換の光
221/832

220:謁見

「畏れながら、陛下のご威光を知らせるのはもう十分ではないかと。

この者、このままでは死んでしまいます。

何卒、後の調べは我が“天秤と剣”騎士団にお任せ頂けませんでしょうか。」


この場へ連れてきた責任を感じているのだろうか?

その横顔は青ざめていながら、しかしよく通る声で転生者の女王様へ嘆願している。

だがまぁ丁度良い機会だ、この時間を回復に当てさせて貰おうか。


「畏れ多くも陛下に意見など……。」

「たかが警備兵如きが陛下に……。」

「アストライア、貴様!わきまえよ!」


周囲からのザワつきを、転生者は手を上げることで黙らせる。


「フム、アストライア。

貴様は我々転生者という存在を誤解している。

転生者は転生する際に、神からの祝福、何かしらの“能力(チート)”を受け取っているはずだ。

以前現れたアイツのようにな。

例えば……。

“氷よ、槍となれ”。」


俺の胴体に向けて射出された槍状の氷を、何とか横に転がりながら躱す。

躱すついでに、立て膝立ちに構える。

とはいえ、まだ体中が痺れているような感覚だ。

もう少し、会話を繋いで体を回復させたかったが、狸寝入りはバレていたようだ。


それよりも、気になることを言っている。

この世界も、複数人の転生者が居る世界なのか?


「頑丈なのは認めるがね。

……俺を、お前等転生者と一緒にするなや。

俺は迷い込んだ“異邦人”だ。

お前等の言う、不正能力(チート)なんざ受け取っちゃいねぇよ。」


俺が動けたことを驚くアストライア嬢を尻目に、転生者の女は俺の言葉を聞いて、初めて表情を変える。

不思議そうな、意外そうな表情だ。


「へぇ、君も“異邦人”と名乗るか。

前に来た奴は何て名前だったっけ?ヘーラー。」


「確か……、“ハジメ・オンリ”とか言う方だったかと。」


玉座にしなだれかかる女性が穏やかにそう言うと、“あぁ、そんな名前だった。”と転生者も優しく笑いかける。


「お前と同じように“異邦人”と名乗った奴が少し前に現れた。

だがソイツはお前と違い、嬉々として神から貰ったという能力を説明してきたよ。

だからお前もアイツのように、実は神から能力を受け取っていて、隠しているんじゃないか?

アイツは“お前の能力とこの世界を寄越せ”といって襲いかかってきたぞ?

お前もそうなんだろう?ホラ、攻撃してみろよ。」


電撃のダメージは深刻だが、まだ動けないほどじゃない。

体を起こしながら、転生者を見据える。

奴の言っていることが真実だとして、俺のように世界を渡りながら、転生者の能力を簒奪している奴もいるのか。

しかも後先考えずに能力を奪おうとして、この口調だと失敗したらしい。

なんつう迷惑な存在だ、お陰で完全に疑われているじゃねぇか。


ただ、今それを愚痴っても始まらない。

痛む体でなんとか立ち上がると、改めて構えを取る。


「その何たらって奴は知らねぇが、俺は正真正銘、あの神を自称する存在から何も受け取っちゃいねぇよ。

自力で特訓する時間はあったが、それは別にあの神を自称する存在の権能、って訳じゃ無さそうだったな。」


俺の構えを見ていた玉座の間の人間達から、最初はさざ波のように、徐々に大きくなる嘲笑の声に包まれる。


「まぁ、男の分際で魔法を使うのかしら。」

「違うわよ、アレは古めかしくて野蛮な体術じゃないかしら?」

「あんな物がカスミ様に効くと思っているのかしら。」


転生者が手を上げると、またも場が静まる。


「あぁ、勇敢な愚者よ。

お前は鍛えたその肉体が、私に通用すると思っているのか!

良いだろう、お前の行動を赦そう。

そら、やってみろ。

ただ、“君の攻撃は当たらない”だろうがな。」


静かに腰を落とす。

マキーナは相変わらず変身を勧めてくるが、変身したところで俺の基本的な攻撃能力は変わらない。

それよりも、あの転生者の攻撃を解析させる方に回す。


「そういや、お前の名前を聞いてなかったな。

俺の名は田園たぞの勢大せいだいと言う。」


転生者はあまり興味が無いようにこちらを見下ろすと、ため息のように呟く。


北朝ほくちょう北朝ほくちょうかすみだ。」


言い終わるよりも早く、全力で右拳に意識を集中し、百歩神拳を放つ。

アストライア嬢やこの転生者の魔法の使い方から、“喋らなければ起動しない”のでは無いかと当たりを付けていた。


だが、目論見は外れた。

押された空気は見えない何かに阻まれて、破裂音と共に周囲の埃を舞わせただけだ。


(ダメか、なら!)


全力で前へステップ、一瞬で玉座に座る転生者の前まで間合いを詰める。

退屈そうな表情を崩さない転生者だったが、本当に僅か、目の奥に驚きが読み取れる。


「シッ!」


間合いを詰める速度を殺さぬよう、腰の回転に速度を乗せ、肩へ。

やや拳を捻りこみながらも突きの最速最短、右の順突きを転生者の顔面に叩き込む。


「へぇ、それなりには鍛えてるわけだ。

前の小物とは、少しは違うようだね。」


俺の拳は、転生者まで届いてはいなかった。

後10センチ程度のところで見えない何かにぶち当たり、拳を止められていた。

突き破ろうと力を込め続けてはいるが、阻まれてからはミリ単位でしか拳は前に進まない。


「いやはや、この距離まで近付けた事は素直に驚いてやろう。

その褒美に、良いことを教えてやるよ。

俺があの神から貰ったユニークスキルは“言の葉”と言う。

意を込めた言葉で全てが思い通りになる、まさしく不正能力(チート)と呼ぶのに相応しい力だ。」


「おいおい、霞ちゃん、可愛い名前の割には男言葉とは、おじさん感心しないなぁ。」


初めて、それまで余裕を浮かべていた転生者の表情が強く変化する。

その顔に浮かぶのは激しい怒り。

どうやら、何かの琴線に触れたらしい。


「お前!!

……いや、もうお前の相手は飽きた。

“燃えさかれ”そして“弾け飛べ”。」


次の瞬間、全身に炎が広がる。

掌をこちらに向けてもいなければ、何処から炎が回ったのかもわからない。

炎に焼かれ、苦しむ間もなく後ろに弾き飛ばされ、玉座から床までにある数段の階段を転げ落ちる。


この場にいる人間達が、そんな俺を見てまた嘲笑を浴びせる。


「さて、褒美だ。

これ以上苦しまずに、ひと思いにトドメをくれてやろう。」


玉座から立ち上がると、掌を上にかざす。

その掌の上には、見るからに巨大に膨れ上がる炎の弾が浮かぶ。


「お、お待ちください!王よ!

これ以上は死んでしまいます!

い、今、城下町では男手が不足しております!

これだけの働きが出来る男は貴重かと!

何卒、何卒御再考を!」


火だるまになりながら吹き飛ばされ、蹲る俺を庇うようにアストライア嬢が前に出る。


「アストライアよ、何故そこまで庇う?」


「えーと、あの、その。

……わ、わ、わ、私がこの男を気に入りました!」


いきなり何言ってるのこの娘!?

いきなりのトンでも発言に、激痛の向こう側に行きかけていた意識が、急に戻る。


「カスミ陛下、久方ぶりの妹のワガママですので、姉としては妹に手を貸したくなるのですが。」


慈愛に満ちた表情を浮かべる落ち着いた美人が、ゆっくりとアストライア嬢の側に立ち、転生者を見る。


「は、はは、ハハハハハ!!

そうか、アストライアもそんな年頃か!」


転生者は上に掲げた火の弾を霧散させると、再び玉座に座り、足を組み直す。


「良かろう。

アストライアの言に免じ、この男の処遇はアストライアに任せる。

それで良いな、エウノミアよ?」


「陛下の寛大な処置に、心からの感謝を。」


アストライア嬢の側に立つ美女が一礼すると、仕草で近くの衛兵を呼ぶ。


<解析、完了しました。

もうそれは必要ないかと思われます。>


衛兵が俺を運び出そうと持ち上げかけた時、マキーナの声が頭に流れる。


衛兵に左腕を持ち上げられ、立たせて貰った時に、転生者の前に“それ”を放り投げる。


「……返しておくぜ、女王サマよ。」


先程の攻防の最中に引き千切っていた、マントのボタン。

それが転がったのを見て、転生者は顔を強張らせていた。

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